こざかしい落下|毎週ショートショートnote
「バター面が必ず下になるのは、宇宙のこざかしい悪意だ」
物理学者の八雲博士は、そう信じていた。
毎朝、トーストを床に落としては
「またバターが下だ!」
と叫び、妻の玲子に怒鳴られていた。
「床を拭くのは誰だと思ってるの!」
博士は執念を燃やした。
重心調整装置付きトーストホルダー、空気抵抗制御ファン、回転予測センサー搭載テーブル。
研究室は、こざかしい落下を制御するための巨大マシンで埋め尽くされた。
だが、結果は変わらない。
バター面は、必ず下になる。
ある朝、博士は静かにトーストを用意し、テーブルの端から落とした。
パンは宙を舞い、くるりと半回転。
床に着地したのは、バターが塗られていない面だった。
「見たまえ、玲子! 法則が破られた!」
玲子は床を見て、ため息をついた。
「ええ。でも、バターの裏面に塗られたイチゴジャムのほうは、見事に床に付いているわ」
八雲博士は、
勝利の瞬間、「敗北の定義」が更新されたことに気づいた。
今回参加させていただいたのは、いつも感謝。
たはらさんのこちらの企画になります。
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