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PayPayの上場は本当に『孫正義の大勝利』なのか?

 PayPayのIPO(新規株式上場)がいよいよ現実味を帯びてきました。

 SBG株に手を出してしまうような投資初心者たちが頼りにしているSBGの株式掲示板では、すでに『孫正義の逆転劇』『ソフトバンクグループ(SBG)復活の起爆剤』といったお花畑な歓喜ムードが踊り始めています。

 ところで、PayPayのIPOは、SBGにとって、本当にそんなにうまい話なのでしょうか?

 本稿では一般投資家の皆さんに向けて、冷静にわかりやすく解きほぐしていきます。

そもそもPayPayとは何だったのか?

 PayPayが誕生したのは2018年。当時、中国ではすでにAlipay(アリペイ)やWeChat Pay(ウィーチャットペイ)が生活の中に完全に浸透しており、日本は完全に出遅れていました。

 技術的に大きく遅れていた日本勢は、インドのPaytmからQRコード決済の仕組みを導入しました。あとは『カネの力勝負』。巨額のキャッシュバック(『100億円あげちゃう!』キャンペーン)を連発し、一気にユーザーを囲い込んでいったのです。

 この100億円のキャンペーンの原資は、ソフトバンクグループ(SBG)本体、ソフトバンク(通信:9434)、Zホールディングス(現・LINEヤフー)などが次々と資金を投入して賄いました。まさに『現金を燃やしてシェアを奪った』成長モデルだったわけです。

ソフトバンクGの出資は意外と控えめ?

 SBGがPayPayに最初に出資したのは2019年。当時の直接投資額は約460億円でした。出資比率は、SBGが50%、ソフトバンク(通信事業会社、証券コード9434)が25%、ヤフー(当時)が25%という構成でした。

 その後、グループ内で持株の移動や整理が進み、2024年3月末時点では以下のような持株構成になっています。

・ソフトバンク(通信:9434):約54.5%
・LINEヤフー:約17.1%
・SBG傘下の投資ファンド(ソフトバンク・ビジョン・ファンド2=SVF2):約28.4%

 つまり、PayPayはSBGが単独で支配してきた投資案件ではなく、SBG本体・通信子会社のソフトバンク(9434)・LINEヤフー・ビジョンファンド(SVF2)が共同で育ててきた事業なのです。

PayPayはいくらの会社になりそう?

 ここが今回のIPOで最も注目されているポイントです。

 ソフトバンク社内では『企業価値はだいたい1兆円弱』と見積もられてきました。

 一方でBloombergなどの報道では『最大で1.5兆円まで評価される可能性もある』とされています。

 もし1.5兆円の評価が実現すれば、過去最大級の日本フィンテック上場案件となります。ちなみに2023年に上場した楽天銀行は約3000億円の時価総額だったので、PayPayが5倍規模という話になります。

 その背景には、QRコード決済国内シェアが約67%という圧倒的強さがあります。登録ユーザーも6300万人を超え、日本の成人人口の大半に食い込んでいます。

SBGはどれだけ儲かるの?

 さて、一般投資家の皆さんが最も気になるのはここでしょう。

 仮にPayPayの時価総額が1兆円だと、SBGのビジョンファンドが持つ約28.4%分は約2840億円。1.5兆円なら約4260億円となります。一見、数千億円の利益に見えますが、SBGの最新のNAV(2024年6月時点で34兆円:プロフォーマベース)と比べると、わずか0.8%〜1.25%程度に過ぎません。

 IPOによって一部の株を売却しても、SBGが得られる現金はせいぜい数百億円と見込まれています。SBG全体が抱える巨額の借金(純有利子負債 約6兆円、総額約23兆円超)を考えれば、『悪くはないけど焼け石に水』というレベルです。

PayPay上場の本質とは?

