虫の翻訳家|ショートショート
「虫の声を翻訳できたら、鳴く理由がわかるだろう」
N博士はそう考えていた。
装置が完成した夜、博士は庭に出た。
小さな翻訳機をコオロギに向け、スイッチを入れる。
コオロギ「……早く冬が来ないかな。お隣の奥さんの声がうるさくて、一晩中眠れないんだ」
スズムシ「この間引っ越してきた隣人、やけに歌が下手で困る」
マツムシ「夜中にゴミを漁るのはやめてほしい」
博士は肩をすくめた。
「虫の世界も大変なんだな」
そのとき、翻訳機が別の声を届けた。
キリギリス「……鳴くのは、ただの存在証明さ」
博士は耳を澄ませた。
虫も人間も何ら変わらないんだな。
思わず笑みをこぼしながら、博士はそっと庭の葉っぱを揺らした。
「さて、打ち上げ用のキュウリでも用意するか……」
虫たちはまた、小さな声でチリンチリンと鳴いた。
それは、夜の庭に響く、ちいさなコンサートの合図だった。
9月になり、まだ暑い日もありますが、少しずつ秋の気配を感じる季節になってきました。
虫たちの鳴き声って、いったい何を言っているのでしょうね。
もしかすると、人間とそんなに変わらないのかもしれません。
そんな思いを込めながら、この物語を書きました。
庭の小さなコンサートが、読んでくださった皆さんの心にもそっと響けば嬉しいです。
#ショートショート
#星新一
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