【2026年版】AIエージェントと作る30秒動画|EC担当者16版の格闘記

動画を外注する費用も、編集を覚える時間もありません。そんなEC担当者に向けて、この記事を書きました。
わたしはAIコーディングエージェント(用語:指示を出すとPC上の作業を代わりに進めてくれるツール。Codex CLIやClaude Codeなどがある)に指示を出しながら、30秒の告知動画を1本作りました。使ったのは、人の承認を必ず挟むオープンソースの制作パイプライン「Tsugite」です。
作り直した回数は16回。かかった時間は約4時間54分。追加でかかった生成クレジットは0円でした。この記事は、その全16版の往復記録と、そこから見えた5つの学びをまとめた実録です。
先に書いておきます。この4時間54分は型を探していた時間でした。同じ型で2本目を作ったときは、1版・約11分で書き出せています(実写画像とBGMを流用した場合の数字です。詳しくは後半で説明します)。
📌 この記事でわかること
Tsugiteとは何か|AIが勝手に動画を作るのではなく、人が16回承認して仕上げる仕組み
空フォルダとAIエージェントだけで始める、Tsugiteの導入手順
30秒の告知動画を16回作り直した実録|約4時間54分・追加費用0円の全記録
機械のQAは通ったのに、人の目で見たら壊れていた話
ネットショップの商品動画・サイズ解説動画への応用アイデア(提案であり実績ではない)
Tsugiteとは
Tsugiteとは、AIコーディングエージェント(Codex CLIやClaude Codeなど)に手伝ってもらいながら、人が3段階の承認(Gate。用語:先に進めてよいか人が確認する関門)を通して動画を仕上げていく、オープンソース(用語:誰でも中身を見て使える無料公開のソフトウェア)のローカル動画制作パイプラインです。
https://github.com/Takamasa045/tsugite
GitHub(用語:世界中の開発者がプログラムを公開・共有する場所)で公開されているOSS。ライセンスはMIT(用語:改変や商用利用を含め、ほぼ制限なく無料で使える代表的なオープンソースライセンス)。バージョンは0.10.0(2026年8月時点)
「AIが勝手に動画を作る」生成AIツールではありません。企画の承認(Gate1)、書き出し前の目視チェック(Gate2)、最終動画のチェック(Gate3)、この3段階すべてで人が判断します
お金と時間がかかる操作(生成の実行・動画の書き出し)は、コマンドの定義そのものが「人の承認が必須」という区分に固定されています
動作にはNode.js(用語:AIエージェントやTsugiteを動かすための土台となるソフト)22.12以上の22系、またはNode.js 24系、npm(用語:Node.jsに必要な部品を自動で取り込む仕組み)10以上、FFmpeg(用語:動画・音声を変換する定番の無料ソフト)が必要です
出典:Tsugite公式README(GitHub `Takamasa045/tsugite`)
Tsugiteが今できることは、大きく分けると4つです。
素材と設計図(マニフェスト)を検証すること
演出やジャンルに応じた作り方の型(story guide)を理由つきで選ぶこと
既存のローカルWhisper(用語:音声を文字に変換するAIモデル)モデルを使って文字起こしや字幕を作ること
Gate2・Gate3の品質チェックレポートを自動で作ること
逆に、シナリオの企画そのものを1から考えたり、実写の撮影をしたりする機能はありません。あくまで「素材が揃ったあとの組み立てと確認」を担うツールだと捉えると、実際の使い方がイメージしやすくなります。
公式README(日本語版)の冒頭には、次のような自己紹介が書かれています。「AI動画を作って終わりにせず、素材、制作ログ、判断、好みを次の制作へ継いでいくローカル動画制作工房です。」今回わたしが作った動画も、次に何かを作るときの判断材料として残っていくはずです。実際に触ってみて、そんな道具だと理解しました。
「Tsugite」は日本語の「継手」に由来する名前です。木材と木材を釘を使わずに組み合わせる、伝統的な木工の接合技法を指します。素材と素材、判断と判断を「継いで」いくという発想が、そのままツール名になっているようです。
⚠️ 注意:同じ「Tsugite」という名前で、木工の継手そのものを再現する別の研究プロジェクト(`marialarsson/tsugite`)が存在します。検索するときは、動画制作のTsugiteと混同しないよう気をつけてください。
なお本記事は、Tsugiteの開発者から依頼や報酬を受けて書いたものではありません。手元で実際に使ってみた記録です。
動画を作りたいのに、外注費も編集スキルもない|この詰まりから始まった
Tsugiteは、「動画制作を外注するか、諦めるか」の二択に、もう1つの道を作ってくれるツールです。
楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピング、自社ECサイト。どのモールも、商品ページに動画を置ける仕組みを公式に用意しています。でも、実際に動画を作って載せているEC担当者は、まだ多くありません。
理由はシンプルです。動画を内製しようとすると編集スキルが要り、外注しようとするとお金と時間がかかります。写真だけの商品ページより、動きと音がある動画のほうが、商品の使い方やサイズ感を一目で伝えられます。それでも作れていないのは、やる気の問題ではなく、手段の問題です。
2025年4月に比較ビズとMteamが行った調査(マーケティング・広報関係者111名対象)でも、この壁がはっきり出ています。動画を内製する上での課題は「撮影・編集ツールの導入運用が難しい」が44.7%、「社員のリソース不足」が31.6%でした。外注する上での課題は「予定より長い納期」が40.3%、「コスト高・予算調整が難しい」が27.4%でした。
同じ調査によると、動画を内製のみで作っている企業は34.2%、内製と外注を組み合わせている企業は55.9%、完全に外注している企業は9.9%でした。半数以上が、内製と外注を組み合わせながら、それでも両方の壁にぶつかっています。「内製すればいい」でも「外注すればいい」でもない。どちらを選んでも、何かしらの詰まりが残ります。
外注の壁を、具体的な金額で見てみます。制作会社の比較メディアが2026年8月時点で集計した相場では、商品紹介動画は10万円台からとされています。決して安い金額ではありません。何本も動画を作ろうとすれば、その分だけ費用も積み上がります。
わたしも同じ壁にぶつかりました。ある勉強会の告知動画を、30秒だけ作る必要があったのです。編集ソフトは持っていませんし、外注する予算もそこまで潤沢ではありません。だからといって、告知を諦めるわけにもいきません。そんな状況でした。
内製と外注のあいだに、何か別の手段はないか。そう考えていたときに見つけたのが、AIコーディングエージェントに指示を出しながら動画を組み立てるTsugiteでした。編集ソフトの操作を1から覚えるのでもなく、外部に発注して待つのでもない、第3の選択肢です。

