忌み地 第三章 壱央
壱央は床の間の人形をジッと見つめた。まるで生きているかのような表情を浮かべている日本人形からは脅威など感じない。背後の廊下からは相変わらず、パタパタという足音が聞こえてくる。視野の端に映るのは、着物を着た童子だった。彼らは楽しそうに廊下を行ったり来たりしている。人形の中に潜む童子のようだった。どうも廊下から童子は出られないようになっているらしい。結界のようなものが施されているのかもしれない。この仏間を作り上げた人物は、明らかに童子を座敷童にするための呪術を理解している。その呪術がいつからこの仏間にかけられたのか、壱央には判断出来なかった。
きっと祖母なら一目で理解出来るだろう。自分は祖母ほど視る力が強くない。
本来ならこの仏間は閉じ込めるために作られた特殊な部屋だ。開かずの間にしたほうがいいと思う。けれど、いつからかその呪術が忘れられて、仏間となってしまったのかもしれない。
人形はおそらく童子を閉じ込める道具の一つだと考えられた。目の前の人形のどれに、童子の霊が入れられているのかわからないが、この家を守るために存在しているのだけは確かだろう。悪い霊かと言われると、そうでもない。しかし、とてもいい霊かと言われたら、それも難しい。きちんと人形を祀り、大切にしなければならないのは確かだ。
奥の壁に立てかけられた木彫りの人形は、一番古そうだが仕立てのいい着物を着せられている。拙い木工細工師によって頭と手足が彫られたようだ。この人形だけが一際異彩を放っていた。
時代が新しくなるにつけ、日本人形も垢抜けていく。江戸時代に入ってからだろうか、人形は市松人形に変わり、古ぼけているが品のいい顔つきをしている。こうして見ていると、人形には気味悪さはなく、家全体が暗いのはたまたまな気もしてくる。
前情報として義父母が自死したことは知っている。その義父母と対話しようと、仏壇の前に正座して念じてみた。
しばらくして背後の気配に気づき、壱央はそれがなんなのか視ようと意識を集中させる。黒いもやのようなものが次第に塊になっていき、人の形になった。畳の上に座するのは、俯いている義父母の姿だった。灰色がかり、薄ぼんやりとしているが確かにそこにいる。二人とも自身が死んだことに気付いてない様子だった。交信してみようと試みたが、二人は壱央の声に応じない。畳を見ているのか、ひたすら俯いているだけだった。壱央は二人に問いかけ続けたが反応は一切なく、結局諦めた。
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