届けにきたもの|ショートショート【ノックの音が】
ノックの音がした。
N氏は湯飲みを置き、玄関へ向かった。
扉の外には、小さなロボット。
ピンクの配達帽をかぶり、手には小さな箱。
「“未配達感情”のお届けです」
「感情?」
「はい。かつて誰かが、あなたに伝えようとして果たせなかった“ありがとう”や“ごめんね”などを、言動記録や感情ログから再構成し、いまお届けしています」
ロボットは箱を差し出した。
軽くて、ほのかにあたたかい。
「あなた宛てには、近所のパン屋、小学時代の担任、昔の同僚などからの感情が確認されています」
N氏は黙って箱を開けた。
パンの香り、チョークの粉、コーヒーの匂い──それらが胸に静かに広がった。
「……俺も、言いそびれた言葉があるな」
「ご安心ください」
ロボットが言った。
「あなたの“ありがとう”も、記録されており、すでに三年前に送信されています」
「古本屋の店主に……だろ?」
「はい。送信記録が確認できます」
N氏は、ふっと微笑んだ。
「……届いたんだな。なら、よかった」
ロボットは少しだけ間を置き、静かに告げた。
「ただし、受信は確認されていません」
「……え?」
「データによると、その方は、送信の二日前に亡くなっていました」
春の光が、ドアの隙間から差し込んでいた。
N氏は箱を胸に抱え、目を閉じた。
「遅かったのか……」
ロボットは一礼し、音もなく去っていった。
風が吹いた。
N氏は、小さくつぶやいた。
「……次は、ちゃんと、間に合わせる」
最近、noteでは、プログラミングとTOEICの勉強の記事とショートショートを投稿させていただいております。
自分の中でも定着してきて、平日は勉強系の記事、土曜はオリジナルショートショート、日曜は たらはかにさん の毎週ショートショートnoteのお題にあった作品を投稿していきたいと思っております。
また、土曜の作品にはこのようなあとがきじゃないですけど、コメントを少し記載していこうかなと思っておりますので、よろしくお願いします。
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