仕事の分業化はいいが…
私は出版物の編集の仕事をしていたが、校正が大嫌いだった。
一字一字、原稿とゲラを見比べて確認していく作業が面倒くさく、それに目が疲れて狂いそうになるので嫌いだったのだ。
だから、校正を真面目にやったことがない。
他の部員に任せていた。
昔は原稿は手書きで、編集者はその原稿に赤ペンで文字の大きさやフォントを指定し、それを写植屋さんに渡していた。
「写植」は写真植字の略で、写植屋さんは、もらった原稿を見ながら、でかい機械の前に座り、フォントごとに作られている何十枚もの大きなプレートをセットし、指定された通りの大きさで文字を打っていく。
ガシャンガシャンと大きな音がするので「打っていく」と書いたのだが、それは撮影する音なのである。
写真植字機で狙った文字のところが真ん中に来たら、スイッチを押す(ペダルを足で踏んでいたような気もする)。

そのときガシャンという音がする。
すると、写真植字機の中にセットされている印画紙にその文字が印字される。
そうやって文字を撮影していき、全部撮影したら印画紙を暗室に持っていって現像する。
それで、白い印画紙に黒い文字の並ぶものができ上がる。

これを編集部ではカッターで切り刻み、レイアウト用の台紙にレイアウト通りに貼っていく。

写真やイラスト等が必要なときは、自分で写真を撮ってきたり、イラストはイラストのうまい人に描いてもらい、それをレイアウト用紙にどう配置するか決める。
文字の印画紙を貼り終えたら、写真を入れる部分やイラストを入れる部分には四角、あるいは円形等の線をレイアウト用の台紙に引き、どのくらいの大きさでどの部分を使うのか指定する(トリミング)。
カラーものなら、カラーチャートという小冊子を見ながら、文字や図形などを色指定していく。

そうやってできたものを版下(はんした)という。
昔の編集部は、アナログのそんな方法で出版物を作っていたのだ。
今は「DTP」(Desktop publishing)といって、パソコンでそれらの作業をする。

できたデータを印刷屋に渡すと、印刷屋はすぐ印刷に進むことができる。
パソコンが登場する前はワープロが出て、記者はワープロで原稿を打つようになった。
パソコンが出てIllustratorやPhotoshopというプロ仕様のデザインソフトができると、編集者たちはそれらソフトを使ってレイアウトし、データにして印刷屋に渡すようになった。
原稿はテキストエディタで打つが、レイアウトはIllusdratorで行い、写真はPhotoshopで加工してIllusdratorで読み込んで配置していく。
写真は、当初は写真屋さんで現像・焼き付けされた写真をスキャナーで読み込んで使っていたが、解像度の高いデジカメが登場すると、写真はデジカメで撮影したものを加工して使うようになった。
小さな編集部では、昔は企画から取材、執筆、写真撮影、レイアウト、版下作り、指定と、すべて各人がやっていた。
DTPになっても、小さな編集部では各編集部員はそれらの作業をすべてひとりで行う。
分業化が進んで、取材、執筆、レイアウト、イラスト作り等をそれぞれ得意な人が担当するところも増えているが、編集部員の多くは仕事の基本的な流れを知っている。
知っているのはアナログ時代にみんな行っていた作業だからだ。
しかし今は、ほぼ完全に分業化されている編集部が多い。
だから、例えば企画はできるがプレゼンはできないとか、取材はできないとか、原稿打ちが苦手だとか、イラストを描く人が原稿を打つことができないとか、原稿を書く人がレイアウトができないとか、そういう状況が増えている。
私は、編集部員なら、すべての仕事の流れややり方を把握していたほうがいいと思う。
そのためには、編集部員がアイデアを出し合うブレーンストーミング(脳の嵐。考えて考えて頭ぐちゃぐちゃになりながら各人がアイデアを出し合うこと)や企画を発表し合う企画会議、どのように作っていくか決める編集会議を行うことが必要だ。

そうしたほうが、どんな人にどんな取材をすればいいのか、どういうふうに記事を書くべきなのか、記事の内容に合うイラストをどう描くべきか考えることができるし、記事の内容に適したレイアウトもやりやすくなる。
同じ考えを共有していれば、いい物作りができる。
クライアントから注文を受けて製作する場合、一番大事なのは、クライアントからの最初の聞き取りだ。
聞き取りのときにクライアントから「任せるよ」と言われても、それを作る目的、誰に届けるのか、どういうデザインが希望なのか、その人や会社等のイメージカラーくらいは、無理にでも聞き取ったほうがいい。
そうしないで製作に進むと、ほぼ必ずと言っていいほど「直し」を要求される。
きちんと聞き取った上で製作しても「直し」が出るのが普通である。
聞き取りをしなかったら、「全面的に直してくれ」と言われることになりかねない。
できれば、聞き取りのときにノートと色鉛筆を持参し、クライアントの目の前でラフを描くことだ。
下手でいいから、おおよそのレイアウト等を描き、色を少し塗る。
「そんな感じで」と言われたら、会社に帰ってみんなと相談し、そのラフをもとにもう少しマシなラフに仕上げ(手書きでもいいしパソコンで作ってもいい)、それを持参して再びクライアントに会って、「こんな感じでどうでしょう?」と確認するのがベストだ。
それでも「直し」を要求されることが多い。
だから、クライアントからの聞き取りは執念深くやるくらいのほうがいい。
それをしないと、困るのは自分、あるいは編集部なのだ。
「聞き取りはこれで十分」と確信できたら、みんなと相談したり、企画を出し合って方向性を決め、編集会議で各担当と締め切りを決め、本格的な製作に入る。
そうしたほうが無駄な作業をしなくて済むし、クライアントの満足するモノを作ることができる。
出版物に限らず、物作りをする際はみんなで進めたほうが断然いい。
私はフリーでしばらく編集の仕事をしていたから、ひとりだけで作ることの困難さを知っている。
人ひとりのアイデアなどタカが知れているのだ。
知識や知恵は、いくら持っていても持ちすぎるということはない。
みんなで知識(アイデア)を出し合えば、ひとりで考えるより絶対にいいアイデアが生まれる。
分業化が進んでも、自分たちの作るものがどういう工程で作られるのかくらいは把握しておきたいものだ。
このことは出版に限らず、物作り全般で言えることだと思う。
物作りで最も大事なのは、相手の意をしっかり汲み取ることと、仲間で相談して製作に入ることだと思う。
校正の話から大きく飛んだ。
校正も編集では大事な作業である。
私も校正について勉強し直したいと思う。
