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『三体』の恐怖が現実に?と思って調べたら、犯人は宇宙人でも国家でもなく自分の脳だった話

あなたは最近、こんなニュースを目にしたことはありませんか。

米国や中国で、核兵器や宇宙科学、AIといった最先端の機密研究に携わる科学者たちが次々と不審な死を遂げている」というものです。

SNSやYouTubeでは「他国のスパイによる暗殺だ」「政府が秘密を隠すために消したんだ」という声があふれ、SFの名作『三体』の世界が現実になったかのような空気が漂っています。

私もこのニュースを最初に見たとき、正直、ゾッとしました。でも同時に、「待てよ」とも思ったんです。公認心理師として情報の読み方を学んできた私が感じた、その「待てよ」の正体を、今日は丁寧にお話しさせてください。


まず、小説『三体』が描いた恐怖から話を始めよう


この騒動を語るうえで、どうしても外せないのがSF小説『三体』の存在です。

劉慈欣(リウ・ツーシン)が書いたこの作品の第一部は、世界中のトップ科学者が次々と自殺するところから幕を開けます。主人公のナノ素材研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある日突然、軍や政府高官が集まる秘密会議に連れて行かれ、事件の全貌を告げられます。顔なじみの女性物理学者・楊東(ヤン・ドン)も、「物理の基礎法則が崩壊した」という絶望から命を絶っていた。

物語が進むにつれ、この連続自殺の黒幕が明らかになります。それは、人類の科学技術の発展を阻止しようとする地球外文明「三体人」でした。物理実験の再現性を意図的に破壊し、「科学の基礎は嘘だった」と科学者たちを精神的に追い詰めて、自ら死を選ばせていたのです。

「天才たちが、目に見えない強大な力によって静かに消されていく」

このプロットが、今の現実のニュースと重なって見えるのは当然かもしれません。では、現実には何が起きているのでしょうか。

米国で起きていること:死因はあまりにも「バラバラ」だった


現実世界でも、確かに看過できない事態が起きています。

米国では近年、核融合研究、天文学、宇宙防衛、航空技術といった機密性の高い分野に関わる研究者が、最大11名ほど相次いで死亡・失踪しており、FBIや下院監督委員会が調査に乗り出しています。

たとえば、MITプラズマ・核融合センターの教授だったヌーノ・ロウレイロ氏は2025年12月にボストンで銃撃犯に殺害されました。カリフォルニア工科大学の天文学者カール・グリルマイヤー氏は2026年2月に路上強盗の被害に遭い命を落とします。一方、退役空軍少将だったウィリアム・マッキャスランド氏は携帯電話や財布を自宅に残したまま2026年2月に姿を消し、今も行方がわかっていません。ロスアラモス国立研究所に関わる人物も複数、失踪や死亡が報告されています。

これを見て「やはり組織的な暗殺だ」と感じた方、その感覚はとても自然です。でも、少し立ち止まってみてください。

これらの死因を並べると、銃乱射事件への巻き添え、路上強盗、山中での失踪、高齢による病死、個人的な自殺と、まるで統一感がないんです。もし国家レベルの暗殺作戦が動いているとするなら、なぜこれほど手法が雑多なのか。もっと証拠を残さない、整合性のある方法が取られるはずではないでしょうか。実際にFBIや地元警察が現場検証・司法解剖を行った結果、「単一の陰謀プロットに結びつく外部介入の痕跡」は現時点で見つかっていません。

中国でも起きている「静かな科学者戦争」


驚くべきことに、こうした動きは米国だけではありません。

中国でも2023年以降、AI防衛、極超音速兵器、衛星気象、マイクロチップ開発といった最先端分野に携わるトップ科学者が、少なくとも9名立て続けに亡くなったと報じられています。

中でも注目を集めたのが、国防科技大学教授で軍事AIの第一人者だった馮暘赫(馮陽鶴)氏の死です。彼は台湾侵攻シナリオを想定したAIシミュレーション「ウォー・スカル」の開発者とされており、2023年7月1日の深夜、北京で原因不明の交通事故死を遂げました。中国政府系メディアは「任務遂行中に犠牲になった」と報じ、異例の厚遇で埋葬されたといいます。

その後も、衛星気象の専門家、極超音速研究者、データサイエンスの研究者など、機密性の高い分野の人物が次々と「交通事故」「急死」「原因不明の死」として処理されていきます。透明性ある捜査結果はほとんど公開されておらず、中国国内のSNSでは「米軍やCIA、台湾のスパイによる暗殺ではないか」という声が相次ぎました。

確かに、深夜の交通事故で最重要AIプロジェクトの責任者が亡くなるというのは、感覚的に「おかしい」と思わせます。ですが、感覚的な違和感と、証拠に基づく事実は、別物です。

私たちの脳に組み込まれた「犯人探しセンサー」の話


ここからが、公認心理師として私が最も伝えたいことです。

なぜ私たちは、バラバラな出来事の裏に「陰謀」や「意図した黒幕」を見出してしまうのか。その答えは、進化心理学が提唱する「エージェンシー検出バイアス」、英語では「HADD(Hyperactive Agency Detection Device=過活動エージェンシー検出装置)」という概念にあります。

少し想像してみてください。今から数万年前、アフリカのサバンナに生きていた私たちの祖先が、草むらの「ガサッ」という音を聞いたとします。このとき、「風かな」と思って無視した個体が、もしそこに虎が潜んでいたら、命を落とします。反対に、「何かいる!逃げろ!」と直感した個体は、たとえ風の仕業だったとしても、無駄な体力を消費するだけで生き延びられます。

