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あなたのその怒り、本当に自分の気持ちですか?

あなたは最近、SNSを見ていて突然カッとなったことはありませんか?

あるいは、誰かの投稿に対して「こんな意見は許せない」と感じて、気づいたら長文のコメントを打ち込んでいた——そんな経験はないでしょうか。

実は私も、医療の現場で働きながら日々SNSを使う中で、「なんだかいつも消耗するな」と感じていた時期があります。その違和感の正体を探っていくと、「トローリング」という情報操作の手口に行き着きました。今日は、その仕組みと、自分を守るための考え方を一緒に整理したいと思います。


怒りは、設計されている


少し不思議な話から始めさせてください。

SNS上で私たちが感じる「怒り」は、どこまでが本当に自分の気持ちで、どこからが誰かに"設計された"感情なのか——あなたはそう考えたことがありますか?

情報操作の世界には「DEPICT戦略」と呼ばれる、フェイクニュースに共通する6つの操作手法をまとめたフレームワークがあります。その最後の「T」にあたるのが、今日お話しする「トローリング(Trolling)」です。日本語に訳すなら「荒らし行為」とでも言えばいいでしょうか。

ただ、私がここで伝えたいのは、単なる「ネットの荒らし」の話ではありません。これは、私たちの感情そのものを標的にした、かなり精巧な心理操作の話です。

「トロール」とは何者なのか


トローリングを実行する人物は「トロール」と呼ばれます。

よく混同されるのが「ボット」との違いです。ボットはプログラムが自動で投稿を繰り返す仕組みですが、トロールは人間が手動でアカウントを操作している点が異なります。人間が動かしているからこそ、文脈を読み、感情の機微を利用した、より巧妙な工作ができてしまうのです。

たとえば、ロシアには「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」と呼ばれる組織の存在が知られています。ここでは工作員がシフト制・24時間体制で勤務し、ターゲット国の言語や文化、社会の対立構造を深く理解した上で、人々の感情を逆撫でする書き込みを大量に行っていると報告されています。

これを聞いて「遠い国の話だ」と感じた方、少し待ってください。私たちが毎日見ているSNSのタイムラインは、国境を持ちません。そしてトローリングの動機は、国家レベルのものだけではないのです。

なぜ、人は"荒らす"のか


トローリングの動機は大きく2種類に分かれます。

ひとつは愉快犯的なもの。単純にトラブルを起こしたい、誰かが怒って反論してくるのを見て面白がりたい、という悪意ある娯楽です。インターネットの匿名掲示板はこうした「荒らし」を育てやすい環境だと指摘されています。

もうひとつは、政治的・国家的な動機です。他国の選挙に介入したり、社会の分断を深めたりするために、意図的に怒りや不満を煽る投稿を仕掛けます。ターゲット社会にもともとある対立の火種に油を注ぎ、民主主義のプロセス自体を機能不全に追い込む——これが、組織的なトローリングの最終的な目的です。

臨床的な視点から言うと、「怒り」という感情はもともと非常に強力なエネルギーを持っています。人は怒りを感じると、冷静な判断よりも衝動的な行動を優先しやすくなります。トローリングはその性質を巧みに利用しているのです。まるで「感情の急所」をピンポイントで狙ってくるような感覚です。

炎上に乗ること自体が、相手の思う壺


ここが最も重要なポイントです。

トローリングの最大の狙いは「人々の感情、とりわけ怒りを刺激し、炎上させること」にあります。つまり、挑発に乗って感情的に反論してしまうこと自体が、相手に餌を与える行為になってしまいます。

「そんな挑発、すぐわかるでしょ」と思う方もいるかもしれません。でも、上手に設計されたトローリングは、あなたの価値観や信念に深く根ざした問題をテーマに選びます。医療者である私でさえ、ふとしたタイミングで「これは本気で反論しなければ」と感じることがあります。怒りが先に立つとき、私たちは冷静な自分を一時的に失っています。

ここで注目したい取り組みがあります。「Bad News」や「Harmony Square」というオンラインゲームです。これらは、プレイヤー自身が偽情報を拡散する「悪役」となり、トローリングを疑似体験するというユニークな設計になっています。

攻撃者の視点に立つことで、「いかにして人を怒らせ、議論を壊すか」というロジックを自ら学ぶ。その体験が、現実のSNSで不自然な挑発を見たときの「免疫」になる——研究者たちはこれを「心理的ワクチン」と呼んでいます。

医療の世界では、ある病気を理解するために病態生理を学ぶことが基本です。それと同じで、トローリングから身を守るには、その仕組みを知ることが最初の一歩になるのだと思います。

私が日々意識していること


最後に、個人的な話を少し。

私はSNSでの発信を続ける中で、「この投稿はなぜ自分の感情を揺さぶるのか」を一度立ち止まって考えるクセをつけるようになりました。怒りを感じたとき、「これは私の本来の感情なのか、それとも誰かに設計された反応なのか」と自問することです。

すべての怒りが操作されているとは思いません。でも、その怒りが本物かどうかを問い直すことは、情報リテラシーの根本的な訓練になります。

インターネット上の言葉は、時に私たちの現実認識そのものを変えてしまいます。自分の感情を自分でコントロールするための知識を持つことは、現代を生きるすべての人にとって、必要なスキルになっていると私は感じています。

まとめ


今日お伝えしたかったポイントを3つに整理します。

トローリングとは、人間が手動で運用するアカウントによる意図的な挑発行為であり、ボットとは異なる巧妙さを持っています。その動機は愉快犯的なものから国家的な情報戦まで幅広く、組織的に実施されているケースも存在します。そしてもっとも重要なのは、挑発に乗ること自体が相手の目的を達成させるという点です。攻撃者の手口を学ぶ「心理的ワクチン」のアプローチは、私たちが自分の感情を守るための、実践的な第一歩になり得ます。

あなたが次にSNSで「なんだかムカッとする」と感じたとき、少しだけ立ち止まってみてください。その怒りは、本当にあなた自身の怒りですか?

その問いを持てるようになったとき、情報の海の中で自分の軸を保つ力が、少しだけ育っていると思います。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。


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