悪意はゼロなのに加害者になる。善意が生むデマ拡散という心理の落とし穴
最近、家族や友人から送られてきたニュース記事を見て、「これ、本当なのだろうか」と一瞬立ち止まった経験はありませんか。あるいは逆に、良かれと思って誰かに伝えた話が、実は誤った情報だったと後から知り、気まずい思いをしたことはないでしょうか。私は医療の現場で心理学的なものの見方に日々触れていますが、実感するのは、デマや陰謀論に引き込まれてしまう人の多くが、決して愚かでも不注意でもないということです。むしろ真面目で、家族を思う気持ちが強い人ほど、情報の渦に飲み込まれやすい。今日は、なぜそんなことが起こるのか、そして大切な人をどう守れるのかを、心理職の視点から一緒に考えてみたいと思います。
悪意ゼロの人が、なぜ「加害者」になってしまうのか
先日、ある調査データを目にしました。誤った情報を見聞きしたあと、それを人に伝えてしまった人のうち、実に半数近くが「家族や友人との何気ない会話」の中で広めていたというのです。SNSで派手に拡散するのではなく、リビングでの会話、電話の向こうの雑談。そんな身近な場所で、静かに、そして確実に、誤情報は運ばれていく。
これは、決して特別な人だけに起こることではありません。私たちの脳には、「自分にとって心地よい情報を信じやすい」というクセが、生まれつき備わっています。専門的には確証バイアスと呼ばれるものですが、平たく言えば、自分の考えに近い情報ほど「なるほど」と受け入れやすく、反対の情報ほど「怪しい」と感じてしまうということです。真面目な人ほど、自分の信念に一貫性を持たせようとする力が強いぶん、このクセの影響を受けやすい。皮肉なことですが、誠実さそのものが、時に落とし穴になってしまうのです。
デマが広がる仕組みは、あなたの意志の弱さではない
ここで、はっきりお伝えしておきたいことがあります。誤情報に引っかかってしまうのは、意志が弱いからでも、頭が悪いからでもありません。むしろ、そう仕組まれているからです。
SNSのタイムラインは、私たちが指を止めずについスクロールし続けてしまうよう、緻密に設計されています。そして人の感情、とくに驚きや怒り、不安を揺さぶる情報ほど、脳は「重要だ」と判断して記憶に刻みやすくなる。落ち着いた事実よりも、刺激的な誤情報のほうが記憶に残りやすいのは、脳の仕組みからすれば、ごく自然な反応なのです。
さらに、誰かに指摘されたとき、人は「自分が間違っていたかもしれない」と認めるより先に、自分を正当化する情報を無意識に探し始めてしまうことがあります。指摘されればされるほど、かえって深みにはまってしまうケースも少なくありません。だからこそ、家族が誤った情報を信じているとわかったとき、頭ごなしに否定することは、逆効果になりやすいのです。
家族を守るための「3つの確認」という処方箋
では、どうすればいいのでしょうか。私が大切だと感じているのは、難しい理論ではなく、誰でも今日から使える、シンプルな習慣です。
ひとつは、その情報が「誰から発信されているか」を確かめること。発信している人や組織が、本当にその話題を語れる立場にあるかどうかです。ふたつめは、「根拠は何か」を確かめること。自分の価値観に近いからといって、それが事実だとは限りません。そしてみっつめは、「他の角度からの情報」もあわせて調べること。ひとつの情報源だけを鵜呑みにせず、複数の視点を比べてみる。この3つを意識するだけで、情報との距離の取り方は大きく変わります。
そしてもうひとつ、心理職として付け加えたいのは、家族へのアプローチの仕方です。「そんなの嘘に決まってる」と正面から否定するのではなく、「なんでそう思ったの?」と、相手の考えのプロセスに関心を向けてみてください。人は正しさを押しつけられると身構えますが、興味を持って問いかけられると、自分の頭でもう一度考え直すきっかけを得られます。かつてソクラテスが説いたとされる「無知の知」の姿勢は、二千年以上経った今も、情報の海を泳ぐための羅針盤になり得るのだと、私は思っています。
「知らなかった」を、責めなくていい
ここまで読んでくださった方の中には、「実は自分も、誰かに間違った情報を伝えてしまったかもしれない」と感じた方がいるかもしれません。でも、それを責める必要はまったくありません。誰もが間違えるし、私自身も間違えます。大切なのは、間違えたことを恥じることではなく、間違いに気づいたときに、素直に軌道修正できるかどうかです。
情報の洪水の中で自分を見失わないためのチャレンジは、特別な人だけのものではありません。今日、この記事を読んでくださったあなたはもう、その一歩を踏み出しています。
終わりに
今日お伝えしたかったことをまとめます。
ひとつめは、デマに引っかかるのは意志の弱さではなく、誰の脳にも備わった自然な仕組みだということ。ふたつめは、真面目で家族思いの人ほど、その仕組みの影響を受けやすいということ。みっつめは、「発信源」「根拠」「他の視点」という3つの確認が、あなた自身と大切な人を守る力になるということ。そしてよっつめは、家族が誤情報を信じてしまったときこそ、否定より対話を選んでほしいということです。
情報とどう付き合うかは、これからの時代を生きるすべての人にとっての、静かだけれど大切なテーマだと思っています。焦らず、ひとつずつ。あなたと、あなたの大切な人たちが、情報に振り回されることなく、穏やかな毎日を過ごせますように。
長文にもかかわらず、最後までお付き合いくださりありがとうございます。これからも、いい意味で"ちょっとだけマニアックな"情報を届けていけたらと思います。
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