見出し画像

最後の宿題|ショートショート

八月三十一日。僕は机に座り、頭を抱えていた。自由研究のテーマは「蝉の生態」。しかし標本は一匹もない。
母は「今からでもやりなさい!」と怒鳴る。僕は「大丈夫、なんとかなる」と答えた。

ラジオが言った。「明日から秋の気配が……」

僕はぎょっとした。このままでは夏が終わる。窓の外を見ると、蝉が鳴いている。捕虫網を持ち庭に飛び出した。
追いかけるうちに、古井戸のそばでつまずき、地面から缶詰のようなものを見つけた。表には「ナツノオワリ」と書かれている。

僕は開けてみた。中は空っぽ。だが、蝉の声が止み、気づくとカレンダーの日付は「八月三十日」に戻っていた。

「……これは!」
僕はひらめいた。夏を巻き戻す缶詰だ。これさえあれば、宿題は永遠に終わらないまま、夏休みが続く。

ラジオが繰り返す。「本日も猛暑日です」

僕はにやりとした。なんて便利なんだろう。人類史上初、宿題を絶対に提出しない方法を発見したのだ。
ノーベル賞ものだ。きっと教科書に載る。
「蝉の生態? そんな小さなテーマじゃない。僕は“時間の生態”を研究してるんだ」

……そう言いながら、僕は机に向かう。自由研究のノートは真っ白のまま。
缶詰はもう十個目。引き出しに空き缶がゴロゴロ転がっている。

たぶん、未来の僕が困るかもしれない。
でも、それは「明日」の僕の宿題だ。


夏休みもいよいよ終わりですね。
子どもの頃の「宿題どうしよう!」という焦りを、ちょっと不思議で笑える話にしてみました。
読後にクスッとしていただけたら嬉しいです。

#星新一 #ショートショート

いいなと思ったら応援しよう!

ナオユキ|物語と知識のコンシェルジュ もしこの記事が少しでも役に立ったり、楽しんでいただけたりしたら、チップをいただけるととても嬉しいです! いただいたチップは、今後のより良いコンテンツ制作のための書籍代📚とnote購入🗒️、他の方へのチップ代💰に使わせていただきます。 いつも応援ありがとうございます!