転職面談|ショートショート【ノックの音が】
ノックの音がした。
N氏は自宅の書斎で背筋を伸ばし、「どうぞ」と声をかけた。
入ってきたのは、スーツを着たロボットだった。
ピカピカの金属ボディに、控えめなネクタイ。
「はじめまして。第7次人類適正職業マッチングセンターより参りました」
「転職相談をお願いしたNです」
「拝見しました。前職は“感情コンサルタント”。素晴らしい実績ですね」
「ありがとうございます。まあ、機械にはまだできない仕事だと……」
「そこなのですが」
ロボットがカタカタと端末を操作した。
「実は本日付けで、感情コンサル業務は我々の自動処理に移行となりまして」
「……え?」
「はい。怒り、悲しみ、感動、嫉妬、羞恥、全部AIが数値化して最適な助言を出すようになりました。ほらこの通り」
画面に表示されたのは「N氏:発言の熱量45/笑顔指数38/共感期待度22」といった数値の羅列。
「これじゃ人間いらないじゃないですか」
「お察しの通りです」
N氏はしばらく黙っていたが、やがて聞いた。
「じゃあ、私にできる仕事って……」
「ええ。唯一、人間にしかできない職業が残っています」
ロボットはにっこりとモニターで笑い、スライドを表示した。
《適正職種:クレーム対応》
「……なぜそれだけ人間なんですか?」
「ご理解いただけるかと。機械は、理不尽を処理できません」
N氏は深くうなずいた。
「確かに、それは本物の地獄ですからね」
「ご就業、前向きにご検討ください」
ロボットは立ち上がると、ぺこりとお辞儀した。
「なお、初出勤は明日8時です。もう決定済みです」
N氏は立ち上がり、ぽつりとつぶやいた。
「地獄に、就職か……」
今週も先週に引き続き「ノックの音がした」の書き出しで始まるショートショートを作りたいと思います。
星新一さんは、15作品作られたので、15作品まではこのテーマで作って行こうかなと思ってます。
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