医療従事者の私が『SNSで健康情報を集めるな』と断言する理由
あなたは最近、スマートフォンで健康情報を調べたことがありますか?
「〇〇が体に悪い」「この食品でがんが防げる」——そんな見出しが次々とタイムラインに流れてくる中で、どれが本当でどれが嘘なのか、もう判断できなくなっているとしたら。
私は医療の現場で働きながら、公認心理師の資格も持っています(カウンセリング業務は行っていませんが)。日々感じることがあります。SNSの情報に振り回されて漠然とした不安を抱えている人が、決して少なくないということです。
研究によれば、フェイクニュースは真実よりも10倍速く拡散するとされています。医療・健康情報も例外ではありません。今日は、なぜ私たちが偽情報を信じてしまうのか、そして質の高い情報とどう付き合えばいいかを、医療と心理学、両方の視点からお伝えします。
フェイクニュースは、なぜ10倍速く広がるのか
2016年のアメリカ大統領選挙で、フェイクニュースが合計3800万回もシェアされたという事実をご存じですか。しかも、そのほとんどは真実のニュースより10倍も多く拡散したと報告されています。
なぜそんなことが起きるのか。心理学的に言えば、答えはシンプルです。人は「驚き」や「怒り」「恐れ」といった感情を揺さぶる情報に、はるかに強く反応するからです。「あなたの食べているものが危険かもしれない」という見出しは、「特に問題ありません」という見出しの何十倍もクリックされます。感情が先走ると、私たちの脳はファクトチェックをサボりがちになる。これは認知の自然な傾向であり、意志が弱いとか、頭が悪いという話ではありません。
ただ、医療情報においてこの傾向は特別に危険です。なぜなら、判断ミスが直接、体と命に影響するからです。
日本は「伝言ゲームの最後の人」
もう一つ、日本固有の問題があります。フェイクニュースが海外で生まれ、SNSで拡散し、最終的に日本語に翻訳されて届くころには、情報はすでに何度もねじ曲げられています。まるで、伝言ゲームの一番最後の人が受け取るメッセージのように。
そのうえ、日本ではここ数年「メディアは信用できない」という意識が広がっています。専門機関や既存メディアへの不信感が高まるとき、人は代わりに何を信じるか。お気に入りのSNSインフルエンサー、友人のシェア、匿名のまとめサイト——そういった情報が「主観バイアスのない正直な声」として受け入れられるようになっていく。でも実際には、そうした情報ほど確認されていないことが多い。
私が医療の現場で目にするのも、このパターンです。「SNSでこう書いてあった」「YouTubeで医者じゃない誰かが言っていた」を根拠に、自己判断で薬をやめたり、民間療法に切り替えたりする人が一定数います。その人たちが「情報弱者」かというと、そんなことは全然ない。むしろ、熱心に調べているからこそ罠にはまる。情報収集の量と質は、必ずしも一致しないのです。
富裕層は今、なぜ「新聞」に戻っているのか
ここで少し意外な話をします。実は今、ニューヨーク・タイムズの購読者数が過去最高を更新しています。SNSが全盛の時代に、なぜ紙媒体のメディアに人が戻るのか。
その答えは「正確さへの渇望」だと私は思っています。世の中にフェイクニュースが氾濫すればするほど、ファクトチェックされた信頼性の高い情報の価値は上がる。新聞や専門誌は、一時期デジタルの波に押されて苦しんでいましたが、今アメリカでは、特に富裕層・高学歴層が質の高い情報メディアに戻る動きが観察されています。
これはお金持ちが道楽で新聞を読んでいるわけではありません。「良い情報にアクセスできる人が、良い判断を下し、成功しやすい」という構造を理解しているからです。医療の世界で言えば、ガイドラインに基づいた治療を受けられるかどうかが予後を大きく左右するのと似ています。情報の質は、結果の質に直結する。
私が実践している情報との付き合い方、3つのこと
では、具体的に私はどうしているか。正直に書きます。
一つ目は、「一次情報に当たる習慣」です。SNSで流れてきた健康情報が気になったとき、私はその元データ、できれば論文や学術機関のウェブサイトに辿り着くようにしています。英語が苦手でも、PubMedやCDCのサイトに元情報があるかどうかを確認するだけで、フェイクかどうか大体わかります。情報が「どこかの研究によると」で止まっていたら、要注意です。
二つ目は、「感情が動いたら一呼吸おく」ことです。公認心理師として学んだことの中で、これは最もシンプルで最も強力な習慣だと思っています。「これは本当にやばい!」と感情が高ぶる情報ほど、冷静に確認する価値がある。感情の温度と情報の信頼性は、残念ながら反比例することが多いからです。
三つ目は、「発信源の専門性を確認する」こと。これは当たり前に聞こえますが、意外と見落とされます。医療についてはきちんと資格を持ち、その資格が何を意味するかを知っている人の言葉と、資格のない人の「体験談」は、同等には扱えません。体験談には価値がありますが、「私にはこれが効いた」は「あなたにも効く」を意味しないということを、医療職として強調したいのです。
「常識のフィルター」を更新し続けること
ここで少し視野を広げてみます。私が医療の現場で感じているもう一つのことは、「昨日の常識が今日は非常識になることがある」ということです。かつて正しいとされていた治療法が覆り、以前は否定されていた概念が再評価されることは珍しくない。
だからこそ、「自分が正しい」という思い込みを疑い続ける姿勢が大切だと思っています。SNSの情報を信じてしまうメカニズムの根底には、「自分がすでに持っている信念を確認したい」という確証バイアスがあります。信じたいものを信じやすい情報で固めていくと、やがてその世界観はどんどん狭くなります。
外の空気を取り込む習慣——専門誌を読む、信頼できる人の考えに触れる、異なる視点に意識的に接する——これが、情報の「常識フィルター」を更新し続ける唯一の方法だと、私は感じています。
まとめ
今日お伝えしたかったことは、大きく3つです。
一つ目、フェイクニュースは感情を揺さぶるものほど拡散しやすく、それは誰の意志や知性の問題でもなく、脳の認知的な傾向によるものだということ。
二つ目、情報の「量」と「質」は別物であり、SNSをいくら熱心に見ていても、一次情報・専門的情報に当たる習慣がなければ判断の精度は上がらないということ。
三つ目、感情が動いたときこそ一呼吸おいて確認する習慣が、自分の健康を守る最も確実なチェック機能になるということ。
SNSは悪いものではありません。ただ、使う側がその特性を知っていることが大切です。あなたはもう、騙されやすい「伝言ゲームの最後の人」である必要はない。情報を受け取る側から、情報を選ぶ側へ。その一歩を、ぜひ今日から踏み出してみてください。
以上が、今回お伝えしたかった内容です。どこか一つでも「試してみよう」と思える点があれば幸いです。お読みいただき、ありがとうございました。
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