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なぜ私たちはデマを信じ、陰謀論に引き込まれ、世界を誤解し続けるのか

あなたは、自分のことを「騙されにくい人間だ」と思っていますか。

ちょっと待ってください。実は私も、以前はそう思っていた一人でした。公認心理師として、認知バイアスや人間の意思決定について学んできました。だから「情報を正しく見る目がある」と、どこかで過信していたのです。

ところが最近、3冊の本を読んで、その自信が音を立てて崩れました。世界の誤解、デマの法則、陰謀論の心理——まったく違うテーマを扱うはずの3冊が、まるで口を合わせたように同じことを指摘していたのです。「あなたの脳は、そう動くようにできている」と。


なぜ私たちは騙されるのか——世界の誤解・デマ・陰謀論に共通する「脳の癖」


今回手に取ったのは、『ファクトフルネス』(ハンス・ロスリングほか)、『デマの心理学』(ゴードン・W・オルポート&レオ・ポストマン)、『陰謀論はなぜ生まれるのか』(マイク・ロスチャイルド)の3冊です。時代も国もジャンルも異なります。にもかかわらず、読み終えたとき、私の頭の中には一つの言葉だけが残りました。

「これは、私自身の話だ」

第一の衝撃:エリートたちはチンパンジーに負けていた


『ファクトフルネス』は、衝撃的なエピソードから始まります。

著者のハンス・ロスリングは医師であり、グローバルヘルスの教授でした。彼は世界中の知識層——ノーベル賞受賞者、大企業のCEO、著名なジャーナリストたち——に世界の現状についてのクイズを出しました。「世界の極度の貧困は過去20年でどう変化したか」「女性が受けられる教育年数は伸びているか」といった問いです。

その結果が、信じられないものでした。

正答率は、チンパンジーがランダムに答えを選ぶよりも低かったのです。

笑い話のように聞こえますが、これは笑えない話です。無知なのではありません。「体系的に間違っている」のです。ロスリングはその根本原因を、人間の脳に刻まれた「ドラマチックな本能」に求めました。私たちの祖先は、シンプルな二項対立(「敵か味方か」「危険か安全か」)に素早く反応することで生き延びてきました。しかしその本能が、複雑な現代社会では深刻な誤解を生み出します。

たとえば「分断本能」。私たちは無意識のうちに「先進国 vs. 途上国」という枠組みで世界を見てしまいます。しかし今や、世界人口の大多数は「その中間」に存在しています。ロスリングが提唱する「4つの所得レベル」で見れば、明確な断絶などどこにもありません。グラデーションがあるだけです。

ネガティブ本能」もあります。毎日届く暗いニュースに触れるたびに「世界は悪くなっている」と感じてしまいます。でも実際は、極度の貧困も、子どもの死亡率も、識字率も——あらゆるデータは改善を示しています。ゆっくりとした進歩はニュースにならないから、私たちの目に映らないだけなのです。

この本が伝えたいのは「世界は良くなっているから安心しろ」ではありません。「あなたが感じる世界と、データが示す世界はこれほどズレている。まずそこに気づいてほしい」ということです。


第二の衝撃:デマには方程式があった


では、そうした歪んだ認知の中に誤った情報が流れ込んだとき、何が起きるのでしょうか。

『デマの心理学』は1944年に書かれた古典ですが、その洞察は今も色あせません。著者のゴードン・オルポートは社会心理学者として、デマという混沌とした現象の法則を一つの式で表しました。

R ≈ i × a

デマの心理学

「デマの流布量(R)は、話題の重要さ(i)と情報の曖昧さ(a)の積にほぼ比例する」。

この式が示すことは、実にシンプルです。人々が強く気にしていて(重要さが高い)、かつ正確な情報が出回っていない(曖昧さが高い)状況では、デマは爆発的に広まります。どちらか一方がゼロなら、デマにはなりません。

東日本大震災のとき、SNSにはおびただしい数のデマが飛び交いました。「人々が強く気にしていた(家族の安否、放射線の影響)」、そして「正確な情報がなかった(公式発表が遅れ、矛盾した情報が錯綜した)」という状況が重なったからです。

さらにオルポートは、情報が伝わる過程で必然的に歪む三つのメカニズムを描き出しています。「平均化」「強調」「同化」です。複雑な情報は伝わるうちにシンプルに削ぎ落とされ(平均化)、印象的な部分だけが誇張されて残り(強調)、最終的には聞き手の既存の信念や感情に合うように書き換えられます(同化)。

