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頑張れない自分を責めなくていい、心理学的にちゃんとした理由があります

「もっと頑張れば、望んだとおりの人生になるはずだ」——そう信じて、思い通りにいかない現実に、自分を責めてしまったことはありませんか。

私は公認心理師の資格を持ちながら、日々医療の現場で人の心と向き合う仕事をしています。そんな私自身、先日読んだ一冊の本に、長年抱えていたモヤモヤの正体を言い当てられたような感覚を覚えました。

今日は『「偶然」はどのようにあなたをつくるのか』という本から、「頑張れない自分」をそっとゆるすためのヒントをお伝えしたいと思います。


なぜ私たちは「理由」を欲しがるのか


仕事がうまくいかないとき、人間関係がこじれたとき、私たちはつい「何が悪かったのか」を探してしまいます。私自身、これまで数えきれないほどこの思考のクセに付き合ってきました。

政治学者ブライアン・クラース氏は、この習性を「物語バイアス」と呼んでいます。太古の祖先にとって、草むらの揺れを「ただの風」と流す個体より、「捕食者かもしれない」と因果関係を疑う個体のほうが生き延びやすかった。その名残として、私たちの脳は今も、ランダムな出来事の中に無理やり「意味」を見出そうとしてしまうのだそうです。

これは、いわば脳にもとから組み込まれた癖のようなものです。だから、根拠のない自己反省を繰り返してしまうのは、あなたの意志が弱いからではありません。人間という生きものの、ごく自然な機能なのです。

歴史を動かしたのは、英雄ではなく偶然だった


この本でもっとも印象に残ったのが、1945年の原爆投下をめぐるエピソードでした。

当初、アメリカ軍は京都を投下目標の最有力候補としていました。それを覆したのは、緻密な戦略でも倫理的な決断でもなく、当時の陸軍長官が19年前に妻と京都を旅行し、紅葉の美しさに心を奪われていたという、ごく個人的な思い出だったといいます。

その結果、繰り上がった目標地・小倉は、投下当日にたまたま雲と煙に覆われていたため難を逃れ、代わりに長崎が標的となりました。数十年前の旅行の記憶と、その日の雲の切れ間。この二つの偶然が、何十万人もの命運を分けたのです。

似た話は他にもあります。あるクーデター未遂事件では、逃走を図った将軍が「ズボンの縫製が甘くフェンスで破れた」ことで追っ手を逃れ、成否が分かれました。9.11のときには、ある男性が「似合わないネクタイをもらったことを思い出し、着替えに戻った数分」のおかげで、崩壊するビルから逃れています。

歴史も、個人の命運も、私たちが思うよりずっと、こうした名もなき偶然によって形づくられているのです。

「がんばりが足りない」わけではない


私たちの社会には、「成功は努力の結果である」という考え方が根強くあります。これは一見前向きな価値観に見えて、うまくいかない自分を責める材料にもなりやすいものです。

けれど、進化の歴史を振り返ると、この前提自体が揺らぎます。長期にわたる大腸菌の培養実験では、ある菌株が新しい能力を獲得する現象が、極めてまれな突然変異の連鎖という「歴史の偶然」に強く依存していることがわかっています。実験をやり直しても、同じ結果は再現されないそうです。

人間の富の分布も同じです。身長のような身体的特徴はなだらかな正規分布に従うのに対し、富は極端な偏りを持つ分布に従います。世界一賢い人が平均の100万倍賢いわけではないのに、世界一の富豪は平均の100万倍の資産を持つ。この極端な差を、個人の才能や努力だけに帰結させるのは、生き残った人だけを見て判断する、一種の思い込みだとクラース氏は指摘します。

生まれ落ちる場所、時代、環境。そうした「地球のくじ引き」とも呼べる偶然が、私たちの人生の土台の多くを決めています。だからこそ、うまくいかない自分を、能力不足の一言で片づけてしまう必要はないのです。

効率化が奪う「ゆとり」


現代社会は、無駄をそぎ落とし、あらゆることを最適化しようとしてきました。物理学には「自己組織化臨界性」という考え方があります。砂山に砂粒を一つずつ落としていくと、やがて山はこれ以上高くならない臨界状態に達する。その状態でのたった一粒は、何も起こさないかもしれないし、山全体を崩す雪崩を引き起こすかもしれません。

密接につながり、無駄を極限まで削ったグローバル経済や物流網は、まさにこの砂山と同じ構造を抱えています。だからこそ、一隻の船の座礁や、ひとつのウイルスの発生が、予測不能な規模で世界に波及してしまう。

これは社会だけでなく、私たち一人ひとりの心にも当てはまる話だと感じています。休む間もなく予定を詰め込み、「ゆとり」を削り続けた心もまた、小さなきっかけで大きく崩れてしまうことがあります。がんばりを積み増すことだけが、強さではありません。あえて余白を残しておくことも、立派な備えなのです。

コントロールではなく、影響を


本書の中で、もっとも多くの読者の心をとらえたとされる一節があります。

私たちは何もコントロールしていないが、あらゆることに影響を与えている

この言葉に、私は深く救われる思いがしました。人生を完璧に設計し、思い通りに導くことは、誰にもできません。けれど、私たちが日々かけているささやかな言葉や、ふとした親切、誠実な態度の一つひとつは、見えない連鎖を通じて、確かに世界のどこかに届いています。

物理学者アイザック・ニュートンについて、本書はこんな逸話を紹介しています。もし彼が「自分にはわからない」と素直に驚くことをせず、リンゴが木から落ちるのをただの日常として見過ごしていたら、万有引力の発見はなかったかもしれない、と。

自信に満ちた断定よりも、わからないことを認める謙虚さのほうが、実は多くのものを引き寄せる。これは、人生を「コントロールする」ことに疲れてしまった私たちへの、静かなエールのように感じます。

「探索」という生き方


最後にもうひとつ、心に残った視点を紹介させてください。本書は、既知のやり方で効率よく成果を出す「最適化」と、寄り道をしながら好奇心の赴くままに動く「探索」という、二つの姿勢を対比しています。

ルールが不意に変わってしまうような不確実な世界では、最適化だけに頼るやり方はかえって脆くなります。むしろ、一見無駄に思える寄り道や、あてどない興味の追いかけっここそが、良い偶然=セレンディピティを引き寄せる力になる。これは、私が普段大切にしている心理学の考え方とも重なります。不確実さに耐える力は、リスクをゼロにすることではなく、わからないまま一歩を踏み出す経験の積み重ねから育っていくものだからです。

おわりに


今日お伝えしたことを、あらためて振り返ってみます。

・「理由」を求めてしまうのは、意志が弱いからではなく、人間の脳に備わった自然な働きであること ・歴史も個人の人生も、思っている以上に名もなき偶然によって形づくられていること
・「成功は努力の結果」という前提だけで、自分を追い詰める必要はないこと
・コントロールできなくても、私たちは確かに周囲へ影響を与え続けていること
・あてどない探索やゆとりを持つことが、これからの時代を生き抜く力になること

思い通りにならない毎日を、どうか「自分の努力不足」だけで片づけないでください。あなたがここに存在していること自体が、無数の偶然を経てようやくたどり着いた、かけがえのない結果です。

そしてあなたが今日誰かにかけた一言や、ふと差し出した優しさは、あなたの目に見えないところで、きっと何かを変えています。コントロールを手放すことは、あきらめることではありません。むしろそこから、本当の意味での前向きな一歩が始まるのだと、私は思っています。

長文にもかかわらず、最後までお付き合いくださりありがとうございます。これからも、いい意味で"ちょっとだけマニアックな"情報を届けていけたらと思います。

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