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ノックの目覚め|ショートショート【ノックの音が】

ノックの音がした。

男は、深い眠りから覚めた。
ここはどこだ?

見慣れない天井、硬いベッド。
記憶が曖昧だ。
昨夜、何をしていた?

そうだ、酒を飲んだ。
ひどく酔って、それから……。

再び、ノックの音。
今度ははっきりと、規則正しく三回。
男は体を起こし、ドアを見た。
ドアノブに、小さな紙片が挟まっている。

「お目覚めですか、お客様。お食事の準備ができております」

丁寧な筆致。
しかし、男は自分がこの部屋に泊まった覚えがない。
財布も、携帯電話も、身分を証明するものは何もない。
ただ、着慣れない清潔なパジャマを着ているだけだ。

恐る恐るドアを開けると、そこは廊下だった。
左右に同じようなドアが並び、どこまでも続いている。
廊下の奥からは、香ばしい匂いが漂ってくる。
誘われるように進むと、食堂のような広い空間に出た。

そこには、男と同じように困惑した表情の人間たちが、無言で食事をしていた。
皆、清潔なパジャマ姿。
誰もが、自分がなぜここにいるのか、これからどうなるのか、まるで理解できていないようだった。

男は席に着き、出されたパンとスープを口にした。味は悪くない。
むしろ、ひどく美味い。
しかし、その美味しさが、かえって男の不安を募らせた。

食事を終え、再び部屋に戻ると、ベッドの上に新しい紙片が置かれていた。

「本日のスケジュール」と書かれている。
午前中は「自由時間」、午後は「教養講座」、夜は「娯楽」。
まるで、どこかの施設に収容されたかのようだ。

男は窓に近づいた。
外は、見渡す限りの白い壁。
空は見えない。どこまでも続く白い壁。

そして、その壁の向こうから、かすかに、しかし確かに、ノックの音が聞こえてくるような気がした。

それは、この施設の外の世界から、誰かが自分たちを探している音なのか。それとも、この施設そのものが、誰かのノックによって作られた、巨大な箱庭なのか。

男は、与えられたスケジュール通りに一日を過ごした。
自由時間には、他の「お客様」たちと世間話をした。
皆、男と同じように、ここに来るまでの記憶が曖昧だった。
教養講座では、退屈な講義を聞いた。
娯楽では、意味不明なゲームをした。

夜、再びベッドに横たわった。
ノックの音は、もう聞こえない。

しかし、男は確信した。
このノックの音は、自分たちがここにいる理由なのだと。

そして、このノックが止まるとき、何かが始まるのだと。
それは、解放か、あるいは……。


翌朝、男は目覚めた。ノックの音がした。


星新一氏の書籍に「ノックの音が」があり、収録されている15作品全ての物語が「ノックの音がした」で始まる。
同じ書き出しでもそこから様々なストーリーが展開される私の好きな書籍の一つである。
なので、今回「ノックの音が」ショートショートを作りたいなと思いました。
皆さん、どれかお好きな作品ありましたでしょうか。

#星新一 #ショートショート #ノックの音が

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