音の終着点|ショートショート【ノックの音が】
ノックの音がした。
老人はゆっくりと振り返った。ドアの向こうには誰もいない。代わりに、空間に歪みが生まれ、そこから一冊の古びた本が滑り落ちてきた。「人類最終報告書」と題されたそれは、奇妙な金属で装丁されていた。
老人はかつて高名な言語学者だった。引退後も書斎にこもり、難解な古代文字の研究に没頭していた。その日も、地球上のあらゆる言語が、やがてはたった一つの普遍的な音に収斂するという自身の仮説の最終段階にあった。
おもむろに本を開くと、頁には文字ではなく、無数の点が複雑なパターンで描かれていた。しかし、老人にはそれが読めた。長年の研究の成果が、その瞬間、爆発的に結びついたのだ。点と点が織りなすパターンは、まさに彼が探し求めていた普遍的な「音」の視覚化だった。
老人は息をのんだ。その音は、宇宙の始まりから終わりまでを内包し、森羅万象の真理を語っていた。同時に、人間のあらゆる思考、感情、行動が、この一つの音の単純なバリエーションに過ぎないことを理解した。喜びも、悲しみも、怒りも、愛も、すべてはただの響き。そして、人類の歴史もまた、この音のわずかな変調に過ぎなかった。
本がパタリと閉じた。次の瞬間、老人の体は無数の光の点に分解され、静かに書斎の空気に溶けていった。部屋には、微かな、しかし確かに響くノックの音だけが残っていた。それは、次の「読者」を探す、普遍的な呼び声のように。
星新一氏の書籍に「ノックの音が」があり、収録されている15作品全ての物語が「ノックの音がした」で始まる。
同じ書き出しでもそこから様々なストーリーが展開される私の好きな書籍の一つである。
なので、今回「ノックの音が」ショートショートを作りたいなと思いました。
皆さん、どれかお好きな作品ありましたでしょうか。
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