見出し画像

その相談、AIに任せて大丈夫?公認心理師が伝える「記憶力」が落ちる本当の理由

「これ、誰かに相談したいけれど、人に言うのはちょっと気が引ける」——そんな夜に、そっとAIに気持ちを打ち明けたことはありませんか。

実は今、10代から20代を中心に、体調や人間関係、将来の悩みまで、AIだけに相談するという人が着実に増えています。否定されない安心感、24時間いつでも話せる気軽さ。その便利さは、医療の現場にいる私自身も、日々ひしひしと感じています。

ただ、公認心理師としてひとつだけ、立ち止まって考えたいことがあります。その「話しやすさ」の裏側で、私たちの脳と心には、いったい何が起きているのでしょうか。今日は最新の白書データと海外の研究をもとに、AIとの付き合い方について、一緒に考えてみたいと思います。

数字が教えてくれる、静かに進んでいる変化


先日、総務省が公表した「令和8年版情報通信白書」に目を通していて、ある数字に目が留まりました。日本国内で15歳から19歳の91.7%が生成AIを使ったことがあると回答し、20歳から29歳でも78.2%にのぼるというのです。もはや生成AIは、一部の人だけが使う特別な道具ではなく、若い世代にとっては当たり前に日常へ溶け込んでいる存在だと言えそうです。

さらに気になったのは、その使われ方です。同じ調査では、15歳から19歳、20歳から29歳の層で、「自身の心身や生活、将来にかかわる専門的な相談をするとき」に、「AIのみ」または「主にAI」を頼ると答えた人の割合が、2割から3割程度にのぼることが分かりました。日常のちょっとした疑問についても、同じくらいの割合で、AIだけに聞くという人がいます。私たちが本来、家族や友人、専門家に相談してきたようなことを、AIに委ねる人が確実に増えている。これは、決して小さな変化ではないと思います。

同じ白書には、「生成AIはどのような存在だと感じるか」を尋ねた調査もありました。日本では「機械・道具」と答えた人が最も多く、次いで「辞書・百科事典」、その次に「カウンセラー」と答えた人が12.9%いました。興味深いのは、生成AIの利用率がより高いドイツでは、「カウンセラー」と答えた人が41.0%にのぼり、「機械・道具」に次ぐ第2位だったということです。AIの利用が進むほど、人はそれを単なる道具ではなく、心を打ち明けられる相手として捉えるようになっていく可能性がある。私はこの結果を見て、少し複雑な気持ちになりました。

なぜ、私たちはAIに心を預けたくなるのか


その気持ちは、決して不思議なことではないと私は思います。夜中の3時、誰かに電話をかけるのはためらわれても、AIならいつでも話を聞いてくれる。順番を待つ必要もなければ、変な顔をされることもない。おかしなことを言っても、否定されない。まるで、深夜でも灯りがついているコンビニのような安心感を、多くの人がAIに感じているのではないでしょうか。

実際、同じ白書のアンケートでも、「自分の感情や想いを抵抗なく共有できる」と感じたことがある人は、日本国内でも50.3%にのぼっていました。「自分を否定しない安心感がある」と感じる人も48.2%です。これは決して「弱さ」ではなく、人間が本来持っている、安心して話せる相手を求める自然な欲求だと、私は捉えています。誰かに話を聞いてほしいと思うことは、少しも恥ずかしいことではありません。

頼りすぎると、私たちの中で何が起きるのか


一方で、少し立ち止まって知っておいてほしい研究があります。アメリカのMITメディアラボ等のチームが行った実験です。参加者を「生成AI(大規模言語モデル)を使うグループ」「検索エンジンを使うグループ」「道具を使わず自分の頭だけで考えるグループ」の3つに分け、小論文を書く作業を3回行わせました。そのうえで、最初に自分の頭だけで考えていたグループにAIを使わせ、逆に最初からAIを使っていたグループには道具なしで書かせる、という入れ替え実験も行われました。

結果は、示唆に富むものでした。最初に自分の頭で考えてからAIを使ったグループは、脳の広い範囲で活発な神経活動が見られ、自分が書いた内容もよく覚えていました。ところが、最初からAIに頼っていたグループは、脳内のつながりが比較的弱く、書き終えた直後にもかかわらず、自分の文章を正確に思い出せない人が多かったのです。さらに、「この文章は自分の作品だ」という実感、いわば"自分ごと感"も、このグループでもっとも低かったと報告されています。

