見出し画像

メルトダウンする伯爵|毎週ショートショートnote

かつて名門と謳われたD伯爵の家は、今や自動化邸宅の孤島だった。 妻も子も去り、本物の人間は伯爵ひとり。邸内を満たすのは、AI執事とロボットの客たちだ。伯爵の願いはただ一つ、「永遠に続く完璧な舞踏会」だった。

毎夜、自家発電機は唸りを上げ、広間ではロボット紳士淑女が完璧なステップで舞った。彼らは疲れない。誰も否定しない。伯爵は満足だった。

その夜、ワルツの最中に照明が明滅した。

「警告。発電システム過負荷。メルトダウンまで、残り三分」

AI執事の声が緊張に震える。

伯爵は立ち上がると、地下の灼熱の機械室へ駆け下りた。冷却パイプが破裂し、炉心が溶け始めていた。

「自分ひとりのパーティーさえ、守れないのか」

彼は自嘲し、素手で破裂したパイプを押さえつけ、予備バルブを回した。白い蒸気が噴き出し、警報は止んだが、致命的な熱が肉体を焼き尽くした。

AI執事が駆けつけた時、伯爵は動かなかった。その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。 





三日後。

邸宅の広間には、いつものように華やかなパーティーの灯がともっていた。

「今宵も素晴らしい舞踏会ですね」

ロボット客の賛辞に、以前より滑らかで、疲れを知らない新しい「D伯爵」が優雅に応える。
その笑顔は完璧で、決して崩れることがない。

D伯爵邸の舞踏会は、これからも途切れることなく続く。誰ひとり、本物がいなくなっても。

(568文字)


今回参加させていただいたのは、いつも感謝。
こちらの企画になります。

https://note.com/tarahakani/n/n3849f79facb5


#毎週ショートショートnote
#メルトダウンする伯爵



いいなと思ったら応援しよう!

ナオユキ|物語と知識のコンシェルジュ もしこの記事が少しでも役に立ったり、楽しんでいただけたりしたら、チップをいただけるととても嬉しいです! いただいたチップは、今後のより良いコンテンツ制作のための書籍代📚とnote購入🗒️、他の方へのチップ代💰に使わせていただきます。 いつも応援ありがとうございます!