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SNSで怒りが止まらないあなたへ、その感情は設計されているかもしれない

あなたは最近、SNSを開くたびに怒りが止まらなくなることはありませんか?

「また中国が……」「日本はこのままで大丈夫なのか」——そんな言葉が頭の中でぐるぐると回り、気づけば深夜まで関連記事を読みあさって、翌朝には妙に疲れている。そんな経験が、少なからずあるのではないでしょうか。

私は医療現場に携わる公認心理師として、こうした「情報による感情の揺さぶり」に長く関心を持ち続けてきました。なぜ私たちは特定の情報にこれほど感情を動かされるのか。そして、その怒りや恐怖は、本当に「自分自身のもの」なのか。

今回は、現在進行中とされる中国の対日認知戦を、心理学の視点から読み解いていきます。


まず、少し意外に思うかもしれない数字からはじめましょう。
2024年の内閣府調査によると、中国に親しみを感じないと答えた日本人は84.7%にのぼります。1980年に親しみを感じると答えた人が78.6%だったことと比べると、社会全体の印象はほぼ真逆になったと言えます。この数字を見れば「中国のプロパガンダは日本では通用しなかった」と思いたくなりますよね。

でも、そこに大きな落とし穴があります。

「親中化」は、最初から目的ではなかった


人民解放軍は2003年に政治工作条例を改正し、「三戦」と呼ばれる戦略を公式ドクトリンとして掲げました。心理戦・世論戦・法律戦からなるこの戦略の核心は、「相手に自分たちを好きにさせること」ではありません。「相手を内側から瓦解させること」です。

つまり目的は「日本人に中国を好きになってもらう」のではなく、「日本人どうしを対立させ、政府や社会への信頼を内側から損ない、いざというときに戦う意志を失わせる」こと。これが、認知戦の本当の目標とされています。

公認心理師として、この戦略の概要を知ったとき、「これは心理学的にかなり精巧に設計されている」と率直に感じました。人間が強い怒りや恐怖を感じているとき、脳の前頭前皮質——「理性の座」とも呼ばれる部位——の働きが著しく低下します。強い情動に引きずられているとき、私たちは情報を批判的に吟味する力を一時的に失ってしまう。これは心理学や神経科学が繰り返し示してきた、確かな知見です。

「処理水」を「核汚染水」と呼んだ意味


典型的な事例が、福島第一原発のALPS処理水をめぐる偽情報キャンペーンです。中国はIAEAの科学的評価を無視し、「処理水」を「核汚染水」という言葉に置き換えることで、人々の恐怖を意図的に煽ったとされています。

心理学に「フレーミング効果」という概念があります。同じ内容でも、どんな言葉で「枠組み」されるかによって、受け取り手の感情と判断が劇的に変わる現象です。「処理水」と「核汚染水」という表現は、科学的な実態としては同じものを指しているにもかかわらず、感情レベルでは天と地ほどの差を生み出します。

さらに悪質だったのは、2011年の震災直後に作成された放射性物質の拡散シミュレーション画像を、まるで現在の処理水放出の影響であるかのように見せかけて、大量のボットアカウントを通じて拡散したことです。台湾のサイバーセキュリティ企業TEAMT5の調査では、このシステムと中国系ネットワークとの関連が指摘されています。

私は医療現場でも、言葉の選び方ひとつで患者さんの受け取り方がまったく変わる場面を日々目にします。「検査で異常値が出ました」と「経過観察が必要な値が見られました」とでは、同じ事実を伝えていても相手の感情反応はまったく異なります。言葉の枠組みが感情をつくる。この構造を知っているからこそ、私は「核汚染水」という言葉の選択が偶然でないと感じるのです。

「正義感」の皮をかぶせる、イデオロギーのロンダリング


より巧妙で根深いのが、沖縄をめぐる工作です。

公安調査庁は毎年のように、中国側が沖縄の基地問題や琉球独立論に強い関心を向けてきたと指摘しています。ここで使われるとされる手口が「イデオロギーのロンダリング」と呼ばれるものです。平和主義・環境保護・自己決定権・人権。どれも民主主義社会で誰もが「正当だ」と感じる価値観ですよね。その価値観の言葉の内側に、日米同盟の分断という地政学的な目的を包み込んで送り込む。

