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北海道最北端の離島・礼文島のアイヌ物語「カップカイ伝説」-見内神社

礼文島・見内神社に残る記憶

北海道・礼文島の香深井に、
見内神社という、少し不思議な由来をもつ神社があります。

この神社は、全国的にも珍しく、
アイヌの伝承を起源として生まれた神社だと伝えられています。


カップカイとセレナ、そして「見ない神」

むかし、むかし。
北海道・礼文島の香深井に、アイヌの人たちが暮らしていた頃のお話です。

その村は、木々が生い茂り、
海には魚があふれ、
春になるとニシンが群れをなしてやってくる、
命に満ちた場所でした。


海から来た女性、カップカイ

ある日、海の向こうの天塩の国から、
一人の女性がイカダに乗って流れ着きました。

体は大きく、力も強く、
酒が好きで、酔うと荒れてしまうこともあったといいます。

おなかには赤ん坊がいて、
胸はとても大きく、
村の人たちは彼女を
「オッパイを担ぐ人」という意味で
カップカイと呼ぶようになりました。

やがてカップカイは、
セレナという女の子を産みます。


命を分け与える母

カップカイの母乳は豊かで、
自分の子が飲んでも、まだ余るほどでした。

村には、乳の出ない母親も多く、
カップカイは分け隔てなく、
自分の乳を分け与えました。

その乳で育った子どもたちは、
みな元気に育ち、
村はしばらくのあいだ、
喜びに包まれていました。


変わっていく村の心

けれど、
セレナが大きくなるにつれ、
カップカイの乳は次第に出なくなります。

すると、
人々の心も少しずつ変わっていきました。

よそ者であることへの偏見。
美しく育つセレナへの嫉妬。

親子は次第に村の外へ追いやられ、
やがてカップカイは病に倒れ、
ひっそりとこの世を去ります。

幼いセレナは、
一人で母を弔いました。


待ち続けた岩

成長したセレナは、
カルチバという心やさしい若者と出会い、
二人は結ばれ、子どもにも恵まれます。

けれど、
天塩の地で争いが起こり、
カルチバは戦いに出ることになりました。

セレナは子どもを抱き、
岬に立ち、
帰らぬ舟を、
来る日も来る日も待ち続けました。

やがて、
セレナと子どもは、
その場所で岩になったと伝えられています。


失われた母乳、取り戻された命

それから、
村で不思議なことが起こります。

母親たちの乳が、
まったく出なくなってしまったのです。

年寄りたちは思い出しました。
自分たちが子どもの頃、
カップカイの乳に育てられていたことを。

人々は悔い、
貝殻でオッパイの形を作り、
岩の前に供え、
心から祈りました。

すると、
再び母乳が出るようになり、
子宝にも恵まれたといいます。


「見ない神」として祀られた場所

人々はこの場所を、
命を授け、命を育てる神のいる場所として
大切に祀るようになりました。

通るときには、
かつての自分たちの行いを恥じ、
顔を伏せて通ったと伝えられています。

「見ないで通る神」
ミナイカムイ(見内神威)

この伝承が、
やがて 見内神社 の起源となりました。


いま、この場所を訪れるということ

見内神社は、
人を遠ざけるための場所ではありません。

恐れを超えて、
悔いと祈りを重ね、
命をつないできた場所です。

いまは、
安心して手を合わせることができます。

安産を願う人も、
子宝を祈る人も、
ただ静かに心を整えたい人も。

この場所は、
そっと受け止めてくれます。

文献資料:礼文島遺産ミュージアムHPより


このカップカイとセレナの物語は、
悲しみの話でありながら、
同時に
命を忘れなかった人たちの話だと思います。

与え、
失い、
悔い、
祈り、
そして、つなぐ。

だからこの場所は、
今も大切に残されている。

礼文島の風と海の音の中で、
見内神社は、
今日も静かに祈りを受け止めています。

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