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なぜ最近ネットが『やけに前向き』なのか|AI生成テキストの正体を追う:論文解説

最近、ネットで記事を読んでいて、「なんだか似たような言い回しばかりだな」「やけに前向きな話が並んでいるな」と感じたこと、ありませんか?

私は医療現場で公認心理師として働いていますが、患者さんから「ネットで調べてもどれも同じに見える」「読んでも頭に残らない」という声を聞くことが、この1〜2年で急に増えてきました。

これは気のせいなのか、それともネット空間で実際に何かが変わっているのか。今年4月に発表された大規模調査が、その答えの一端を、かなり意外なかたちで明らかにしてくれました。

論文:
The Impact of AI-Generated Text on the Internet


35%という数字が静かに教えてくれること


その研究は、インターネット・アーカイブ、スタンフォード大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちによるものです(2026年4月発表)(pre print: 正式な査読をうけていないようです)。彼らは2022年8月から2025年5月までに公開された膨大なウェブサイトを分析し、「いま、ネット上にどれくらいAI生成テキストが流れ込んでいるのか」という、これまで誰も大規模に答えてこなかった問いに正面から取り組みました。

結果は、私の想像をはるかに超えていました。

ChatGPTが登場した2022年末まではほぼゼロだったAI生成・AI支援の文章が、2025年半ばには新規公開ウェブサイトのおよそ35%を占めるようになっていた、というのです。

3年足らずで、3つに1つ。

これは「なんとなくAIっぽい記事が増えたよね」というレベルの話ではなく、私たちが日常的に触れている情報環境そのものが、静かに、しかし確実に変質しているということを意味します。

私が一番驚いた、「思い込み」と「現実」のズレ


ここからが本当におもしろい話です。

研究チームは、AI生成テキストの広がりが具体的にどんな悪影響を生んでいるのか、6つの仮説を立てて検証しました。事実誤認が増えたのか、文体が画一化したのか、そういった一つひとつの「みんなが感じている悪化」を、データで確かめにいったわけです。

そして、アメリカの成人を対象にしたアンケートも同時に行いました。「最近のネット、こうなってない?」と聞いたんですね。

すると、人々の答えは見事に一致していました。「事実誤認が増えた」と感じる人は75%、「文体が均質化している」と感じる人は実に83%。多くの人が、AIによってネットがどんどん劣化していると信じている、という結果でした。

ところが、データを実際に分析してみると、話はまったく違ったのです。

事実誤認の増加は、統計的に有意な相関が見つかりませんでした。文体の画一化も、外部リンクの減少も、文章の冗長化も、いずれも統計的に確認されませんでした。

つまり、多くの人が「AIで悪化している」と信じている部分の多くは、少なくとも現時点では、思い込みである可能性が高い、ということです。

これは私には、とても大事な発見に思えました。

心理師として注目した、3つの変化


ただし、研究チームは「思い込みでしたね、よかったね」で話を終わらせていません。逆に、人々がそれほど騒いでいなかったところで、はっきりとデータに表れた変化が二つありました。

ひとつめは「意味の収縮」です。AI生成と判定された文章どうしを比べると、意味的な類似度が、人間の書いた文章どうしの比較より33%ほど高かった。つまり、AIが書いた文章は、互いに似たような内容に収束していく傾向が、確かにあるのです。

ふたつめは「ポジティブシフト」。AIが書いた、あるいはAIが手を加えた文章は、人間が書いた文章にくらべて、ポジティブな感情を含む割合が107%も高いことがわかりました。倍以上です。やけに前向き、やけに明るい、やけに耳ざわりがいい——あの感覚は、気のせいではなかったわけです。

そして三つめ。これは私にとって一番気になった結果なのですが、AIをあまり使わない人や、AIに対して否定的な人ほど、「ネットが劣化している」と強く信じる傾向があったのです。AIをよく使う人との差は、12〜20ポイントもありました。

ここから、心理師の視点で考えたいことが見えてきます。

なぜ「ネットを開くと疲れる」人が増えているのか


私が日々の臨床で出会う方の中にも、SNSや情報サイトを見たあとにぐったり疲れてしまう、自分の気持ちが沈むのが怖くて開けない、という声を持つ人は少なくありません。

そういう疲れの原因を、これまでは「情報過多」や「比較によるストレス」で説明することが多かったと思います。それは今も大事な視点です。ただ、今回の研究を踏まえると、もうひとつ見えてくるものがあります。

