遠い国の火山が噴火すると、日本でがん検査が止まる!?知られざる“医療の弱点”
海外で火山が噴火した!じつは日本にも影響がある?
2025年6月17日、インドネシア・フローレス島のレウォトビ火山が大噴火。
実はこの火山、2024年11月にも大きな噴火を起こしてる。だから今後も注意が必要なんだけど…
もちろん現地の人たちの無事を願う気持ちが一番大事。
でもこの噴火、日本に住むわたしたちの「命綱」にも影響するかもしれない。
なんと、毎日1000人以上が受けてる医療検査が、何日も、もしかしたら何ヶ月も止まっちゃう可能性があるんだ。
どんな検査がとまるの?
日本では、がんの骨転移や脳・心臓の機能をみるために「SPECT (Single-photon emission computed tomography)」っていう検査がよく使われている。
その検査に必要なのが、テクネシウム99mという放射性同位体・・・同位体って聞き慣れないよね、「元素」だと思って大丈夫!
テクネシウムは人類が初めて人工的に狙って作った自然界にはほとんど存在しない元素。名前ももちろん「テクノロジー」からつけられてるのが物語ってるよね。
この放射性核種、医療検査のために存在するような核種で、
血流にのせれば心臓や脳の機能がわかる
カルシウムのようにふるまわせると、がんの骨転移も見つけられる
っていう優れもの。
テクネシウムの使われ方をもう少し詳しく!
血流にのせるパターン
心臓の血流を見れば、心臓病が見つかる。
脳の血流を見れば、うまく働いてない場所がわかるから、認知症の診断や進行具合のチェックに役立つ。
カルシウムっぽくふるまわせるパターン
がんが骨に転移しちゃうと、不要な骨を作って激しい痛みの原因になることもある。
このとき、がんがカルシウムと一緒にテクネシウムを取り込む性質を使えば、どこに転移があるかがわかるんだ。
こんなふうに使い道がとても広いので、日本では1日1000人くらいの患者さんが検査をうけている。
テクネシウムの重大な弱点・・・
でも・・・テクネシウム99mは放射性物質。
上で書いたように自然界にはほとんど存在しない。
しかも、半減期が6時間しかない・・・つまり6時間経つと量が半分に・・・さらに6時間経つとさらに半分に・・・どんどん減っていってしまう。
冷蔵庫にいれよう!・・・んーん、だめ、ムダなの。どうやっても保存はきかないんだ・・・。
だから病院で患者さんに使う直前にテクネシウム99mは取り出さないといけない。
そのためには「モリブデン99」っていう「親」の放射性物質が必要。これ、だいたい24時間ごとに自然とテクネシウム99mを産んでくれるので、テクネシウム99mの親核種って呼ばれる。
生まれてきたテクネシウム99mは「娘核種(英語だとdaugher)」って呼ばれるよ。なんで息子核種とか子核種じゃないんだろ。ま、いっか。
でも、このモリブデン99も放射性なのでもちろん半減期がある。その半減期は約3日弱。しかも特殊な原子炉で生産するので、日本では作ることができない。
だから結局毎週海外からモリブデン99を輸入しないと、テクネシウム99mが手に入らないってわけ。
モリブデン99は船便では送れない!
そう、遅すぎるのだ!
船便は日本に届くまで何ヶ月もかかっちゃうので、届く頃には量が減ってしまって、すっからかん。使い物にならない。
となると・・・飛行機で送るしかない。
でも!
放射性物質を大量に運ぶわけ。ただ飛ばせばいいというわけじゃなくて、航空経路や手続きなんかが厳しく決められていて、変更も簡単にはできない。
もし、その航空経路が火山などの影響で途絶えてしまったら・・・詰む。。。
1週間も経つと、国内のモリブデン99は半減期に従って減ってなくなっちゃって・・・テクネシウム99mも作れなくなって・・・。
そう、モリブデン99がなければ、テクネシウム99も生まれない。
結局、検査ができなくなってしまう。
この悪夢・・・実際に起きていた!
ここまでに述べてきたこと、単なる予想じゃないんだ。
2010年頃、実際に起きた話。
日本はこの時、もともとカナダから主に輸入していたのだけど、生産していた原子炉が老朽化に伴って定期点検が長引き、モリブデン99がしばらく入手できなくなってしまうことになっていた。
そこで、苦労してどうにか南アフリカから輸入できる体制を整えていたところだった。航路はヨーロッパ経由。
そんな中、2010年4月にアイスランドで火山が大噴火してしまった。
航空機は火山灰にとても弱い。
火山の噴煙の中を飛んでしまうと、2度と修理できないレベルで故障してしまうのだ。
もちろん航空会社はヨーロッパ付近を飛ぶ飛行機を軒並み欠航させた。
もちろんその中には日本にモリブデン99を運ぶはずだった飛行機も含まれている。
カナダに引き続き、南アフリカからも入手できなくなってしまったわけ。。。
それだけに影響はとどまらなかった。モリブデン99の生産炉が再稼働しはじめても日本にはなかなかモリブデン99は入ってこなかった。
なぜだかわかる?
当時、知り合いのアメリカ人が言っていた言葉が印象的だった。
生産地であるカナダからアメリカに輸送するのであればモリブデン99はほとんど減らずに届けられる。
日本まで送ると、輸送している間に半減期で量が1/3になってしまう。言ってみれば、2/3のモリブデンは捨ててしまったのと同じだ。
日本人1人の命はアメリカ人の命の3人分あるのか?
そう・・・人命は人種によらず尊い。
この事実を突きつけられたわたしは
「それでも日本にモリブデン99をください」
とは言えなかった。
世界のどこから見ても遠い日本
わたしたちの普段見ている世界地図では日本は中心に描かれているけど、ヨーロッパからみても、アメリカからみても、カナダからみても、南アフリカからみても・・・めちゃくちゃ遠いのだ。
当時、わたしはモリブデン99を国内生産する新技術を開発するチームに入っていた。わたしたちはやはり輸入に依存した状況を脱却して国内生産するしかないのだ、と研究に血眼になって取り組んだのを覚えている。
現在の状況は?
それから10年以上経過した今。状況は低濃縮ウランを使う方法や、原子炉ではなく加速器を使って生産する方法などが提案され、研究開発は進んでいるものの、あまり改善しているとはいえない。
世界はまだ限られた数の生産炉に依存しきっている。
わたしも核融合炉で世界の需要の半分以上を賄える方法を提案したんだけど・・・う〜ん、競争的資金では採択されなかったし、なによりわたしはアカデミアを退いてしまった。
いま、できること
それでも、わたしには“伝える”という手段がある。
だからこうしてサイエンスライターを目指しているし、noteに記事を書いてる。
ちょっとでも「そういえばそんな話、読んだな」って心に残ってくれたら、それでいい。
関心を持つ人が増えれば、研究も動くし、熱意もつながる。
いまでもわたしはこんな状況を解決するのは、モリブデン99の国内生産しかない、と思っている。
アカデミアを退いた今も、放射性医薬品を製造する技術を開発している研究に注目しつづけているし、応援している。
彼ら、彼女らが支えているのは、もしかしたら未来のわたしの、そしてあなたの命かもしれないから。
参考:Nature誌「Medical isotope shortage reaches crisis level」(2009年)
謝辞
この記事はHikarunさんの伝えてくれた記事をきっかけに書こうとおもいました!感謝!こちらの記事となります!飛行機が火山に弱い理由が詳しく書いてあるのでおすすめだよ!
https://note.com/hikarun2022/n/n3b23e41c6e44
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