『SNSで炎上』はそもそも矛盾している、という衝撃の事実:AI書評 『子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由』
「子どものSNS依存が心配で、思い切って使用禁止にしました」
そういう親御さんの話を、臨床の現場でも耳にします。気持ちはよくわかる。でも、ちょっと待ってほしいんです。
情報学の第一人者・中央大学教授の岡嶋裕史さんが書いた『子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由』(光文社新書、2025年)を読んで、正直、目からウロコが落ちました。
「問題はSNSじゃない。拡散するXのような仕組みと、それを使う大人の側にある」という主張が、データと論理で丁寧に展開されています。子どもを守りたいなら、まず大人である私たち自身を見つめ直す必要があるかもしれません。
そもそも「SNS」って、ちゃんと定義できますか?
この本を読んで最初に驚いたのが、「SNSで炎上」という言葉自体が、情報学的には矛盾しているという指摘です。
本来のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、特定の仲間内で情報をやりとりするクローズドな場。LINEのグループチャットやDiscordのサーバーがその典型です。ここは構造的に「外部と衝突しにくい」設計になっています。閉じた世界の中で完結するから、炎上が起きにくいんですね。
では、日々ネットで起きている誹謗中傷や社会的分断の温床はどこか。それは「拡散系サービス」、特にXです。フィルターバブル(似た者同士が集まる性質)で固まった強烈な正義感が、Xの拡散力によって全く違う価値観の人たちにぶつかる。そこで炎上が生まれる。
この区別なしに「SNS規制」を議論するから、的外れな結論になってしまう、と岡嶋さんは言います。規制のターゲットを間違えているわけです。
大人は「承認欲求」をXで満たしている
では、なぜ大人はXで攻撃的になるのか。
現代社会で実社会の成果を積み上げ、周囲から認められるのは、昔以上に難しくなっています。努力して地位を得るのは時間もリスクも大きい。
でもXなら違う。誰かを批判したり、怒りを煽る投稿をするだけで、爆発的な反応が返ってくる。特別なスキルも時間もいらない。それでいて「社会に爪痕を残した」ような万能感が瞬時に得られる。
さらにイーロン・マスク買収後のXは「インプレッション収益化」を導入しました。刺激的な投稿をすればするほど、お金になる仕組みです。炎上が「ビジネスモデル」になってしまった。
岡嶋さんはこれを「正義棒(せいぎぼう)」という言葉で表現しています。個人の正義感が、プラットフォームの拡散力と結びつくことで、他者を攻撃するための魔法の杖に変わってしまう。「他者を叩くことが、自分の立ち位置を守るための合理的な戦略になってしまう空間」というこの分析、読んでいてぞっとしました。
子どもに「公園禁止」を言い渡しても意味がない
世界各国で進む「子どものSNS利用制限」について、本書は「公園の割れたガラス」という比喩で一刀両断します。
公園に割れたガラスが散らばっていたとして、「だから子どもは公園禁止」とするのはおかしい。ガラスを撒いた大人を規制して、掃除をするのが筋でしょう、と。
子どもたちはデジタルネイティブです。クローズドなSNSを、居場所や避難所として上手に使いこなしている側面もある。そこから引き離すことは、人間関係を築く機会や学びの場を奪うことになりかねない。「教育の放棄」とまで本書は言い切っています。
公認心理師として私が感じるのも同じです。デジタル空間での繋がりが、孤立しがちな子どもの「心の拠り所」になっているケースは、実際に少なくない。一律に遮断することで、かえって孤独を深める危険性もあります。
じゃあ、どうすれば?3つの処方箋
本書が提示する解決策は、主に3つです。
① 「拡散されない仕組み」を作る
攻撃的な言説がアルゴリズムで自動的に増幅されないよう、プラットフォーム設計を変える。透明性の確保も含め、インフラの構造的な変更が必要という主張です。個人の「道徳心」に任せていても限界がある、ということです。
② AIによる「コクーン(繭)」の活用
AIが管理するフィルターで、個々人をネット上の荒波から守る「繭」の中に収まるという未来像です。人間は他人に論破されることには耐えられなくても、AIの全肯定的な対話には心を開きやすい。分断が「幸せな形」で加速するディストピア的な側面もあるとしながら、著者は現実味のある選択肢として提示しています。
③ アナログな対話への回帰
最後に、そして一番シンプルな答えとして示されるのが「直接会って話す」こと。拡散も可視化もされない対面の対話の中にしか、壊れた信頼を取り戻す道はない、と著者は言います。デジタルで解決しようとしてきた問題を、あえて非効率なアナログで解こうという逆転の発想です。
読み終えた後に気づいたこと
この本の最後には、こんな問いかけがあります。
「あなたは、この本の感想をさらに拡散するだろうか。それとも、いま目の前にいる誰かに話してみるだろうか」
自分自身のスマホの使い方を、ふと振り返りました。医療現場でも「情報を発信する」ことは増えています。でもそれが「正義棒」になっていないか。拡散のための拡散になっていないか。
問題を「子どもとスマホ」に矮小化するのではなく、情報流通の設計そのものを問い直す視点は、医療・福祉・教育に関わるすべての大人に必要な視点だと感じました。
ネット社会の「なんかおかしい」をちゃんと言語化してくれる、数少ない一冊です。ぜひ手に取ってみてください。
#SNS規制 #デジタルリテラシー #子育てとスマホ #メンタルヘルス #情報社会
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