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あなたが昨日シェアした"衝撃映像"、本物ですか?-米国・イスラエルのイラン攻撃─「イラクの亡霊」と「初のAI全面戦争」

戦争のニュースが流れてくると、つい感情が揺さぶられる。「ひどい」「許せない」──そう思ってシェアボタンを押したこと、ありませんか。僕もあります。でも実は、その"感情を動かされた瞬間"こそが、情報戦の標的になっているんです。公認心理師として人の認知の仕組みを学んできた立場から言うと、情報戦は人間の心理的な弱点を突く技術の集大成です。そして驚くべきことに、その手口は2000年以上前からほとんど変わっていません。今日は、古代ローマから現在の中東情勢まで、「戦争と嘘」の歴史を一緒にたどってみましょう。

そもそも「情報戦」って何?


情報戦──最近では「認知戦」とも呼ばれますが、要するに 「相手の頭の中を操作する戦い」 です。

交戦国同士が自分に都合のいい情報を発信し合い、敵の士気を削ぎ、自国の行動を正当化し、国際世論を味方につける。銃弾やミサイルではなく、「言葉」と「映像」と「物語(ナラティブ)」が武器になる。そんな戦争が、最前線の裏側でずっと行われてきました。

そしてインターネットとSNSの登場によって、そのスピードと破壊力は桁違いに跳ね上がっています。

では、具体的にどんな事例があったのか。時代を追って見ていきましょう。


① 古代ローマ──始まりは「遺言状のリーク」だった(紀元前1世紀)


「情報戦なんて近代の話でしょ?」と思いますよね。ところが紀元前、古代ローマの時点ですでに洗練されたプロパガンダ合戦が繰り広げられていました。

舞台はローマ共和政の末期。権力闘争を繰り広げていたオクタウィアヌス(のちの初代皇帝アウグストゥス)と、マルクス・アントニウスの対立です。

オクタウィアヌスが使った手口はシンプルかつ強烈でした。アントニウスの「遺言状」とされるものを無断で公開し、「アントニウスはエジプトのクレオパトラに服従し、ローマを裏切っている」 という物語(ナラティブ)をローマ市民に広めたのです。

この遺言状が本物だったのか、それとも捏造だったのか──歴史家の間でも意見が分かれています。でも重要なのは、公式ルートから流された情報に対して、アントニウスは有効な反論ができなかったということ。彼はこの情報戦で致命的なダメージを受けました。

2000年以上前の話なのに、「リーク情報で政敵を追い詰める」って、今のSNS時代と構造がそっくりじゃないですか。

② 冷戦時代──メディアが「嘘の配管」になった時代


時代は大きく飛んで、20世紀後半の冷戦期。ここでは二つの事例を紹介します。

◆ トンキン湾事件(1964年・ベトナム戦争)

アメリカがベトナム戦争に本格介入するきっかけとなった「トンキン湾事件」。実はこのとき、大手メディアが政府主導の偽情報を拡散する"パイプ役"を果たしてしまいました。本来メディアが持つべき「権力の監視機能」が完全に崩壊した歴史的な失敗例として、今もジャーナリズムの教科書に載っています。

メディアを信頼している人ほど、偽情報を受け入れやすい。これは皮肉ですが、情報戦の基本原理のひとつです。

◆ ソ連KGBの「エイズ=米国生物兵器説」(1980年代)

冷戦下のソ連は、もっと大胆な情報操作をやっていました。KGBが仕掛けた「INFEKTION(インフェクション)作戦」です。

その内容は、 「エイズはアメリカがメリーランド州の軍事基地で開発した生物兵器だ」 というもの。引退した生物学者を使って"科学的事実"を装い、第三国のジャーナリストやメディアを通じて世界中にこの陰謀論を拡散しました。

ポイントは、ソ連が直接この情報を流したわけではないこと。第三国のメディアを経由させることで、情報を「ロンダリング(洗浄)」したんです。出所がソ連だとバレないように、遠回りさせて信頼性を"盛った"わけですね。

この手法、このあとのイラク戦争でも使われます。

③ イラク戦争(2003年)──メディアを利用した情報ロンダリングの教科書的事例


2003年のイラク戦争は、「情報ロンダリング」の教科書と言ってもいい事例です。

アメリカ政府は「イラクが大量破壊兵器(WMD)を保有している」と主張して開戦を正当化しましたが、その根拠がかなり怪しいものでした。

手口はこうです。

まず、アメリカ政府の支援を受けたイラク国民会議(INC)が、「亡命者の証言」として偽情報をニューヨーク・タイムズの記者に提供。記者はこれを検証不十分なまま「一面の特ダネ」として報道しました。

