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ランド研究所が名づけた「虚偽の消防ホース」を心理士が3つの視点で解説

次から次へと流れてくる情報、真偽の分からない投稿、対立する意見の応酬。気づけば「もう何が本当か分からない」と、考えることそのものを諦めてしまいそうになる。

私自身、公認心理師としてこのテーマに向き合うなかで、この"疲れ"の正体が、実はある明確な仕組みによって作られていることを知りました。今日は、その仕組みと、心をすり減らさずに情報と付き合っていくための視点を、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。


その「情報疲れ」、あなたの弱さではありません


情報を追いかけるのに疲れてしまったとき、私たちはつい「自分の意志が弱いからだ」「もっとしっかり情報を見極めなければ」と、自分を責めてしまいがちです。

でも、まず声を大にしてお伝えしたいのは、その疲れは決してあなたの能力や意志の問題ではないということです。

むしろ、その疲れこそが、ある巧妙な仕組みが「狙いどおりに機能している証拠」だとしたら、どうでしょうか。見方が少し変わってくるのではないかと思います。

「虚偽の消防ホース」という、静かで巧妙な攻撃


米国のランド研究所は、現代の情報操作の手法のひとつを「虚偽の消防ホース(Firehose of Falsehood)」と名づけました。消防車の太いホースから水が勢いよく放たれるように、大量の偽情報や矛盾する情報を、あらゆるチャンネルから絶え間なく浴びせかける手法です。

この手法の恐ろしさは、かつてのプロパガンダのように緻密な一貫性を保とうとしない点にあります。矛盾していても構わない。むしろ大量に、手軽に拡散できることのほうが優先されます。

さらに厄介なのは、その情報が「完全な嘘」だけで構成されているわけではないということです。サイバーセキュリティ研究の分野では、小さな嘘と客観的な事実が複雑に織り交ぜられていることが指摘されています。事実のかけらが混ざっているからこそ、「これは嘘だ」と切り分けることが難しくなるのです。

本当の標的は、あなたの「気力」そのもの


ここで、心理職として一番お伝えしたいことがあります。この手法の目的は、実は「特定の嘘を信じ込ませること」ではありません。

本当の狙いは、大量の情報を浴びせ続けることで、受け手の情報処理能力を飽和させ、「もう何を信じればいいのか分からない」という深い疲労感とシニシズム(冷笑主義)に追い込むことにあります。

心理学には、努力しても結果が変わらない経験が続くと、そもそも行動する気力そのものを失ってしまうという考え方があります。情報の洪水も、これと似た構造を持っていると私は感じています。「考えても仕方がない」「どうせ全部嘘だろう」というあきらめの感覚は、あなたが鈍感になったからではなく、処理しきれない量の情報にさらされ続けた結果、心が防御反応を起こしているサインなのです。

心を守るための、3つの処方箋


ここまでの仕組みを理解したうえで、実際に心をすり減らさずに情報と付き合っていくために、私が大切だと考えている視点を3つお伝えします。

ひとつ目は、俯瞰する視点を持つことです。 目の前の一つひとつの情報が正しいか間違っているかに一喜一憂するのではなく、「今、意図的に混乱とシニシズムを広げようとしている構造があるのかもしれない」と、ワンテンポ引いて眺めてみる。この視点があるだけで、情報に飲み込まれる感覚がずいぶん和らぎます。

ふたつ目は、「不確実性に耐える力」を育てることです。 詩人のジョン・キーツは、答えの出ない状況に対して性急に結論を求めず、そのままの状態を受け入れる力を「ネガティブ・ケイパビリティ」と呼びました。「白か黒か、今すぐはっきりさせたい」という気持ちを、少しだけ手放してみる。これは我慢というより、新しい心の筋力を育てるチャレンジだと捉えると、取り組みやすくなるはずです。

みっつ目は、情報との間に意図的に「呼吸」をつくることです。 すべての情報を全力で受け止め続ける必要はありません。信頼できる発信源を数か所決めておく、情報に触れる時間を区切る、こうした小さな工夫が、心にとっての休息になります。全部を追いかけようとするのをやめることは、逃げることではなく、賢い戦略のひとつです。

この3つは、どれも今日から始められる小さな習慣です。難しく考えすぎず、できるところから試していただければと思います。

「疑う力」を、あきらめないでいてほしい


情報戦を仕掛ける側が最も望んでいるのは、私たちが「考えることをやめてしまうこと」です。だからこそ、疑問を持ち続け、立ち止まって考えようとするその姿勢自体が、すでに大きな抵抗になっています。

すべてを見抜こうと気負う必要はありません。分からないことは分からないままでいい。それでも、自分の頭で考えようとする気持ちだけは、手放さないでいてほしいと、心理職の立場から強く思います。

おわりに


今日お伝えしたポイントを、あらためて整理します。

情報疲れは、あなたの意志が弱いからではなく、意図的な仕組みによって引き起こされている可能性があるということ。「虚偽の消防ホース」の本当の狙いは、嘘を信じ込ませることではなく、考える気力そのものを奪うことにあるということ。そして、俯瞰する視点、不確実性に耐える力、情報との呼吸、この3つが心を守る手がかりになるということです。

情報の波に飲み込まれそうになる日があっても、それはあなたが弱いからではありません。どうか自分を責めず、今日お伝えした視点を、心のお守りのひとつにしていただけたらうれしく思います。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。

#公認心理師 #認知戦 #虚偽の消防ホース #情報リテラシー #メンタルヘルス


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