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不正確率99.99%?その分析、データが全く違っていた

もし、あなたの目に「この選挙は不正だ」という投稿が流れてきたら、どう感じますか?

先日の衆議院選挙で、チームみらいが0議席から11議席へと大きく躍進しました。この結果を受けて、SNS上では「得票数がおかしい」「不正があったのではないか」という声が一気に広がりました。中には、AIによる統計分析で「不正確率99.99%」と結論づけた投稿が大きくバズり、多くの人がそれをシェアしました。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみませんか。

その「99.99%」の根拠になったデータは、本当に正しかったのでしょうか。そして、その投稿を広めていたのは、いったいどんな人たちだったのでしょうか。今回は、東京大学の研究者による拡散分析と、プログラマによる公式データの検証をもとに、この「陰謀論」の構造を、医療関係者の視点から紐解いてみたいと思います。


「見たことがない=存在しない」という錯覚


まず最初に、私自身の話をさせてください。

正直に言えば、私もチームみらいの選挙活動を、投票日までほとんど目にしていませんでした。XのタイムラインにもYouTubeのおすすめにも、彼らの情報はほぼ上がってこなかった。だから、開票速報で「11議席」という数字を見たとき、「えっ、そんなに?」と驚いたのは事実です。

そして、同じように驚いた人がたくさんいた。その「驚き」が、やがて「おかしい」に変わり、「不正ではないか」という疑念に育っていった。この流れ自体は、人間の心理としてとても自然なことだと思います。

でも、ここに一つ、大きな落とし穴があります。

「自分が見ていないものは存在しない」という思い込み。心理学では「利用可能性ヒューリスティック」と呼ばれる認知バイアスの一種です。私たちは、思い出しやすい情報ほど「よくあること」「重要なこと」だと判断しがちで、逆に思い出せない情報は「存在しない」と感じてしまう。

東京大学の鳥海不二夫教授の分析は、まさにこの点を鮮やかに裏付けています。鳥海教授がXの投稿データを分析したところ、チームみらいの公式アカウントや党首アカウントの拡散数は、実際に他の政党と比べてかなり少なかったことがわかりました。つまり、「チームみらいの情報をSNSで見かけなかった」という感覚は、エコーチェンバーのせいではなく、実態としてX上での拡散力が弱かったからなのです。

ただし——ここが面白いところなのですが——大勝した自民党のX上の拡散力も、保守党や参政党、れいわ新選組より低かったのです。つまり、Xでの拡散力と実際の選挙結果は、そもそも連動していない。SNSの存在感だけで選挙結果を判断すること自体が、根本的に間違っているわけです。

「不正確率99.99%」の正体


さて、ここからが本題です。

選挙直後、Xで大きくバズった投稿がありました。「過疎60地域のチームみらい比例得票率がほぼ4.69%に固定されている。標準偏差0.10%。不正または組織的介入の事後確率は99.99%」——こう結論づけたものです。AIツール「Grok」による統計分析を根拠としており、モンテカルロシミュレーション10万回で再現0回、ベイズ推定で不正確率99.99%だと。

一見すると、非常に科学的で説得力があるように見えます。数字がたくさん並んでいて、シミュレーションとか、ベイズ推定とか、なんだか難しそうな手法が使われている。「99.99%」なんて言われたら、もう確定じゃないか、と感じてしまう人も多いでしょう。

ところが、プログラマの「せい」さん(@seiichi3141)が、この主張を実際の公式データで検証したところ、驚くべき結果が出ました。

せいさんは、15都道府県の選挙管理委員会が公開しているExcel・PDF・CSVの公式開票データから、過疎地域に該当する208市区町村のチームみらい比例得票率を抽出しました。元の投稿が分析した「60箇所」の3.5倍にあたるデータ量です。

結果はどうだったか。

元の投稿が「平均4.69%、標準偏差0.10%」と主張していたのに対し、実際のデータでは平均3.86%、標準偏差0.98%でした。標準偏差は約10倍も異なっています。得票率の範囲も、元の投稿が「4.65〜4.73%」というわずか0.08ポイントの幅だったのに対し、実際は1.33%から6.73%まで、5.40ポイントもの幅がありました。

そして、元の投稿が主張する「4.65〜4.73%」の範囲に入る市区町村は、208地点中わずか8地点、たった3.8%だけだったのです。

つまり、「得票率がほぼ均一に固定されている」という前提そのものが、公式データとまったく一致していなかった。どれほど精緻な統計手法を使っても、入力するデータが間違っていれば、出てくる結論も間違ったものになります。これは、私たち医療の世界でも同じことです。検査の数値を取り違えたら、どんなに優秀な医師でも正しい診断はできません。

AIに「答え」を求める危うさ


ここで、もう一つ重要な視点があります。

元の投稿は、AI(Grok)に分析を依頼して「不正確率99.99%」という結論を得ていました。しかし、AIは入力されたデータと前提条件に基づいて計算するだけです。「不正があった場合の尤度90%」というパラメータ設定がされていましたが、この数字自体に根拠がない。事前確率や尤度の設定を変えれば、結論は大きく変わります。

