確信度が20%動いた本当の理由|鍵は「AI」でなく「内省」だった
「陰謀論を信じている人の考えは、いくら事実を並べても変えられない」——そんなふうに感じたことはありませんか。ご家族や友人が特定の思い込みを固く信じ、何を話しても聞く耳を持たず、話すこと自体をあきらめてしまった経験を持つ方もいるかもしれません。少し前に私はこのnoteで、AIとのたった3回の対話で、陰謀論への確信度が平均20%も下がったという研究をご紹介しました。すると、読んでくださった方からこんな声が届きました。「それって、相手がAIだったから効いたのでは」「人間の専門家が同じことを言っても、同じくらい効くの?」。とても大事な問いだと思います。実はこの疑問に、その後発表された研究が正面から答えを出していました。今日は、その続きの物語をお伝えします。
おさらい:20%という数字の衝撃
2024年、Science誌に発表された研究で、GPT-4との対話がたった3回、陰謀論への確信度を平均20%も下げ、しかもその効果が2か月後も続いたことが報告されました(Costello et al., 2024)。
これまで心理学の世界では、「陰謀論は『信念』というより『アイデンティティ』の一部だから、証拠を見せても変わらない」と考えられてきました。その常識をくつがえす結果だったからこそ、大きな注目を集めたのです。
くわしい実験の中身は、以前の記事でご紹介していますので、気になる方はそちらもあわせてどうぞ。今日お伝えしたいのは、その後に発表された、二つの続報の話です。
疑問その1:効いたのは「AIだから」なのか
一つ目の疑問は、シンプルです。同じ内容を、人間の専門家が話しても、同じように効果があるのでしょうか。
これに答えたのが、Boissin氏らの研究です(Boissin et al., 2025)。研究チームは955人を対象に、あらかじめ計画を立てたうえで実験を行いました。参加者は、陰謀論、あるいは根拠のとぼしい思い込みを一つ申告し、それに反論するAIモデルと対話します。
ここで研究チームは、「相手をAIツールだと説明するか、人間の専門家だと説明するか」「話し方をAIらしくするか、人間らしくするか」を、ランダムに入れ替えました。
結果は、はっきりしていました。どの組み合わせでも、確信度は同じように下がったのです。統計的に見て、条件のあいだに意味のある差はありませんでした。対話のあと、45%の人が「人間と話していた」と感じ、21%が「AIだと思った」と答えましたが、この受け止め方の違いすら、効果の大きさとは関係していませんでした。
つまり、効いていたのは「相手がAIかどうか」ではなく、「よく練られた、事実にもとづく論拠そのもの」だったということです。
疑問その2:AIとすら話さなくても、効果はあったのか
もう一つの疑問は、さらに踏み込んだものです。そもそも対話という形式自体が必要なのでしょうか。自分ひとりで考えるだけでは、だめなのでしょうか。
これを調べたのが、Meyer氏らの研究です(Meyer et al., 2024)。2000人を超える参加者のうち、ある陰謀論に「完全にではないが、ある程度同意している」人たちを集め、三つのグループに分けました。
一つ目のグループは、自分がその陰謀論を信じる理由を、思いつく限り書き出してもらいました。二つ目のグループは逆に、その陰謀論に対して感じている迷いや疑問を書き出してもらいました。三つ目のグループだけが、「街の認識論者」という役割を与えられたAIチャットボットと対話しました。このチャットボットは、事実やデータをいっさい提示しません。ただ「なぜそう思うのですか」「迷いはありませんか」と、問いを重ねていくだけです。
結果は、三つのグループのあいだに、統計的な差はありませんでした。AIと対話したグループも、ひとりで理由や迷いを書き出しただけのグループも、同じように確信度が下がったのです。
つまり、AIと対話すること自体が本質ではなく、「自分の信念の根拠と迷いに、あらためて向き合う」という内省のプロセスこそが、鍵だったのです。
二つの研究が示す、説得の本当の中心
ここまでの二つの研究を並べると、見えてくる景色があります。
一つ目の研究は、メッセンジャーはAIでなくてもいいことを示しました。二つ目の研究は、対話の相手すら、いなくてもいいことを示しました。
この二つをつなげると、残るのはシンプルな答えです。人の考えを動かすのは、AIという技術そのものではなく、①その人の具体的な疑問に、正確に応える中身のある論拠と、②自分の信念を振り返らせる、問いの力。この二つだったのです。