すると今度は、チェイニー副大統領などの政府高官がテレビに出演して、「ニューヨーク・タイムズも報じている」 と引用し、自分たちの主張を裏付けたんです。

自分で仕込んだ情報を、メディアを通して「第三者のお墨付き」に変換する。この循環構造、見事と言うべきか恐ろしいと言うべきか。

結果的に大量破壊兵器は見つかりませんでした。この戦争で失われた命の重さを思うと、情報操作がいかに取り返しのつかない結果を生むか、痛感します。

④ クリミア併合(2014年)──軍事力×情報操作の「ハイブリッド戦」


2014年、ロシアによるクリミア併合は、「ハイブリッド戦」の成功例として軍事研究者の間で大きな注目を集めました。

ロシアが使ったのは正規軍や特殊部隊だけではありません。サイバー攻撃とSNSを通じた世論操作を同時多発的に仕掛けたのです。

特に巧妙だったのが、アメリカの外交官同士の電話会話を盗聴・リークしたこと。これによって米国とEU(欧州連合)の関係に亀裂を入れることに成功し、ウクライナへの一枚岩の対応を困難にさせました。

軍事力と情報操作を同時に使うことで、ロシアはほぼ無血でクリミアを強制的に編入しました。物理的な戦場と情報空間の戦場が完全に融合した、新しい時代の戦争の形がここに現れたわけです。

⑤ ロシア・ウクライナ戦争(2022年〜)──ディープフェイクが「新兵器」になった


2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻は、SNSと生成AIが本格的に戦場に投入された初めての大規模戦争と言えるかもしれません。

ここで標的にされたのは、軍事施設でもインフラでもなく、国民の「認知(脳)」 そのものです。

侵攻直後、ロシア側はこんな情報を拡散しました。

  • 「ゼレンスキー大統領が首都キーウから逃亡した」という偽情報

  • 国民に降伏を呼びかけるゼレンスキー大統領の 偽動画(ディープフェイク)

  • ウクライナ軍の総司令官がクーデターを呼びかける偽動画

AIで生成されたリアルな偽動画が、SNSで一瞬にして世界中に拡散される。これが2020年代の情報戦のリアルです。

しかし、ウクライナ側の対抗策も見事でした。ゼレンスキー大統領は自ら首都の街頭に立ち、スマホで自撮り動画を撮影して投稿。「自分はここにいる」と即座に逃亡説を粉砕したのです。

さらに注目すべきは、米英の情報機関がとった異例の戦術でした。ロシアが侵攻の口実として「偽旗作戦」を仕掛けようとしている──そんな機密情報(インテリジェンス)を、事前に公開 したのです。嘘がつかれる前に、「これから嘘がつかれますよ」と先回りして無力化する。この戦術は情報戦の歴史の中でもかなり画期的なものでした。

⑥ イスラエル・ハマス戦争(2023年〜)──フェイク画像が氾濫する現在進行形の情報戦


イスラエル・ハマス戦争。ここではSNS上(特にXなど)で、フェイクニュースがかつてないレベルで氾濫しています。

たとえば──

  • 「ハマス軍がイスラエルのヘリコプターを撃ち落とした」と主張する映像が、実はビデオゲームのワンシーンだった

  • イスラエル側から「ハマスがイスラエルの子どもたちを檻に入れている」という偽情報が投稿された

双方の支持者や、混乱に乗じた悪意あるアクター(行為者)が入り乱れて、真偽不明の情報が爆発的に拡散しています。

ゲーム映像を「戦場の映像」と偽るなんて、一昔前ならすぐバレたはずです。でも今は、映像のクオリティが上がりすぎて、パッと見ただけでは判別がつかない。しかも感情が高ぶっている状態では、人は検証する前にシェアしてしまう。これは心理学的にも十分に説明のつく現象です。

⑦  現在進行形の、米国・イスラエルのイラン攻撃(2026年〜)──「イラクの亡霊」と「初のAI全面戦争」


2026年2月28日、米国とイスラエルはイランへの大規模な共同攻撃を開始しました。作戦名はイスラエル側が「Operation Roaring Lion(咆哮する獅子作戦)」、米国側が「Operation Epic Fury」。テヘラン、イスファハン、コム、カラジなど複数の都市が標的となり、最高指導者ハメネイ師を含む複数の要人が殺害されました。イランは報復として中東全域の米軍基地やイスラエルに対して500発以上の弾道ミサイルと2000機以上のドローンを発射し、紛争はバーレーン、クウェート、カタール、サウジアラビア、UAE、レバノンなど9カ国以上に拡大しています。

この紛争は「情報戦」という観点から見ると、ここまで紹介してきた①〜⑥のすべての手法が同時に動いている、いわば情報操作の"総合格闘技"です。

◆ 「イラクの亡霊」──繰り返されるWMDの論理

まず、開戦の正当化をめぐる情報戦です。

トランプ大統領は攻撃の理由として、イランが核兵器を追求し、米本土に届く長距離弾道ミサイルを開発しようとしていると主張しました。しかし米国自身の情報機関の分析では、イランがそうした能力を獲得するには2035年までかかるとされていました。

この構図、③のイラク戦争とそっくりだと思いませんか?