これは、カウンセリングの場面でもよく見られる現象と似ています。人は、自分が信じたい結論を支持する情報ばかりを集めてしまう。心理学で「確証バイアス」と呼ばれるものです。AIに質問を投げかけるとき、「不正があったのではないか」という前提で聞けば、AIはその前提に沿った分析を返してくる可能性がある。AIは、人間の思い込みを増幅させる装置にもなりうるのです。

せいさんの検証が素晴らしかったのは、感情で反論するのではなく、公式データという一次情報を使って淡々とファクトチェックを行ったことです。データソースのURLもすべて公開され、誰でも同じデータにアクセスして検証できるようになっている。まさに「検証可能性」の見本のような対応でした。

陰謀論を広めていたのは誰か


もう一つ、非常に興味深いデータがあります。

鳥海教授の分析によれば、チームみらいへの懐疑的な投稿を拡散していたアカウントのプロフィールには、「参政党」「保守党」「れいわ新選組」の支持を示唆する言葉が多く含まれていました。具体的には、懐疑派ポストの拡散の16.7%を保守党フォロワーが、17.5%を参政党フォロワーが、10.7%をれいわ新選組フォロワーが担っていたのです。

普段は対立しているはずの保守系とリベラル系が、チームみらいという共通の「敵」を前に、一致団結して懐疑的な投稿を拡散していた。鳥海教授はこれを「大変レアな事象」と表現しています。

この現象は、陰謀論の心理を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。人は、自分の支持する立場が脅かされたとき、その脅威の原因を「不正」や「陰謀」に求めやすくなります。チームみらいの躍進は、参政党やれいわ新選組の票を奪った可能性があり、保守党にとっても新しいライバルの出現を意味します。つまり、立場は違えど、「自分たちの票が減った理由を説明したい」という動機は共通していたのかもしれません。

一方で、応援派のプロフィールには「ウマ娘」「鉄道」といった趣味を示す言葉が多く、一般的なX利用者のプロフィールに近いものでした。いわゆる政治クラスタではない、普通の人たちがチームみらいを応援していた可能性が高いわけです。

「おかしい」と感じることは悪くない、でも


ここまで読んで、「じゃあ、選挙結果を疑うこと自体がいけないのか」と思われた方もいるかもしれません。

私はそうは思いません。選挙の公正性を気にかけること自体は、民主主義にとって健全な態度です。おかしいと思ったら声を上げること、疑問を持つことは大切です。

ただし、その疑問を「確信」に変える前に、一次情報にあたる習慣を持ってほしいのです。

今回のケースでは、各都道府県の選挙管理委員会が公開している開票データという、誰でもアクセスできる公式データが存在していました。その公式データを確認すれば、「得票率が不自然に均一」という主張が事実と異なることは、すぐにわかったはずです。

でも、多くの人はそこまでしなかった。「99.99%」という数字のインパクトと、「自分も見たことがなかった」という個人的な体験が重なって、検証せずにシェアしてしまった。

これは、健康情報でもまったく同じ構造です。「この食品を食べると確実に治る」「この治療法で100%改善」——こういった話を見かけたとき、私たち医療関係者は真っ先にエビデンスを確認します。原著論文はあるのか、サンプルサイズは十分か、対照群はあるか。同じ目を、政治の情報にも向けてほしいのです。

まとめ:情報との「3つの付き合い方」


今回のチームみらい不正選挙陰謀論から、私たちが学べることを3つにまとめます。

まず一つ目「見ていない」と「存在しない」は違うということ。SNSのアルゴリズムは、私たちが見たいものを見せるように設計されています。自分のタイムラインは世界の全体像ではありません。特に選挙のような社会全体に関わるテーマでは、自分の情報源の偏りを意識することが欠かせません。

二つ目数字は「正しそうに見える」だけで正しいとは限らないということ。99.99%という数字は強烈なインパクトを持ちます。でも、その数字の基になったデータと前提条件が間違っていれば、結論も間違う。AIが出した答えだから正しい、という思い込みは禁物です。

三つ目一次情報にあたる習慣を持つということ。選挙結果なら選管の公式データ、健康情報なら原著論文やガイドライン。一次情報はたいてい公開されています。少し手間はかかりますが、その手間が「騙されない力」になります。

私たちは、情報の海の中で生きています。その海流に流されるのではなく、自分の足で立って、自分の目で確かめる。それが、民主主義を守ることでもあり、自分自身を守ることでもあると、私は信じています。

あなたの情報との付き合い方が、今日から少しだけ変わるきっかけになれば。そして、疑問を持ったときに「まず一次情報を見てみよう」と思い出してもらえたら、この記事を書いた甲斐があります。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。


#陰謀論 #エコーチェンバー #ファクトチェック #メディアリテラシー #衆議院選挙


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