つまり進化の過程で、「迷ったら意図があると思え」という判断をする脳を持つ個体の方が生存率が高かった。その結果、私たちは全員、意図や意志を持った「誰か」(エージェント)の仕業を常に探し続ける、過敏なセンサーを脳に宿しているんです。

これを鮮やかに証明した実験があります。1944年、心理学者のハイダーとジンメルが行った研究です。被験者たちに、大小の三角形と丸がランダムに動くだけのシンプルなアニメーションを見せました。すると、ほとんどの人が「大きな三角形が小さな丸をいじめている」「小さな三角形が勇敢に立ち向かっている」という物語を自発的に作り上げたんです。意図も感情もない幾何学図形に、人間はドラマを見てしまう。これが私たちの脳の基本仕様なのです。

一つ、非常に重要なことをお伝えしておきたいことがあります。このバイアスは、知性の低さから来るものではありません。むしろ、パターン認識や因果関係を読み解く能力が高い人ほど、このセンサーが誤作動しやすいと言われています。つまり、賢く好奇心旺盛な人ほど、陰謀論に引き込まれやすい側面があるんです。あなたがこの記事に興味を持ったこと自体、その知的好奇心の証かもしれない。

統計学という名の「冷静な目」


では、数字の側面からこの問題を見てみましょう。

全世界には、軍事・宇宙・核・AIといった広義の先端技術に関わる研究者が、ざっと数十万人規模で存在します。その規模の母集団があれば、毎年一定数が病死し、事故死し、犯罪に巻き込まれます。これは、確率論から見ると当たり前の話です。

科学誌『Scientific American』は、「大数の法則により、膨大な数の出来事を観察すれば、ある部分に偶然パターンに見えるクラスター(群発)が生じることは不思議ではない」と分析しています。社会学者のマイケル・シャーマー氏も、「米国では年間何千人もの人々が行方不明になったり殺害されたりしており、その中に科学者が含まれるのは統計的に異常ではない」と述べています。

もう一点、致命的な論理矛盾を指摘したいと思います。仮に他国が巨大なリスクを冒してトップ科学者を数名暗殺したとして、得られるメリットはどのくらいでしょうか。国家の軍事・宇宙インフラは、一人の人間に依存しないよう設計されています。エネルギー・核安全保障の専門家は「少数の研究者が亡くなっても、国家全体の研究能力や兵器開発に致命的なダメージはない」と口をそろえます。外交問題に発展するリスクと、得られる成果が全く釣り合わない。陰謀論が前提とする「合理的な計画」は、よく考えると合理的でも何でもないんです。

事実と解釈を、意識して切り離す習慣を持てるか


このテーマを通じて、私が最も伝えたかったのはここです。

情報を受け取るとき、私たちには二つの問いを持つ習慣が必要です。「これは事実か」と「これは解釈か」という問いです。

「ロウレイロ教授が銃撃犯に殺害された」は事実です。「国家の秘密を握っていたから消された」は解釈、つまり推測です。「馮暘赫氏が深夜に交通事故で亡くなった」は事実です。「CIAに暗殺された」は解釈です。

この二つを混ぜないこと。たったこれだけのことが、現代の情報社会を生き抜くうえで、驚くほど難しく、驚くほど大切です。

私自身、最初にこのニュースを見たとき、正直なところ「何か組織的なものがあるのでは」という感覚を持ちました。それは脳の自然な反応であり、恥ずかしいことでも何でもありません。でも、そのあとに「待てよ、これは事実か解釈か」と一歩引いて考える。この一歩が、陰謀論の沼から自分を救う踏ん張りどころになります。

もちろん、こう言ったからといって「絶対に陰謀などない」と断言できるわけでもありません。米国ではFBIが現在進行形で全件を精査しており、安全保障の観点から継続して注視していく必要があることは確かです。「確かめられていないことを断定しない」、これは陰謀論批判にも同様に当てはまる態度です。

大切なのは、「証拠がないのに決めつけない」こと。それが科学的思考の出発点であり、心理的に健全でいるための柱でもあると、私は思っています。

まとめ:今日覚えて帰ってほしい3つのこと


今日の話を整理すると、こうなります。

第一に、米中両国でトップ科学者の死亡・失踪が相次いでいるのは事実です。ただし、個々の死因はバラバラであり、単一の陰謀プロットに結びつく証拠は現時点で確認されていません。

第二に、私たちの脳には「エージェンシー検出バイアス(HADD)」が備わっており、バラバラな出来事の裏に「見えない敵・意図する存在」を自動的に作り上げてしまいます。これは脳の仕様であり、知性の高低とは無関係です。むしろ知的好奇心の強い人ほど誤作動しやすい。

第三に、統計学的に見れば、数十万人規模の研究者集団の中から数十人が数年間に亡くなることは、大数の法則によって十分説明できます。「偶然のクラスター」を「陰謀の証拠」と見なすことは、確率論の誤謬です。

「事実」と「解釈」を分けるクセを持つこと。自分の脳が「犯人を探したがっている」と自覚すること。この二つの習慣は、SNSがあふれる今の時代において、免疫のワクチンのように機能します。世界は陰謀論が前提とするほどシンプルではなく、でも、私たちの脳もまた、私たちが思うほど客観的ではない。そのことを覚えておいてもらえれば、今日のこの記事には十分な意味があったと思います。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。


#情報リテラシー #心理学 #陰謀論 #三体 #公認心理師

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