実際に多くの専門家やメディアが、2003年の「大量破壊兵器(WMD)」の論理の再演だと指摘しています。しかも今回は、攻撃のわずか前日、仲介役のオマーン外相が核交渉で「画期的な進展」があったと発表していたのです。イランが濃縮ウランを二度と兵器化しないことに同意し、IAEAの完全な査察を受け入れるという内容でした。攻撃後、オマーン外相は「積極的かつ真剣な交渉が台無しにされた」と落胆を表明しています。

つまり、「外交が失敗した」という物語と、「外交は進んでいた」という物語が同時に存在していたわけです。どちらの物語を信じるかで、この戦争の正当性がまったく変わってくる。これこそが情報戦の本質です。

◆ サイバー攻撃と物理攻撃の「完全融合」──④の進化形

④のクリミア併合で見た「ハイブリッド戦」は、ここでさらに進化しました。

攻撃開始と同時に、イラン国内で大規模なサイバー作戦が展開されました。イランで広く使われているイスラム教の礼拝時間アプリ「BadeSaba」がハッキングされ、「助けは来た(Help has arrived)」「軍人よ、武器を置き同胞を守れ」というメッセージがユーザーに一斉配信されたのです。さらに、イランの国営テレビ局や報道機関もハッキングされ、トランプ大統領やネタニヤフ首相の映像が放送されました。

宗教アプリを通じて降伏を促す──これは、礼拝という日常的行為をサイバー戦の「配信チャネル」に変えてしまうという、極めて巧妙な心理作戦です。ミサイルが上空を飛んでいるまさにそのとき、手元のスマホから「降伏しろ」というメッセージが届く。物理空間と情報空間の融合が、個人のスマートフォンという最も親密なレベルにまで達したわけです。

一方、イラン側はインターネットをほぼ全面的に遮断しました。これは国民の情報アクセスを断つと同時に、国外への情報流出を防ぎ、現地の実態を外部から検証不能にするという二重の効果があります。情報を「遮断する」こともまた、情報戦の一つの武器なのです。

◆ ビデオゲーム映像の再来──⑥の繰り返し

⑥のイスラエル・ハマス戦争で見た現象が、ここでも繰り返されました。

攻撃が始まった直後、X(旧Twitter)上でビデオゲームのシミュレーション映像が「イランの戦闘機が撃墜される映像」として拡散されました。また、AI生成された破壊されたテルアビブの映像、実在しない抗議デモの映像、虚偽の軍事的戦果を誇示する動画が双方の支持者によって爆発的に共有されました。

しかし今回、2024〜2025年の直接衝突の際からすでに「初のAI戦争」と呼ばれていた現象がさらに加速しています。ヨーロッパのデジタルメディア監視機関EDMOは、この紛争における生成AIを使った偽情報の規模と速度を「武力紛争における前例のないレベル」と評しています。

特に象徴的だったのが、イラン南部ミーナーブの少女学校への攻撃をめぐる情報戦です。イラン側は約180人の子どもが死亡したと発表し、オーストリアの在外イラン大使館がX上にピンクのランドセルの写真を投稿しました。しかしこの画像はAI生成であることが判明し、メタデータにはGoogle Geminiの電子透かしが確認されました。

ここが恐ろしいポイントです。独立した調査では、この学校がIRGC(イスラム革命防衛隊)海軍基地のすぐ隣にあったことが確認されており、実際に子どもたちが犠牲になった可能性は十分あります。つまり、現実の悲劇の上にフェイク画像を重ねることで、かえって事実の検証を困難にしてしまったのです。本物の被害があるのに、偽の証拠を混ぜることで「すべてがプロパガンダだ」と否定する口実を相手側に与えてしまう──これは情報戦における最悪の自己破壊です。

