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なぜ私たちは、訂正されたはずのウソをまだ信じているのか

「それ、もう間違いだって説明しましたよね」——そう伝えたはずなのに、次にお会いしたときには、また同じ思い込みに戻ってしまっている。そんな経験はないでしょうか。私自身、日々の診療の中で何度もこの場面に出会ってきました。それは相手が頑固だからでも、理解力が足りないからでもありません。実は、人の心には「一度信じた情報を手放しにくい」という、ごく自然な仕組みが備わっているのです。今回は、そのメカニズムと向き合い方について、最近読んだ3冊の本から考えたことをお伝えします。


私たちが日々受け取る情報の中には、事実に基づかないものが少なからず紛れ込んでいます。健康法、政治、災害時のデマ、SNSで流れてくる断片的なニュース。これらとどう付き合うかを考えたくて、プロパガンダ研究の入門書「Propaganda Basics」、世界的な心理学者24名が合意形成してまとめた「Debunking Handbook 2020」、そして認知戦を扱った書籍「偽情報戦争」の3冊に目を通しました。異なる著者、異なる切り口の3冊でしたが、読み進めるうちに驚くほど同じ地点にたどり着くことに気づきました。


まず一つ目に強く印象に残ったのは誤った情報は訂正してもなかなか消えてくれないという事実です。心理学ではこれを継続的影響効果と呼びます。人はいったん頭の中にストーリーを作ってしまうと、あとから「それは違います」と言われても、そのストーリーの隙間を埋める代わりの説明がなければ、結局もとの思い込みに戻ってしまうのです。さらに厄介なことに、同じ情報を何度も目にするだけで、それが正しいかどうかとは関係なく「本当らしく」感じてしまう性質も私たちにはあります。これは真実性の錯覚と呼ばれる現象で、繰り返しは説得力そのものになり得るということを意味しています。診察室で「でも、テレビで何度も見たので」とおっしゃる方の言葉の裏には、こうした人間らしい心の働きがあったのだと、腑に落ちる思いがしました。

二つ目に気づかされたのは、プロパガンダという言葉に対する私自身の思い込みです。この言葉に、悪意ある扇動というイメージを持っていた方は多いのではないでしょうか。しかし、テキサスA&M大学の研究者が著した本では、プロパガンダを一部の権力者だけが操る道具として遠ざけるのではなく、社会に参加するすべての人が身につけるべき説得の技術として捉え直すべきだと論じられていました。「未来はプロパガンダのない世界ではない。それは、私たち全員がその技術を習得し、もはや私たちを支配する力を持たなくなった未来である」という一節は、読んだ瞬間に胸に残りました。情報を遠ざけて身を守るのではなく、その仕組みを知って使いこなす側に回ること。これは、患者さんに病気の仕組みを説明して不安をやわらげる、私たちの臨床の姿勢とも重なるものがあります。

三つ目は、認知戦を扱った書籍から得た、もっとも実践的な視点でした。国家間の情報戦の目的は、必ずしも「特定の嘘を信じ込ませること」だけではなく、「もはや何を信じてよいか分からない状態を作り出すこと」にある場合があるという指摘です。社会の中にある信頼関係を少しずつ崩し、人々を疲れさせて思考停止に追い込む。これは大きな国際情勢の話に見えて、実は私たちの日常にもそのまま当てはまります。次から次へと流れてくる情報に疲れ、判断すること自体を放棄してしまいそうになる感覚は、多くの方に心当たりがあるのではないでしょうか。この本が最後に示していた処方箋は、驚くほどシンプルでした。「なぜこの情報は今、自分に届けられたのか」「これを広めることで誰が得をするのか」と、ほんの一呼吸だけ立ち止まって考える習慣を持つこと。特別な知識も、高価な対策も必要としません。

まとめ


3冊の本を通して見えてきたのは、次の3つのことでした。一つ目は、誤情報は訂正するだけでは不十分で、なぜ間違いなのかと、では何が正しいのかをセットで丁寧に伝える必要があるということ。二つ目は、情報を遠ざけて身構えるのではなく、その仕組みを理解し、自分なりに使いこなせるようになることが本当の防御になるということ。三つ目は、情報の波に疲れて判断を手放してしまいそうになったときこそ、一呼吸置いて「なぜ今、これが自分に届いたのか」と問い直す小さな習慣が力になるということです。派手な対策ではなく、日々のささやかな習慣の積み重ねこそが、揺らぎにくい心を育ててくれるのだと、あらためて感じています。

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#メディアリテラシー #デバンキング #認知戦 #医療コミュニケーション #情報との付き合い方


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