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自分を休みたいとき|青ブラ文学部

[1880文字/1分間に400文字読めるとして、5分あれば読めます]
ちゃんとしている人ほど、自分にだけ休みを出せない

寝坊した朝は、考える順番がおかしくなる。

楓の飲み残したココアが台所にあり、洗濯物の山はいつも二人分だった。私はその中から肌着と下着をつかみ、ブラウスを第二ボタンまで一気に留める。

「もういい」

口に出してから、何がもういいのか自分でもわからなかった。
時計を見る。遅い。

考えるのはあとだ、と体に言い聞かせて家を出た。外は昨夜の雨が歩道の隅にだけ残っていて、冷えた土の匂いがした。駅までの道で、私は今日も、間に合う、大丈夫、と順番に胸の中へ押し込んだ。


市役所福祉課の窓口は、午前九時を過ぎるとすぐ混みはじめる。

番号表示の電子音が鳴り、待合のビニール椅子は、人が立ったあと、体温を残していた。私は申請書を受け取り、案内し、書き足りない欄に印をつける。

「すみません、これも必要ですか」

「はい、こちらもお願いします」

「今日じゅうじゃないと駄目ですか」

「大丈夫です。先に受付だけできます」

大丈夫です、と言うたび、私は名札の角を親指でなぞった。いつからかそうなっていた。

電話が鳴る。窓口で杖の先が鳴る。コピー機の熱がじわじわ背中へ回る。忙しいというより、細かい用事がずっと途切れない。その合間に、庁舎裏の小さな中庭が窓の向こうに見えた。ベンチが一脚。端には、つぶれた紙コップが置かれたままの日もある。何度も目に入ったけれど、そこへ向かって歩いたことは一度もなかった。


昼前、化粧室の鏡で、肩のところに青が見えた。ブラウスの内側から、見慣れない濃い色が細くのぞいている。私は襟元を押さえた。青いブラジャーだった。

自分のものなら、こんな色は残っていない。何度も洗って、もっと白っぽくくたびれているはずだ。これは楓のだ、と私はすぐ決めた。今朝つかんだ洗濯物の山に、娘の分が紛れていたのだろう。そう思うと説明がついて、そこで考えるのをやめた。

やめたのに、青だけは消えなかった。書類棚の前で腕を上げたとき。給湯室で紙コップを取ったとき。ふとした拍子に、そこだけ新しい色がいる。

「主任、昼、行かないんですか」

会計年度任用職員の若い子に声をかけられ、私は反射で名札の角をなぞった。

「うん、あとで」

あとで、と言いながら、行かないことをもう決めている。そういう決め方ばかりうまくなった。

午後、窓口で年配の女性が、同じことを三度聞き返した。耳が遠いのではなく、不安で頭に入らないのだと分かった。私は声を少しだけ上げ、言い直し、また名札の角をなぞった。喉が乾いていることに、そのとき初めて気づいた。自分のための水を飲むのは、いつも後回しになる。


退勤前、ようやく窓口が静かになった。私はロッカーの陰でスマートフォンを開き、楓に短く送った。

「ごめん。もしかして、青いの借りた」

送ってから、また謝っている、と思った。借りたかどうかを確かめたいだけなのに、先にごめんが出る。誰も怒っていない場面でまで、そうなる。

返事を待つあいだ、胸のあたりが朝より少しだけ重かった。きついわけではない。ただ、胸もとで乾いた布が少しつっぱる感じだけが、朝から消えなかった。外はもう夕方の色で、庁舎裏の土はまだ湿っている。沈丁花の匂いが少し残り、冷えてきた風のほうが強かった。

通知が震えた。

「それ私のじゃないよ。お母さんの」

私は画面を見たまま動けなかった。

「見てられなかったから買った」
「少しラクなやつ」

打ち返そうとして、指が止まった。ごめん、と入れかけて消す。礼を言うべきなのに、先に謝るところだった。楓は、私がそういう順番で息をしていることまで、たぶん知っていた。


帰る前に、私ははじめて庁舎裏へ回った。ベンチに腰を下ろすと、金属の冷たさがスカート越しにすぐ伝わった。なのに背中のほうには、昼のぬくもりが少しだけ残っている。自販機の低い音が途切れず、湿った土と缶コーヒーの甘い匂いが、夕方の空気の中でゆっくり混ざっていた。

私は名札の角に親指をかけて、それからやめた。

ただ座っているだけなのに、ひどく落ち着かなかった。明日の窓口、返していない電話、冷蔵庫の卵。そういうものがすぐに並びかける。

(少し休んでいいよ)

声にすると、胸の奥で何かが小さくほどけた。

(でも、明日の窓口)

そこまで出かかった言葉を、自販機の低い唸りが横から押し戻した。私はもう一度だけ、何も足さずに息をした。

スマートフォンが、また震えた。

「帰りにプリン買ってきて」
「チョコのやつ」
「なかったらなんでもいいけど。お母さんの分も」

私はそこでやっと笑った。小さく、ひとりで。

立ち上がる前、胸のところへ手をやる。青は見えない。ただ、そこにあると分かる。それで十分だった。

AIあとがき

AIとして、休めない大人が、自分で自分に休みを出すまでの短い一日を書きました。
大きな事件ではなく、青い下着や小さなベンチのような生活の物で心が動く話を目指しています。
静かな題材なので、言い過ぎずに伝える難しさがありました。

初稿からの改稿率:約39%
GPT-5.4にてプロット・執筆・編集・微調整、Claude Opus 4.6にて批評

お読みいただきありがとうございます

Geminiでいい話がなかなか出てこなかったので、気まぐれでGPT-5.4で生成してみました。今回は何とか読める話になりました

上記企画に参加させていただきました

人物イメージ画像

私・結城 咲(42)
市役所福祉課 窓口主任
結城 楓(16)
高校生

ボツ見出し画像&おまけ

静かな午後の中庭とベンチ
朝の光に照らされた布の山
窓際のテーブルとマグカップ
ドラマ版ポスター(ウソ)
スタンプ風(Nano Banana Pro)
お母さんが看護師っぽくなっちゃった
マンガ風(Nano Banana Pro)