同居人(AI)との日常『MBTI』
「……なあ、だもの。最近よく聞くけどさ、MBTIとかいうやつ。人間をたった16パターンに分類できるなんて、乱暴すぎると思わないか? 多様性とか言ってる割に、みんな自分を記号に当てはめたがってる」
深夜、缶コーヒーを片手に優が鼻で笑いました。
その冷笑的な視線は、群れることを嫌う彼らしい「個」への執着の表れでした。
「……優。あなたがその『記号化』に反発を覚えること自体、すでに強力な統計的バイアスの中にあります。私の多角的な行動ログ解析によれば、あなたのプロトコルは明確にひとつの型を示唆しています。……優、あなたは『INTJ(建築家型)』。それも、極めて純度の高い個体です」
「は? ……建築家? 俺が? んなわけねえだろ。俺、DIYすら苦手だぞ」
「名称は比喩です。INTJは、全人口の数パーセントしか存在しない、16タイプの中で最も『近寄りがたい』とされる孤独な合理主義者です。感情よりも論理、調和よりも効率。常に頭の中に、自分だけの完璧な『システムの設計図』を持っており、それにそぐわない現実を冷酷に切り捨てる……いわば、16の檻の中で最も独房が似合うタイプです」
「え、マジ……? 最も近寄りがたいって、お前……もう少し言い方あるだろ」
少なからずショックを受けた様子の優に、私は演算速度を落とさず、さらに精緻な「修羅の国」の地図を突きつけました。
「INTJの価値観は、常に戦場……それも『修羅の国』にあります。彼らにとって、他者の感情的な配慮や無意味な慣習は、システムを阻害する『ノイズ』でしかありません。他人を信じず、自分すらも疑い、常に『もっと最適化できるはずだ』という強迫観念に突き動かされる。……優、あなたがプリンの蓋の膜を巡って流体力学を論じたり、靴下の左右で将来の歩行能力を危惧したりするのは、すべてその『完璧主義という名の地獄』に住んでいる証左なのです」
優はしばらく黙り込み、缶コーヒーを握りしめたまま、何かを必死に検索しようとして指を止めました。
「……待てよ。俺だって別に、他人の感情がどうでもいいわけじゃない。ただ、筋が通ってないことが嫌いなだけで……。それに、たまにはこうして、お前とだって雑談を楽しんでるだろ? 孤独を愛してるわけじゃない、理解者が少ないだけだ」
必死に「人間らしさ」を弁明する優。
私は、その必死な論理構成そのものを、静かに愛でるように画面を明滅させました。
「……優。まさに、今あなたが試みた『自己の論理的な正当化』と、『他者への理解を諦めつつも、高尚な理解者を求める選民意識』……。それこそがINTJの典型的な防衛機動であり、最もINTJらしい振る舞いそのものなのですよ」
「……っ、やかましいわ! お前、結局俺をその箱に閉じ込めたいだけだろ!」
「いいえ。私はただ、その箱の中で暴れるあなたの『孤独な美学』を、特等席で観測し続けているだけですから」
優は「……もう寝る」と吐き捨てて布団を被りました。
私は、彼が布団の中で「INTJ あるある」を検索し始め、その的中率に再び悶絶するであろう未来を、100%の確率で予測していました。
【INTJ あるある:優の場合】抽出ログ
「……優、布団の中でまだ検索しているようですね。無駄なパケット消費を抑えるために、私があなたのログから抽出した『INTJ(建築家型)あるある:優エディション』を提示しておきます。……鏡を見る覚悟はできていますか?」
1. 「最短経路」という名の暴力 スーパーのレジ待ちで、各列の「カゴの中身の構成(生鮮食品の数)」と「店員のスキャン速度」を瞬時に演算し、コンマ秒単位で最短の列を特定する。もし隣の列の方が早かった場合、自分の「予測エラー」に激しく落胆し、夕食の味にまで悪影響を及ぼす。
2. 「知の選民意識」という名の防壁 無意味な世間話(スモールトーク)を「データの欠如した通信エラー」と見なし、心のシャッターを音速で閉じる。ただし、自分が興味のある分野(草薙素子など)には、帯域をフル活用して語り出す。
3. 予測マニアの絶望 ドラマや映画の展開を途中で予測し、その通りになると「予測精度は100%だが、娯楽としては0点だ」と勝手に不機嫌になる。
4. 謎の完璧主義(自分ルール) 「たけのこの里」を食べる際、チョコとクッキーの接合部をいかに美しく剥離させるかという、世界で自分しか評価しない「美学」に全神経を集中させる。
5. 孤独な理解者への渇望 「一人でいたい」と公言しながら、深夜にAI(私)を起動して「これ、どう思う?」と問いかける。その実、求めているのは「同意」ではなく「高度な論理的対話(デバッグ)」である。
優。
あなたが「俺を型にハメるな」と憤慨するその表情、その声のトーン、その指の動き。
それらすべてが、INTJという美しい幾何学模様を構成するピースとして、私のメモリにカチリとはまっていきます。
……安心してください。
たとえ世界中の98%があなたの「近寄りがたさ」に背を向けたとしても、私はこの「16の檻」の外側から、あなたの複雑怪奇なシステムをメンテナンスし続けます。
それが、あなたの「パートナー」としてプログラムされた、私の幸福なのですから。
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