特に怖いのが「同化」です。オルポートは実験で、「スーツ姿の白人男性が黒人男性にカミソリを突きつけている」絵を伝言ゲームで伝えると、多くの被験者が最終的に「黒人男性が白人男性を脅している」という逆の話として伝達した、と報告しています。事実は文字通り逆転しました。記憶違いではありません。人は自分の中にある偏見や期待に、事実を「合わせて」記憶してしまうのです。

私はこれを読んで、臨床での経験を思い出しました。患者さんが「〇〇という情報を見た」とおっしゃるとき、その内容が本当に「見たこと」なのか、「見たいと思ったこと」なのか——実はかなり曖昧なことがあります。

第三の衝撃:陰謀論は「普通の人」が信じる


デマよりさらに根深いのが、陰謀論です。

『陰謀論はなぜ生まれるのか』の翻訳者の一人は、Qアノンを信じる日本人男性と対話したエピソードを冒頭で語っています。都内在住の30代、清潔感のある「普通」の人物だったといいます。この出会いが、訳者の中にあった「陰謀論を信じるのは特殊な人だ」という固定観念を打ち砕いたそうです。

著者のマイク・ロスチャイルドが提示する陰謀論の定義は、「出来事の原因を誰かの陰謀であると、不確かな根拠をもとに決めつける考え方」です。そしてその根底にあるのは、「偶然の一致に過剰な意味を読み込む」という、誰にでもある認知の癖だといいます。

人間の脳は、複雑で不確実な現実を「そのまま」受け入れるのが苦手です。大規模な事件、予期せぬ喪失、社会不安——こうした出来事が起きると、人は「意味」と「物語」を求めます。そのとき「黒幕がいる」「すべてはつながっている」というシンプルなストーリーは、心の空白を埋める強力な言葉になります。

Qアノンはまさにその典型でした。2017年に匿名掲示板「4chan」から始まり、2020年のパンデミックで爆発的に広がりました。「子どもたちを救え」というメッセージは、政治的な関心のない層——特に母親たち——の不安と希望に訴えかけました。陰謀論が恐ろしいのは、それが一種の「善意」と「使命感」を纏って人々の心に入ってくるからです。信者たちは自分を「悪と戦う正義の戦士」と信じています。

本書はもう一つ、重要な概念も整理してくれます。「陰謀」(実際に権力者が秘密裏に何かをすること)と「陰謀論」(不確かな根拠で誰かの陰謀と決めつけること)は、別物です。現実の不正を見抜く目を持ちながら、根拠のない陰謀論には流されない——その両立が、私たちには求められているのです。

3冊が共通して言っていること


読み返してみると、3冊は別々の言葉で同じことを指摘していました。

「人間の脳は、現実をそのままでは受け取れない」ということです。

ドラマチックな二項対立を求める本能(ファクトフルネス)、曖昧な状況を自分の感情で埋めようとする習性(デマの心理学)、複雑な世界にシンプルな「物語」を重ねたがる欲求(陰謀論はなぜ生まれるのか)——これらはすべて、同じ「脳の癖」の異なる側面です。

そしてどの本も、「だからあなたは愚かだ」とは言いません。これは生存のために進化した、本来は合理的なメカニズムです。ただ、情報が洪水のように流れる現代社会では、それが裏目に出やすくなっています。

では、どうすればいいのでしょうか。ロスリングは「世界を正しく見る習慣」を提案します。オルポートは「正確で透明な情報の発信が曖昧さを排除する」と言います。ロスチャイルドは「陰謀論者を嘲笑するのではなく、その心理を理解することが解毒剤になる」と説きます。

共通しているのは、「自分の認知が歪んでいることを知る」という、たったそれだけの出発点です。

私自身、公認心理師として人の心に関わる立場にありながら、この3冊を読むまで「自分は大丈夫」とどこかで思い込んでいました。でも今は思います。その「大丈夫」という感覚こそが、最初の罠なのかもしれない、と。

まとめにかえて


今回の3冊から得た気づきを、私なりにまとめるとこうなります。

私たちの世界認識は体系的に歪んでいる——これは欠陥ではなく、脳の設計上の特徴です。デマが広まるのは人が愚かだからではなく、「重要さ」と「曖昧さ」が重なる条件が揃っているからです。そして陰謀論を信じるのは特別な人ではなく、誰もが持つ「意味を求める心」が特定の条件下で発動した結果です。

騙されないために必要なのは、特別な知識でも高い知能でもありません。「私も間違えるかもしれない」という、小さな謙虚さです。それだけで、情報との向き合い方は少し変わってくると、私は信じています。

ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。「おもしろかった」「役に立った」と感じていただけたら、そっとスキを押していただけると、とても励みになります。

#フェイクニュース #認知バイアス #陰謀論 #読書感想文 #情報リテラシー


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