それは、私たちが触れている情報の3割が、「平均的で」「前向きで」「角の取れた」テキストになっている、という事実です。

人間の感情は、そもそも均一なものではありません。落ち込みも、怒りも、戸惑いも、誰にでもある自然なものです。でも、目に入る世界が「明るい話」で塗り固められていると、自分のなかにあるネガティブな気持ちのほうが「おかしいもの」「治すべきもの」のように感じられてしまう。

これは、心理学でいう「社会的比較」が、相手をAIにまで広げてしまっている状態とも言えます。比較対象が、生身の悩める誰かではなく、底抜けに前向きな機械の文章になっているのです。これでは疲れて当然なんですよね。

知らないより、知っているほうがずっと楽になる


この研究を読み終えたとき、私は静かに胸をなで下ろしました。世の中が思っているほど、ネットは「嘘だらけ」「壊れた」状態ではない。これは大事な事実です。「もう何を信じていいか分からない」という諦めに陥らずに済む、ということでもあります。

一方で、確かに進行している変化もある。意見の幅が狭くなり、文章のトーンが不自然なほど明るく寄っている。これも事実です。

私が一番大切だと思うのは、変化の正体を正しく知ることで、必要以上に怖がらなくて済むようになる、ということです。

ネット記事を読んで「やけに前向きすぎる」と違和感を覚えたとき、それは読み手であるあなたの心がひねくれているからではありません。実際に、文章のテイストが偏ってきているからです。あなたの感覚は正しい。

そして、その違和感を持てるあなたは、AI時代をきちんと歩いていける人です。

正直に、ひとつ書いておきたいこと


ここまで読んでくださった方に、ひとつ正直な告白をしておきます。

実はこの記事も、AIの力を借りて書いています。

ただ、丸投げはしていません。研究論文を自分の目で読み込んで、「ここが心理師として響いた」という部分を選び取り、日々の臨床で患者さんから聞く声と重ね合わせ、自分の書き方のクセ——ちょっと回りくどい問いかけや、文の終わりに余韻を残す感じ、「〜なんですよね」と話し言葉が混ざる感じ——を意識的に残しながら書きました。

つまり、この記事はまさに今回紹介した研究でいうところの、35%の中の一本にあたる「AI支援」の文章です。

これを書くべきか、書かないべきか、少し迷いました。けれど、AIで書かれた文章を一律に「悪いもの」と決めつけるのも、AIで書かれているのを隠して読ませるのも、どちらもこの記事の主旨には合わないと思ったのです。

大事なのは、書き手が自分の頭で考え、自分の経験を通して言葉を選んだかどうか。そして、それを読み手に正直に伝えているかどうか。AIをどう使うかというより、人間がそこにどう関わっているかが、文章の意味を決めるのではないかと、私は思っています。

終わりに


今回の研究から、私が皆さんとぜひ共有したかったポイントを、最後にまとめておきます。

ひとつめ。2025年半ばの時点で、新しく公開されるウェブサイトの3割以上がAIによって生成、あるいは支援されています。これは数年前にはなかった変化で、今後も増えていく見込みです。

ふたつめ。多くの人が信じている「AIで事実誤認が増えた」「文体が画一化した」といった悪化は、研究データではまだはっきりとは確認されていません。むしろ、私たちの不安が、現実より少し先回りしている可能性があります。

みっつめ。一方で、AI生成の文章は意味的に似通ってくる傾向と、不自然なほど前向きな感情を含む傾向が、データではっきりと示されました。あなたが感じている違和感には、ちゃんと根拠があります。

よっつめ。AIに馴染みのない人ほど、ネット情報への不安が強くなっています。だからこそ、知ることが、いちばんの薬になります。

いつつめ。違和感を覚えたあなたは、間違っていません。その感覚を大切にしながら、ときには画面から離れ、生身の人と、生身の言葉でやりとりする時間を持ってください。それは、AIにはまだ書けない領域だからです。

情報は、上手に距離を取りさえすれば、私たちの味方でいてくれます。「全部信じる」でも「全部疑う」でもない、その中間にちゃんと立ち位置がある。あなたは、自分なりの距離感を見つけていける人です。私はそう信じています。

長文にもかかわらず、最後までお付き合いくださりありがとうございます。これからも、いい意味で"ちょっとだけマニアックな"情報を届けていけたらと思います。

#AIと暮らす #公認心理師 #情報リテラシー #メンタルヘルス #デジタルウェルビーイング


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