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カウントダウンする脈拍|毎週ショートショートnote

僕の手首には、ある朝から「リメインダー」と呼ばれる奇妙なデバイスが装着されていた。それは脈拍を管理すると同時に、僕に残された寿命を、分単位でリアルタイムにカウントダウンする。デジタル表示は常に冷たく、正確だった。まるで、秒針のないメトロノームみたいに。

もちろん、誰にもこのことを話せなかった。僕はトーストにバターを塗りながら、残り時間が減るのを眺めた。カウントがゼロになる瞬間、僕の脈拍もゼロになる。ただそれだけだ。

悔いを残さない生き方、というやつは、結局のところ毎日完璧なドリップコーヒーを淹れることと、誰にも言えない秘密を紙に書いて、それを細かくちぎって下水道に流すこと、くらいしかなかった。壮大な旅も、ドラマチックな告白もいらない。世界はいつも通り静かで、それが心地よかった。

ある日、カフェの窓際で、ターンテーブルからモンクの「Ruby, My Dear」が流れ終えるのを待った。ピアノの旋律は、遠い思い出のようで、とても切なかった。

リメインダーの表示は00:00:03

僕は静かに目を閉じた。風が窓を叩く音がした。それは遠い汽笛のように聞こえた。やがて、デバイスの表示がゼロになり、同時に脈拍も静かに途切れた。

僕の人生は、まるで誰も読まなかった本の最終ページみたいに、あっけなく、そして穏やかに閉じられた。

(557文字)


今回参加させていただいたのは、いつも感謝。
こちらの企画になります。

https://note.com/tarahakani/n/n3849f79facb5

モンクの「Ruby, My Dear」はこちらです。
寂しさと美しさが入り混じった曲ですね。


#毎週ショートショートnote
#カウントダウンする脈拍


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