◆ 大統領自身が誤情報の発信源に

米国側も例外ではありません。トランプ大統領はイランの空爆の「ビフォーアフター」として画像をSNSに投稿しましたが、「ビフォー」の画像がまったく別の場所のものであったことが確認されています。一国の大統領が自ら誤情報を発信する──③のイラク戦争では、政府がメディアを「迂回路」として使いましたが、SNS時代にはその迂回路すら不要になりました。大統領が直接、フォロワーに向けて情報を発信し、それが検証される前に数百万回閲覧される。メディアという「フィルター」が機能しない時代の情報戦の姿がここにあります。

◆ 「すべての側が嘘をついている」時代

この紛争を観察しているジャーナリストや研究者の間で繰り返されているフレーズがあります。「Every side is lying(すべての側が嘘をついている)」。

米国は攻撃の正当性を「差し迫った脅威」と説明しつつ、ホワイトハウスの説明は矛盾を含んでいます。イランは民間人被害を強調しつつ、AI生成画像で「証拠」を水増ししています。イスラエルは「軍事目標のみ」を標的にしていると主張しつつ、民間人の死者が報告されています。そしてロシアは「仲裁者」を名乗りつつ、自国のウクライナ侵攻との二重基準を指摘されています。

インターネットが遮断されたイラン国内からは、独立した検証がほぼ不可能な状態です。外部から確認できるのは衛星画像と、遮断をくぐり抜けてきた断片的な映像だけ。その空白を、双方のプロパガンダが競うように埋めています。

情報戦の研究者ジョアン・ドノヴァンはこう指摘しています──混乱のさなかでは、「速報の空白」こそが情報操作の最大のチャンスになる、と。事実が確定する前の数時間が、物語を植え付けるゴールデンタイムなのです。

◆ ①〜⑥のすべてが同時に起きている

改めて振り返ると、この紛争には本記事で見てきた情報戦のすべてのパターンが凝縮されています。

①のリーク(ホワイトハウスの作戦写真から機密情報が漏れた可能性の議論)、②のメディアを通じた偽情報拡散(WMDの論理の再演)、③の情報ロンダリング(政府発表→メディア報道→政府が引用、の循環構造)、④のハイブリッド戦(サイバー攻撃と物理攻撃の同時展開)、⑤のディープフェイク(AI生成画像・映像の氾濫)、⑥のゲーム映像の戦場映像化。

そしてこれらすべてが、リアルタイムで、かつてない規模と速度で展開されています。

この紛争は現在も続いており、今日この瞬間にも新たな情報──あるいは偽情報──が世界中に拡散されています。私たちにできることは、怒りや恐怖を感じたときほど立ち止まること、「誰がこの物語から利益を得るのか」を問うこと、そして自分自身の側の主張にも同じ懐疑の目を向けることです。

情報戦は、遠い世界の話ではありません。あなたのスマホの中で、今この瞬間にも行われているのです。

情報戦で使われる「3つのブレンド」


ここまで6つの事例を見てきましたが、共通するパターンがあります。

戦争当事国が情報戦で使うのは、「事実」「半分の事実」「明らかな嘘」の3つのブレンド です。

全部が嘘だと信じてもらえないし、全部が事実なら操作する必要がない。だから事実の中に嘘を紛れ込ませる。あるいは、事実を切り取って文脈をすり替える。

このブレンド技法は2000年以上前の古代ローマから、2026年のSNSまで、驚くほど一貫しています。変わったのはメディアの速度と到達範囲だけで、人間の心理的な脆弱性──つまり「感情が揺さぶられると判断力が鈍る」という特性は、まったく変わっていません。

私たちにできること


公認心理師として、最後にひとつだけ伝えたいことがあります。

情報戦で最も危険なのは、「自分は騙されない」と思っている人です。

心理学では「バイアスの盲点(Bias Blind Spot)」と呼ばれますが、人は自分自身のバイアスには気づきにくい。「あの国が悪い」「この主張は正しい」と確信を持った瞬間に、すでに情報戦の影響下にある可能性を疑ったほうがいい。

戦時下の情報に接するとき、私_自身が心がけていることはシンプルです。

「感情が大きく動いた情報ほど、一晩寝かせてから判断する」

出所不明の情報や、感情を強く煽る映像を見たとき。怒りや悲しみがこみ上げてきたとき。そのタイミングでシェアボタンを押すのは、ちょっと待ったほうがいい。

フェイクニュースが実弾と同等の威力を持つ時代に、「感情のブレーキ」を持つことは、私たち一般市民にとっても立派な防衛手段です。

あなたのスマホの画面は、あなたが思っている以上に「戦場」に近いかもしれません。

長文をお読みいただきありがとうございました。本当に大切な視点ですので、多くの方にシェアしていただければうれしいです。


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