たった2回で信じてしまう|心理師の私も驚いた"錯覚的真実効果"の怖さ:論文紹介
「あの情報、本当かな?」と思いつつ、なんとなく信じてしまっていることはありませんか。
SNSのタイムラインで何度も流れてくる話、ニュースで繰り返し見る報道、家族や友人からくり返し聞かされる主張。最初は半信半疑だったのに、いつの間にか「たぶん本当なんだろうな」と受け入れている自分に、ハッと気づいた経験はないでしょうか。
私は公認心理師として、医療の現場で人の認知の不思議さに日々向き合っています。今回、ある興味深い論文を読んで、思わず「これは多くの方に知ってほしい」と感じました。それは、繰り返し触れる情報が、私たちの「真実だと信じる気持ち」をどう作っていくのかを丁寧に検証した研究です。
今日はその内容を、私自身の臨床現場での実感も交えながらお話ししていきます。
「何度も聞いた話」を、私たちはなぜ信じてしまうのか
少し想像してみてください。
ある朝、SNSで「ある食品が体に悪い」という投稿が流れてきます。最初は「本当かな?」と思って、軽く読み流す。お昼に別の人が同じ話をしている。夜、テレビでも似た話題が出てくる。翌週、家族との会話でその話題が出たとき、あなたはふと、こう答えていないでしょうか。「あ、それ私も聞いた。なんか体に良くないらしいよ」。
最初は「半信半疑」だった話が、いつの間にか自分の中で「事実」に変わっている。これが、心理学で言うところの「錯覚的真実効果(illusory truth effect)」と呼ばれる現象です。
2021年にHassanとBarberが発表した論文では、この効果を大規模に検証しています。研究の内容を簡単にお伝えすると、参加者にトリビア的な文章を1回、3回、5回、7回、9回(実験2では最大27回)と回数を変えて見せ、一週間後に「これは本当だと思うか」を尋ねました。
結果は、はっきりしていました。繰り返し見た文章ほど、参加者は「真実だと感じる」割合が高まっていったのです。これは、もとの内容が本当か嘘かに関わらず起こりました。
私が一番驚いた、3つの発見
論文を読みながら、私が特に「これは現場の感覚と一致する」と感じたポイントが3つあります。
ひとつ目は、「2回目」のインパクトが圧倒的に大きいということ。
グラフを見ると、はじめて聞いた1回目から2回目に移るときの「信じる度合い」の伸びが、いちばん急激なのです。たとえるなら、まっさらな雪原に最初の足跡がつくと、その後の足跡はそこを通りやすくなる。脳の中でも似たことが起きていて、一度通った思考の道は、二度目にとても通りやすくなります。研究者たちはこれを「処理流暢性(processing fluency)」という言葉で説明しています。脳がスムーズに処理できる情報を、私たちは「真実っぽい」と感じるのです。
ふたつ目は、繰り返しても効果は無限には増えないということ。
実験では、9回繰り返したあたりから、信じる度合いの増え方がほとんど横ばいになっていきました。27回繰り返しても、9回のときと大きな差は出なかったのです。
これは対数関数的な変化と呼ばれていて、坂道で言うなら、最初の急な上り坂を越えると、あとはなだらかな平地が続くようなイメージ。広告業界で「ウェアイン・ウェアアウト」と呼ばれる現象とも重なります。同じ広告を見せすぎても効果が薄れる、あの感覚です。
そして3つめが、いちばん怖いところなのですが、事前知識があっても、私たちはダマされるということ。
過去の研究では、「明らかにおかしい主張」や「自分の知識と矛盾する主張」であっても、繰り返し触れると「真実度の評価」が上がってしまうことがわかっています。「地球は完全な正方形である」みたいな、ありえない文章ですら、繰り返されるとちょっとだけ「本当かも」と感じてしまう。論文中ではこんな具体例が紹介されていました。トランプ氏は2016年の大統領選で「壁の建設はもう始まっている」と86回繰り返したそうです。事実ではなかったのに、毎回繰り返されるたびに、その主張は人々の中で「真実らしさ」を増していった、と。
これを読んだとき、私は思わずうなってしまいました。
自分の頭の中で起きていることも、実は同じ
ここからは、私が公認心理師として感じる「もうひとつの怖さ」をお話ししたいと思います。
この錯覚的真実効果、外からの情報だけの話ではないんです。自分が自分に繰り返している言葉にも、同じことが起きている可能性があります。
たとえば、「自分はダメな人間だ」「どうせ続かない」「私には向いていない」。そんな言葉を、毎日のように頭の中でつぶやいていると、最初は半信半疑だったはずのその言葉が、いつの間にか「揺るぎない事実」のように感じられてくる。
これは医療現場でも、よく出会う光景です。本人にとっては「事実を述べているだけ」のつもりが、実はその「事実だと信じている自己評価」自体が、長年の反復によって作られた幻なのかもしれない。そう考えると、少し見え方が変わってきませんか。
逆に言えば、希望もあります。ネガティブな自己評価が反復で作られたものなら、それは反復で書き換えられるということです。アファメーション(肯定的な自己宣言)が一定の効果をもつのも、おそらくこの「脳が繰り返しを真実と感じやすい」性質を、上手に利用しているからでしょう。
情報の海を泳ぐ私たちにできること
「じゃあ、どうすればいいの?」と思った方に、私がおすすめしたいのは、次のような小さな問いを、ときどき自分に向けてみることです。
「この情報、私はいま何回目に触れているだろう?」
「信じているのは、それが正しいからではなく、よく見聞きするからかもしれない」
「いま頭の中で繰り返している自分への言葉は、どこから来たんだろう?」
何かを「信じている自分」に気づくのは、けっこう難しい作業です。だからこそ、立ち止まって自分の認知のクセを点検する時間を、ほんの少しでも持つこと。これは、AIや情報があふれる時代を生きる私たちにとって、ますます大事な習慣になっていくのではないかと感じています。
論文を読みながら、私は映画『マトリックス』のあるセリフを思い出していました。「君は信じているものを見ているのか、それとも見ているものを信じているのか」。情報があふれる世界で、自分が何を「真実」として受け取っているのかに気づくことは、自分の人生を自分の手に取り戻す第一歩なのだと、改めて思います。
おわりに
今回の内容を、最後にもう一度3つにまとめておきますね。
ひとつ、繰り返し触れた情報は、それが正しいかどうかに関わらず「真実だ」と感じやすくなる。これが錯覚的真実効果です。
ふたつ、いちばん効くのは「2回目」。1回目から2回目に移るとき、私たちの「信じる気持ち」は最も大きく動きます。
みっつ、その効果は9回ほどで頭打ちになる。けれど、9回も同じ情報に触れる機会は、今の時代いくらでもあります。
そして、これは外の情報だけの話ではありません。自分が自分にくり返している言葉も、同じ仕組みで「真実」になっていきます。だからこそ、自分の中に流れているナレーションに、ときどき耳を澄ませてみてほしいのです。
あなたが何を繰り返し聞き、何を繰り返し自分に語っているか。その選択を、ほかでもないあなた自身が握っている。これは、本当に力強い事実だと、私は思います。
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参考文献:Hassan A, Barber SJ. The effects of repetition frequency on the illusory truth effect. Cogn Res Princ Implic. 2021;6(1):38.
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