黄金の木の実|ショートショート
むかしむかし、深い森に実をつける木がありました。
その実を集めれば集めるほど、動物たちは豊かになれると信じられていました。
一匹のキツネが考えました。
「ほかのやつらから実を集め、森いちばんの金持ちになろう」
キツネは森じゅうを歩き回り、こう言いました。
「木の実を増やす秘訣を知っている。ただし、少し分けてくれ」
リスもウサギも疑うことなく渡しました。
袋はたちまちいっぱいになり、キツネはほくそ笑みました。
ところが、森の奥には「黄金の木の実」がなるという噂がありました。
それを手にすれば、どんな願いもかなうというのです。
「黄金さえあれば、もう誰にも負けない」
欲に駆られ、キツネはさらに奥へ進みました。
やがて古い神殿にたどり着きました。
黒ずんだ扉に、こう刻まれていました。
《もっと欲しい者は、ここに魂を置いていけ》
キツネは笑いました。
「魂なんて、持っていても腹の足しにならない」
そして迷わず扉を開けました。
その夜、森からキツネの姿は消えました。
神殿の前には、黄金の木の実がひとつ、冷たく転がっていました。
光ってはいたが、誰も拾おうとしません。
遠くで、リスが小さな木の実を磨いていました。
その実だけが、ほんのりと温かい光を放っていました。
9月の空が高く、森の緑も少しずつ秋色を帯びてきました。
欲望と代償というテーマは、昔話の中で何度も語られてきましたが、今の時代にも通じるものがあります。
小さな温もりを大切にできる心を、物語を通して感じていただけたなら嬉しいです。
#ショートショート
#星新一
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