 ここが重要な視点です。

 今回のPayPay上場は、決して『SBGを救う大逆転劇』ではありません。寧ろ、これまでの投資の『後始末』の一環に近いのです。

 SBGは過去に巨額投資で大失敗した案件が山ほどあります(WeWork、OYO、Katerra、そしてインドのPaytmなど)。

 その中で、日本のPayPayは『数少ない生き残り成功案件』なのです。

 今回の上場は、積み上がった累積赤字を少しでも回収し、外部投資家に資金を振り向けてもらうための出口戦略の一つ、と見る方が現実的です。

結論:PayPayは『救世主』ではなく『部品』である

 確かにSBGにとって、今回の上場は、
・数百億円の現金収入
・資産価値(NAV)の微増
・株価評価のわずかな改善
などのプラス効果は生みます。

 しかし、SBGという巨大な借金体質レバレッジ企業の構造そのものは、何一つ変わりません。PayPayは救世主ではなく、延命装置の部品の一つに過ぎないのです。

 そして本当のリスクはこれからです。孫正義が次に『AI神話』に再び突っ込んだとき、また第二のPaytmやWeWork型の大失敗を生み出す可能性が残っている。それこそがSBG最大の不安材料なのです。

 カネは入る。だが、また投資し、また燃える。SBGとは、そういうビジネスモデルなのです。

 今回ここまで詳しく検討してきましたが、仮にPayPayが1兆円で評価されて上場したとしても、20兆円を超えるSBGの有利子負債規模と比べれば、ほとんど誤差の範囲に過ぎないことに気付くべきです。

 実際、過去のSBG株主総会では、孫正義代表取締役自身が『2兆、3兆は誤差のうち』と発言し、株主の怒りを買っています。2023年6月の総会では、ビジョン・ファンドの巨額赤字(約5兆3000億円の損失)を巡り経営責任を問われた場面で、孫氏は『厳しい質問ですね。2兆、3兆上がったり下がったりは誤差のうちだ』と述べたうえで、『本音ではそう思っている』と続け、すぐに次の質問に移りました。この無神経な発言に対し、株主からは『経営者としての責任感がない』『本音だと言い訳して済まされる問題ではない』と強い憤りの声が上がっています。まさに、個人投資家から見れば命綱とも言える数兆円が、孫正義にとっては誤差でしかないことが露呈した瞬間でした。

 仮に1兆円規模の資金回収が実現したとしても、SBGの資金繰り全体から見れば『誤差の最小単位にも満たないはした金』でしかありません。寧ろ、年間の金利負担だけで1兆円近くを消化していく構造のほうが、はるかにSBG経営陣の頭痛のタネとなっているのです。

 そしてここで少し、PayPayの『親』にあたるインドのPaytmの黒歴史についても触れておきます。

Paytmの黒歴史

 今回のPayPayのIPOが微妙に神妙ムードになっている背景には『インドの失敗』が色濃く影を落としています。

 そもそもインドのPaytmは、孫正義が『キャッシュレスの本場インドで先行者利益を取る』と意気込んで巨額投資したQRコード決済の雄でした。SBGはビジョンファンドなどを通じて、総額で約15億ドル(2000億円以上)を突っ込んでいます。

 Paytmは当初こそ急成長しましたが、インド国内での競争激化、規制強化、収益化の難航、IPO後の株価暴落など、問題が次々に噴出。2021年の上場後は株価がピークから実に7〜8割近く下落し、SBGの保有株評価額も大幅に毀損しました。IPO直後はインド史上最大のIPO成功と騒がれたものの、その後はまさに『墜落劇』の典型例となりました。

 極めつけは、2024年に入ってからのインド中央銀行(RBI)によるペイメントバンク業務停止命令。資金移動・口座開設停止という事実上のライセンス剥奪状態となり、事業継続そのものが危ぶまれる局面に追い込まれました。SBGは結局、保有するPaytm株式を大幅な損切り・売却処分する羽目に陥っています。

 つまり、PayPayが仮に成功したとしても、その兄貴分にあたるPaytmでは、数千億円規模の損失を既に確定させているのがSBGの現実なのです。PayPayはあくまで『たまたま今のところ生き残っている少数派』に過ぎません。

 このようにPayPayのIPOを巡る派手な報道の裏では、SBGが積み重ねてきた黒歴史の『一部損失回収の試み』に過ぎないところが、投資家が冷静に見るべき本質です。

【プロ投資家向け特別ディスクライマー】
※本稿の数値には、2兆や3兆(円あるいはドル)規模の誤差が含まれている可能性があります。もっとも、SBGの資本政策においては、こうした誤差はレバレッジの呼吸の中で日常的に吸収・蒸発・再膨張するため、計数管理上の実害は想定されておりません。むしろ、こうしたボラティリティこそがSBGという『信用創造型ソフトバンク・オプションファンド』の本質的ドライバーであることを、熟練の投資家諸賢にはご理解いただけるものと信じます。

武智倫太郎

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