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読者は増えているのに潰れそう——ファクトチェック業界の矛盾

あなたは最近、SNSで流れてきた健康情報を「本当かな?」と疑った経験はありませんか?

「〇〇を食べれば免疫力アップ」「この治療法で確実に治る」——こうした真偽不明の情報が日々飛び交うなかで、私たち医療関係者でさえ、一瞬「あれ、これ本当だっけ?」と立ち止まることがあります。そんなとき、静かに事実を検証し、正確な情報を届けてくれる人たちがいます。ファクトチェッカーと呼ばれる存在です。しかし今、その人たちが深刻な危機に直面していることをご存じでしょうか。2026年4月に公表された国際レポートを読み、私は医療者の一人として「これは他人事ではない」と強く感じました。今日は、そのレポートから見えてきたことを、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。


4月2日は「国際ファクトチェックデー」——ご存じでしたか?


正直に言うと、私自身もこの記念日のことを最近まで知りませんでした。毎年4月2日は、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)が2016年に定めた「国際ファクトチェックデー」です。世界中のファクトチェッカーの功績をたたえるとともに、「事実を守ることは私たち全員の責任だ」というメッセージを社会に発信する日なんですね。

この日に合わせて今年発表されたのが、「State of the Fact-checkers 2025」というレポートです。71カ国、141の組織を対象にした大規模調査で、ファクトチェック業界のリアルな姿が浮き彫りになっています。そして、そこに書かれていた内容は、私の想像以上に厳しいものでした。

「お金がない」——89%が資金難を最大の課題と回答


このレポートで最も衝撃的だったのは、業界の財務状況です。なんと、ファクトチェック組織の89.1%が「資金難と持続可能性」を最大の課題として挙げています。

医療の世界にたとえるなら、「病院の9割が経営難です」と言われているようなものです。そう聞いたら、誰だって不安になりますよね。

背景には、Meta社(旧Facebook)が米国での独立ファクトチェックプログラムを終了したこと、さらにUSAIDの支援削減といった大きな変化があります。これらの影響を受けて、45.3%の組織が収益の減少を報告しています。自分たちの財務を「持続可能」と言い切れたのはわずか22.6%。逆に76%の組織が「脆弱」か「危機的」と答えているのですから、もはや業界全体が"集中治療室"にいるような状態です。

しかも、半数以上の組織が収入の半分以上を一つの収入源に頼っている。たった一つのスポンサーが手を引けば、そのまま活動が立ち行かなくなるリスクを抱えているわけです。実際に38.3%の組織がスタッフの削減を余儀なくされており、数字を見るほどに胸が痛みます。

「読者は増えている」のに「潰れそう」——この矛盾が面白い


ここが今回のレポートで私が最も注目したポイントです。予算が減り、スタッフも減っているのに、62%の組織がオーディエンス(読者・視聴者)の拡大に成功しているのです。

普通に考えると、「お金がない→活動が縮小→読者も減る」となりそうですよね。でも現実は逆でした。その秘密は、コンテンツの「見せ方」の変化にあります。

従来のテキストベースの長文レポートから、ショートフォーム動画やインフォグラフィックといったビジュアル重視のコンテンツへと軸足が移っているのです。72.3%の組織がショート動画を、44.5%が視覚的な解説を「新規層の獲得に最も効果的」と答えています。

これって、私たち医療関係者にとっても大きなヒントだと思いませんか? 医療情報の発信も、正確さを保ちながら「伝わる形」にアップデートしていく必要がある。「正しいことを書けばそれでいい」という時代ではなくなっているのだと、改めて感じさせられます。

AIは味方? それとも脅威?——ファクトチェッカーの複雑な関係


もう一つ、このレポートで見逃せないのが、AIとの向き合い方です。53.3%の組織がすでにワークフローにAIを統合しているという事実には驚きました。主に調査・情報収集(77.4%)や翻訳(55.5%)といった場面で活用されており、AIの倫理ガイドラインを設ける組織も50.4%に増えています。

しかしその一方で、AIが生み出すディープフェイクや合成メディアを「大きな課題」とみなす組織が約半数(49.6%)にのぼります。つまり、AIは「検証の武器」であると同時に「検証すべき対象」でもある。この二重構造が、2025年のファクトチェック業界の最大の特徴だと私は感じています。

