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忌み地 第四章 結花子 ②

 夕方に壱央からメールが返ってきた。そこには、画像を削除してください、とだけ書いてあった。けれど、物的証拠で他人に示せるのはこの画像だけだ。誰にも見せないで削除して怪現象が起こっていると訴えても、信じてもらえない。ましてや夫に理解してもらうのは無理だろう。この画像を夫に見せて、引っ越しのきっかけになればいいと思った。

 夫が興味なさそうに結花子が差し出したスマホの画面を見た。

「何これ?」

「仏間の画像。これ変じゃない? 気味が悪いよね……。この家の怪現象って、これが原因じゃないかな」

「何言ってるんだ。怪現象なんてものはないよ。気のせいだろ。これだってカメラ機能がちゃんとしてなかったせいじゃないのか」

 そう言って、夫はテレビに顔を向けてお笑い番組を見ながら笑っている。画像だけでは夫を説得することは出来なかった。

 夜半過ぎ、夫がむくりと布団から起き上がって、寝室を出て行った。また仏間に正座して人形に話しかけているのだろうか。人形にしか興味がなく、異様なかわいがりようで、それが日増しに酷くなっていく。

 結花子は寝返りを打って、左側に顔を向けた。気付けば、夫のスマホからバイブ音が聞こえてくる。夫は留守番設定にしていないようで、いつまでもスマホは震えている。ようやくスマホの震える音が止んで、いつもの静寂が戻ってきた。

 以前のメールの件もあったので、結花子はそっとスマホを手に取った。着信は「ミィたん」からだった。ミィたんという女性が夫に異様な執着を見せているのは理解できた。理解できたが好奇心に負けて、リダイヤルして相手の声を聞いてやろう。すぐに切ればいい、とリダイヤルをしてみた。

 リダイヤルしてワンコールしないうちに、ミィたんが電話に出た。

「寿晶? ずっと電話してたんだよ!」

 その声を聞いて、反射的に電話を切っていた。結花子はミィたんが誰かわかってしまった。聞き慣れた声に耳を疑った。電話番号ではなく、ミィたんで着信していたのですぐにはわからなかったのだ。

 亜美が夫の浮気相手だった。胸の内からふつふつと湧き上がるものがある。怒りとも悔しさとも哀しみともつかない感情が、結花子を立ち上がらせて仏間へと足を向けさせた。

 夫に問いただして、なじりたくて仕方なかった。別れているとしても、妻の親友に手を付けるなんて、最悪だ。しかも妊娠させておいて亜美に堕ろすように命じたことも気持ち悪い。何より、何でもないかのように自分と親しく接してくる亜美にはらわたが煮えくり返る。こんなにも馬鹿にされていいものか。自分にこんな酷い目を見させても、彼らはなんとも思ってないのだ。

 結花子はふすまを開けて仏間に入ろうとしたが、夫の様子に気圧されて足を止めた。

 夫が畳に這いつくばるように、必死に人形に向かって手を合わせ拝んでいる。念仏のように何かを唱えているようだ。詰ることすら忘れ、奇態な夫の背中に向かって、結花子は思わず話しかけていた。

「なんで人形に手を合わせてるの」

 夫は振り向きもせず、低くてかすれた声で応えた。

「人形って子供の身代わりって言うだろ。うちは最初の赤ん坊は必ず死ぬんだ。その子のために身代わりになってくれるように祈ってるんだよ」

 結花子はゆっくりと夫に近づいた。肩に手をかけて軽く揺する。

「ねぇ、もういい加減にして」

 振り向いた夫の斜視がかった目が大きく見開かれていた。気持ち悪くなって手を引っ込める。結花子は夫に寝るようにとか、やめてと言えなくなった。

#創作大賞2025 #ホラー小説部門

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