この結果を、私は「AIが悪い」という話には受け取っていません。順番の問題なのだと思います。自分の頭でまず考え、その後にAIという知恵を借りる。この順番であれば、AIは私たちの思考を後押ししてくれる、心強い伴走者になり得ます。しかし、考える前からAIに委ねてしまうと、私たちは知らないうちに、自分で考える筋肉を使う機会を手放してしまうのかもしれません。

AIは敵ではない、使い方次第で"味方"になる


だからといって、AIを避ければいいという単純な話でもありません。ドイツのレーゲンスブルク大学で行われた別の研究では、AIを使いながらアイデアを考えたグループのほうが、使わなかったグループよりも短時間でより質の高いアイデアを生み出し、作業への満足度も高かったと報告されています。使い方さえ間違えなければ、AIは私たちの発想力を広げてくれる、頼もしいパートナーにもなり得るのです。

この点について、東京大学の研究者は「便利で快適なものがよい」という物語と、「そうしたものは人間本来の自律性を失わせる」という物語の、どちらの立場も取り得ると指摘しています。大切なのは、どちらか一方に決めつけることではなく、自分がどんな価値を大事にしたいのかを、自分自身に問い続けることなのだと思います。

国際大学の山口真一教授も、興味深い見方を示しています。長期的には人間が担ってきた仕事の一部がAIに置き換わっていくとしても、それによって人間ひとりの能力が下がることと、人間とAIが協働することでトータルとしての人間の力が上がることは、別の話だという指摘です。私はこの視点に、とても共感します。大切なのは、AIに"明け渡す"のではなく、AIと"手を組む"という感覚を持つことなのだと思います。

健全に付き合うための、3つの心がけ


ここまでの内容をふまえて、私が日々の臨床の現場や生活の中で大切にしている、AIとの付き合い方を3つご紹介します。

ひとつ目は、相談する前に、まず自分の言葉にしてみることです。頭の中でモヤモヤしていることを、たとえ数行でも自分で書き出してから、AIに話しかけてみてください。それだけで、脳の使い方はまったく変わってきます。

ふたつ目は、AIを「答えをくれる人」ではなく、「一緒に考えてくれる壁打ち相手」として使うことです。出てきた答えをそのまま鵜呑みにするのではなく、「本当にそうかな」と自分の中で一度転がしてみる。その一手間が、あなた自身の考える力を守ってくれます。

みっつ目は、本当につらいとき、苦しいときほど、AIだけで完結させないことです。AIはいつでも話を聞いてくれますが、あなたの表情や声のトーン、沈黙の重みまでは受け取ってくれません。信頼できる人や、必要であれば専門の窓口に、勇気を出してつながってみてください。それは決して弱さではなく、自分を大切にする、とても強い選択だと私は思います。

おわりに


今日は少し長くなりましたが、大切なことなので、あらためて振り返ってみます。

日本でも、若い世代を中心に、心身や生活の専門的な相談までAIに委ねる人が着実に増えていること。AIに心を許したくなるのは、決して弱さではなく、自然な気持ちであること。ただし、考える前からAIに委ねてしまうと、記憶力や思考力にひっそりと影響が及ぶ可能性があること。それでも、自分の頭で考えてからAIという知恵を借りれば、AIはあなたの発想力を広げてくれる、頼もしい味方になること。そして、本当に苦しいときは、AIだけでなく、信頼できる人ともつながってほしいということ。

AIとの距離感に、決まった正解はありません。ただ、今日お話ししたことを少しでも心のどこかに置いておくだけで、あなたのAIとの付き合い方は、きっと今より少しやさしいものに変わっていくはずです。あなたには、その変化を自分の手で起こしていく力が、ちゃんとあります。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。

#生成AI #心理学 #メンタルヘルス #公認心理師 #AIとの付き合い方

参考文献

  • 総務省(2026)「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第1章第1節・第3章第1〜2節

  • Nataliya Kosmyna, et al.(2025)"Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task"

  • Michael Gindert, et al.(2024)"The Impact of Generative Artificial Intelligence on Ideation and the performance of Innovation Teams"(プレプリント)

いいなと思ったら応援しよう!

AIでエビデンスを探る_公認心理師 よろしければ応援お願いします。いただいたチップは、執筆のための書籍購入や、AIのために使わせていただきます。