公認心理師としての視点を加えると、ディープフェイクの問題は技術の問題だけではありません。「見たものを信じたい」という人間の認知バイアスが根底にあります。いくら技術が進歩しても、人の心理的な傾向が変わらない限り、ディープフェイクは常に一定の効果を持ち続ける。だからこそ、ファクトチェックという営みは、テクノロジーの問題であると同時に、心理学的な問題でもあるのです。

訴訟、政府圧力、ハラスメント——「事実を伝える」ことの代償


レポートにはさらに厳しい現実も記されていました。ジャーナリズム活動に関連した訴訟に直面した組織は20.4%、政府からの圧力や干渉を受けた組織は29.2%にのぼっています。

ファクトチェッカーへの嫌がらせ全体の発生率は65%に低下したとはいえ、被害を受けた組織の24.1%は「頻度がむしろ増えた」と答えている。つまり、全体としては減っているように見えても、特定の個人や組織への攻撃が集中化・先鋭化しているわけです。

「事実を伝えるだけなのに、なぜ攻撃されなければならないのか」——そう思わずにはいられません。これは医療の世界でも無縁ではない話です。感染症対策やワクチンについて科学的根拠に基づく情報を発信した医療者が、SNSで激しいバッシングを受けるケースは、日本でも実際に起きていますよね。事実を守ろうとする人を守る仕組みが、社会にもっと必要なのだと強く感じます。

「みんなで力を合わせる」——94.9%が組織間連携


こうした厳しい状況のなかでも、希望の光はあります。94.9%の組織が他機関との連携を行っており、月1回以上定期的にコラボレーションする割合は、前年の35.3%から58.4%に急増しました。

一つの組織だけでは守りきれない事実を、みんなで分担して守る。これは「チーム医療」に通じる発想だと思います。専門性の異なるメンバーが連携して患者さんを支えるように、ファクトチェックの世界でも"チームワーク"がこれまで以上に重要になっているのです。

ただし、リソース不足の影響で、カバーできるテーマの範囲は狭まっています。特に気候科学に関するファクトチェックが75.2%から55.5%へ、歴史的主張に関するものが59.9%から40.1%へと急減しているのは見過ごせない変化です。人手が足りなくて、手が回らないテーマが増えている。これは社会全体にとって、情報の「空白地帯」が広がっていることを意味しています。

私たちに何ができるのか——3つの提案


ここまで読んで、「でも自分はファクトチェッカーじゃないし」と思われた方もいるかもしれません。でも、事実を守ることは、専門家だけの仕事ではありません。私たち一人ひとりにできることがあります。

まず一つ目は、情報の「出典」を確認する習慣をつけることです。SNSで気になる情報を見かけたら、「これは誰が、どんな根拠で言っているのか」を一呼吸おいて考える。それだけで、誤情報に振り回されるリスクはぐっと下がります。

二つ目は、信頼できるファクトチェック組織の活動を知り、応援することです。日本にもファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)という組織があります。彼らの活動を知るだけでも、情報リテラシーは確実に高まります。

そして三つ目は、「確かな情報」を発信する側に回ることです。医療関係者であれ、そうでなくても、自分の専門分野で正確な情報を発信することは、社会全体のファクトチェック力を底上げすることにつながります。

終わりに


今回の記事でお伝えしたかったポイントをまとめます。

・ファクトチェック業界は深刻な資金難に直面しており、76%の組織が「脆弱」か「危機的」な状態にある。

・それでも読者は増えており、ショート動画やビジュアルコンテンツへの適応が功を奏している。

・AIは検証の武器であると同時に、ディープフェイクという新たな脅威も生んでいる。

・訴訟やハラスメントなど、事実を伝える人々への圧力は依然として深刻である。

・組織間連携が急速に進んでいるが、カバーできるテーマの範囲は狭まっている。

「事実を守る」という地味で地道な営みは、私たちの社会の土台そのものです。その土台を支えている人たちが今、苦しんでいる。でも、事実を大切にする姿勢は、特別な専門家でなくても、誰もが日常のなかで実践できるものです。

あなたが今日、一つの情報の出典を確認するだけで、この世界は少しだけ良くなる。私はそう信じています。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。


#ファクトチェック #情報リテラシー #メディアリテラシー #医療者の視点 #ディープフェイク


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