古代ギリシャのソクラテスは、相手に一方的に答えを教えるのではなく、問いを重ねることで、相手自身に矛盾に気づかせる対話法を実践しました。今回ご紹介した「街の認識論(street epistemology)」という手法も、もとをたどれば、この考え方を土台にしています。AIは、この2000年以上前からある知恵を、24時間いつでも、誰に対しても、根気よく実践できる存在になった——そう考えると、少し景色が変わって見えないでしょうか。
臨床の現場で、私が感じること
公認心理師として日々感じるのは、人は「正しさ」を押しつけられると、かえって心を閉ざしてしまう、ということです。
たとえるなら、事実は鍵をこじ開けようとする力に似ています。外から無理に開けようとするほど、ドアはかたく閉まっていくものです。けれど問いかけは、内側から鍵を回してもらうためのノックのようなものです。ドアを開けるのは、あくまで本人なのです。
もちろん、これは万能の魔法ではありません。Meyer氏らの研究では、「自分の信念が正確かどうかをとても重視している人」や、「物事を陰謀の産物として見る傾向がもともと強い人」には、どの方法もあまり効果がなかったことも報告されています。すべての人の考えが、簡単に変わるわけではない。この誠実さも、あわせてお伝えしておきたいと思います。
それでも、焦らなくていいのです。急がなくていいのです。ただ、次に大切な人と話すとき、一つだけ、事実の前に問いを置いてみてください。それだけで、対話の景色は大きく変わるはずです。
今日からできる、3つの問いかけ
もし身近に、陰謀論やちょっとした思い込みを固く信じている方がいたら、次の3つを、頭の片すみに置いてみてください。
一つ目は、正しさで打ち負かそうとしないこと。
二つ目は、「なぜそう思うのですか」と、理由をたずねてみること。
三つ目は、「迷う点はありますか」と、本人の中にある迷いに、そっと光を当てることです。
意志が弱いから考えを変えられない、というわけではありません。多くの人は、ただ、自分の中の迷いに向き合う機会を、まだ持てていないだけなのかもしれません。
あなたの隣にいる大切な人の心も、正しさをぶつける前に、まず一つの問いから、そっとひらいていけるはずです。
終わりに
今日お伝えしたことをまとめます。
・陰謀論への説得力は、相手がAIかどうかではなく、論拠の中身で決まる(Boissin et al., 2025)
・AIと対話することそのものよりも、自分の信念に向き合う「内省」が本質的な鍵である(Meyer et al., 2024)
・ただし、信念の正確さに強くこだわる人や、陰謀論的な見方がもともと強い人には、効果が限定的である
・古くからある「問いかけによる対話」の力を、AIは大きな規模で実践できるようになった
以上が、今回お伝えしたかった内容です。どこか一つでも「試してみよう」と思える点があれば幸いです。お読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
Boissin, E., Costello, T. H., Spinoza-Martín, D., Rand, D. G., & Pennycook, G. (2025). Dialogues with large language models reduce conspiracy beliefs even when the AI is perceived as human. PNAS Nexus, 4(11), pgaf325.
Meyer, M., Enders, A., Klofstad, C., Stoler, J., & Uscinski, J. (2024). Using an AI-powered "street epistemologist" chatbot and reflection tasks to diminish conspiracy theory beliefs. Harvard Kennedy School Misinformation Review, 5(6).
Costello, T. H., Pennycook, G., & Rand, D. (2024). Durably reducing conspiracy beliefs through dialogues with AI. Science, 385(6714), eadq1814.
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