心理学的に言えば、「正しいことのために行動している」という感覚は、その情報の出所を批判的に検証する認知的余裕を奪いやすくします。「平和を求めているだけなのに、なぜ批判されるのか」という感覚が生まれると、批判的な目はどうしても曇ってしまいます。これは人間の認知として自然な反応であり、弱さではなく特性です。だからこそ、意識して気をつける価値があります。

「嫌い」という感情もまた、使われる


ここが、この記事でいちばんお伝えしたかった視点です。

84.7%が中国に親しみを感じない。この「嫌い」という感情そのものが、認知戦に逆用されうるのです。

2016年12月、中国国防省は航空自衛隊のF-15戦闘機が中国軍機に対してデコイ・フレアを発射したという事実無根の非難を、写真つきで世界に向けて発信しました。「日本の自衛隊は危険で挑発的だ」という印象を国際社会へ植え付けようとした、典型的な世論戦と見られています。

すでに中国への不信感を持っている人は、こうした報道に「やっぱり中国は嘘をつく」と強く反応します。でも、その怒りは「自衛隊はなにをやっているんだ」「政府はどう説明するのか」という方向にも向かいやすい。怒りというのは感情の連鎖です。一方向に収束するのではなく、あらゆる方向へと飛び散っていきます。

認知戦の狙いが「分断と不信の増幅」であるとするなら、「中国が嫌い」という感情も、うまく利用されれば都合のよい燃料になりえます。これは「日本が悪い」という話ではまったくありません。私たち人間の認知の特性として、ほぼ誰にでも起こりうることだということです。

台湾との比較がこれをよく示しています。軍事的な脅威に直面しながら、台湾では中国への嫌悪感を示す人が日本の8〜9割と比べて明らかに低いとされています。これは、認知戦が長年にわたって台湾社会に対して積み上げてきた影響の一つと分析されています。「嫌い」が免疫になることもある一方で、過剰な恐怖や嫌悪は冷静な思考を奪い、別の形の脆弱性を生む。この複雑さを知っておくことが、私は大切だと思っています。

情報の波に飲み込まれないために


では、私たちは何ができるのでしょうか。

「答え」は、大げさなものである必要はないと思っています。

SNSを見ていて急に怒りや不安が湧いてきたとき、まずその感情に気づいてみてください。「私は今、怒っている」「私は今、恐怖を感じている」と、ただ静かに観察する。これは心理学でいう「感情のラベリング」と呼ばれる方法で、前頭前皮質の働きを少しだけ取り戻す効果があるとされています。大げさな技術ではありません。ほんの一呼吸です。

次に「この情報の出所はどこか」と一度立ち止まること。感情が高ぶっているとき、人はそのワンステップを省略しやすくなります。でも、そこに少しだけ立ち止まる時間が、情報操作の連鎖を断ち切る大切な一歩になります。

そして「この感情は誰の得になるのか」という問いを持つこと。これは陰謀論的な思考とはまったく違います。「この感情の高まりによって利益を得る存在がいないか」を問うことは、健全な批判的思考の一形態です。医療現場でも、「なぜこの情報がこのタイミングで提示されているのか」という問いが、適切な判断の支えになることがあります。

情報の波は、これからもなくなりません。むしろ技術の進化とともに、より精巧になっていくでしょう。でも、感情に気づき、立ち止まり、出所を問い、「誰の得か」を考える。この習慣は、今日からでも始められる私たち自身の防衛線になりえます。

まとめ


今回お伝えしたかったことを、最後に整理します。

  • 中国の認知戦の目的は「親中化」ではなく、「分断と不信の増幅」とされています。

  • 人間が怒りや恐怖を強く感じているとき、批判的思考の力は著しく低下します。

  • 「フレーミング」「偽情報の拡散」「イデオロギーのロンダリング」は、この心理的特性を意図的に利用した手口とされています。

  • 「中国が嫌い」という感情そのものも認知戦に逆用されうる、という逆説を知っておくことは重要です。

  • 感情に気づく・出所を確認する・「誰の得か」を問う、この3つの習慣が情報操作への最初の防衛線になります。

あなたの怒りは、あなた自身のものです。でも、その感情が誰かに借用されていないか、時々立ち止まって確かめてみること。それがきっと、自分の思考を守ることにつながると、私は信じています。

長文にもかかわらず、最後までお付き合いくださりありがとうございます。これからも、いい意味で"ちょっとだけマニアックな"情報を届けていけたらと思います。


#認知戦 #情報リテラシー #心理学 #プロパガンダ #メディアリテラシー


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