未来からの手紙|ショートショート【ノックの音が】
ノックの音がした。
田中は覗き穴をのぞいた。
スーツ姿の男が封筒を持って立っている。
「失礼します。未来配達便です」
「未来配達便?」
ドアを開けると、男はうやうやしく封筒を差し出した。
「三十年後のご自身からのお手紙です」
差出人の欄には確かに田中の名前。
だが、筆跡が震えていた。 田中は手紙を開いた。
〈今すぐ冷蔵庫の裏を見ろ。500円玉がある。それを持って病院に行け。右下のほくろを検査しろ。これをしないと、君は42歳で転職に失敗し、57歳でキノコ栽培にハマって破産する〉
田中は冷蔵庫の裏をのぞいた。
本当に500円玉があった。
「これは本物ですか?」
「はい。三十年後の田中様からのお手紙です」
配達員は続けた。
「返信もできます。料金は一通につき人生の可能性三パーセントです」
「可能性三パーセント?」
「はい。返信するたびに、未来が少しずつ固定化されます」
田中は考えた。
「でも、未来の自分は寂しいんでしょう?」
「ええ。過去の自分を思い出しながら、寂しそうに手紙を書いておりました」
配達員は便箋を取り出した。
「どうしますか?」
田中は迷った。
未来の自分が寂しがっているなら、返事を書いてあげたい。 でも、可能性が減るのは怖い。
「試しに一通だけ」
田中は〈元気でやってます。今夜はカレーです〉と書いた。
配達員は手紙を受け取り、消えた。
翌日、また手紙が届いた。
〈カレーありがとう!懐かしくて泣いた。ところで、明日は傘を持って行け。夕方、土砂降りになる〉
田中は傘を持参した。
本当に土砂降りになった。
その日から、未来の自分との文通が始まった。
〈宝くじを買え〉〈告白しろ〉〈転職しろ〉
田中は言われた通りにした。
人生は確実に好転した。
だが、一年後、配達員が困った顔で現れた。
「申し訳ありません。あなたの人生の可能性が残り五パーセントになりました」
「五パーセント?」
「はい。このままでは、完全に未来が固定化されます。つまり、運命が決まってしまいます」
田中は愕然とした。
「それは困ります」
「文通をやめれば、可能性は回復します」
田中は迷った。
未来の自分からの助言で人生は良くなった。
でも、自由も失いつつあった。
最後の手紙を書いた。
〈もう文通はやめよう。君の人生は君が決めるべきだ〉
返事が来た。
〈わかった。でも、一つだけ覚えておいてくれ。人生で一番大切なのは、予想外の出来事だ〉
それから手紙は来なくなった。
田中の人生は再び不確実になった。
でも、なぜかホッとしていた。
「明日何が起こるかわからない。それが、きっと人生なのだ……」と、田中は自分に言い聞かせるように思った。
未来からの自分からの手紙。
自分にも届いたら、やはり気になって読んじゃうかなぁ。
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