次の章から、その中身と実際の記録を見ていきます。
Tsugiteは「AIが勝手に作る」ツールではない|人の承認を挟む制作パイプラインの中身
Tsugiteの核心は、生成技術そのものではありません。人が必ず判断する場面を、3つのGateとして設計に固定していることです。
料理に例えると分かりやすいかもしれません。下ごしらえはAIに任せても、味見と盛り付けの最終判断は自分でします。Tsugiteは、その役割分担をソフトの仕組みとして決めています。
任せきりにして味見をしなければ、塩加減がおかしいまま食卓に出してしまうかもしれません。逆に、下ごしらえまで全部自分でやっていては、時短にはなりません。「どこまで任せて、どこから自分で見るか」という線引きを、あらかじめ決めておくこと。この考え方が、Tsugiteの設計全体を貫いています。
Gate1(企画承認)→Gate2(書き出し前QA)→Gate3(最終動画QA)の3段階
公式README(用語:ソフトの使い方をまとめた説明書ファイル)には、安全な制作フローが7つのステップで書かれています。要約すると次のようになります。

◆ Gate1:企画の承認
プロジェクトと設計図(マニフェスト)を検証し、実行計画を作る。ここで人が「この計画で進めていいか」を承認する。
◆ Gate2:書き出し前のQA
生成や組み立てが終わった段階で、人が出力を確認する。ここで承認されて、初めて動画の書き出し(レンダリング。用語:編集データを1本の動画ファイルに書き出す作業)が始まる。
◆ Gate3:最終動画のQA
書き出された完成動画を、最後にもう一度人が確認する。尺・解像度・映像と音声のズレなどが自動でレポートされたうえで、実際に人が目で見て、公開してよいかを判断する、最後の関所にあたる。
つまり、「作る」「戻す」の判断を、AI任せにしない設計です。
これはTsugite独自の思いつきではありません。アメリカの政府機関NIST(米国立標準技術研究所)が定めたAIのリスク管理の枠組み(AI Risk Management Framework)には、「Measure 2.8:AIシステムの人間による監督を測定・文書化する」という項目があります。
人が見て確認する行為を、なんとなくの安心感ではなく、測定できる管理項目として位置づけているのです。
AIコーディングエージェント自体も、同じ考え方で作られています。Claude Codeの公式ドキュメントには、既定の「Manual mode」について書かれています。ファイル編集やコマンド実行など、ほとんどの操作の前に、人の確認を求めるという内容です。
より自動化された「Auto mode」でも、事情は同じです。スコープ(用語:あらかじめ決めた作業の範囲)を逸脱する操作や、未知のインフラ(用語:サーバーなど、システムを支える基盤部分)へのアクセスは、自動では承認せずブロックする設計です。
つまり、「人が見るべきところは人が見る」という設計は、Tsugiteだけの特殊な仕組みではありません。AIに作業を任せるときの、業界共通の考え方です。Tsugiteの3つのGateは、その考え方を動画制作という領域で具体化したものです。
実際に触ってみると、Gateごとに入力できる決定の言葉が違うことに気づきます。Gate1は「承認」「作り直し」「中止」。Gate3も同じ3択です。ところがGate2だけは「承認」ではなく「まとめて承認」という言葉を使います。
出てきた素材を1つずつではなく、まとめて認めるという意味づけが、あえて分けられているのです。細かい違いですが、このソフトが「何をどう承認させるか」を丁寧に設計している証拠のように思いました。
CLIコマンドの3つの安全区分|read-only/local-write/approval-gated
Tsugiteを実際に動かすCLI(用語:文字でコマンドを打って操作する画面のこと)には、コマンドごとに3つの安全区分があります。これがTsugiteの設計思想の核心です。

コマンド名を全部覚える必要はありません。まずは「読むだけ」「ローカルに書くだけ」「承認が必須」という3つの色分けだけをつかんでください。
◆ read-only(読むだけ)
プロジェクトやGateの状態を一切変えないコマンド。環境診断の`doctor`、検証の`validate`、計画作成の`plan`のほか、`guides`(演出ガイドの一覧)、`story-guides`、`connections`、`presets`、`models`、`production-status`(進捗確認)などが含まれる。何回打っても、プロジェクトの中身は一切変わらない
◆ local-write(ローカルへの記録)
ローカルの成果物やプロジェクトの記録を書き込むコマンド。`review`(レビュー記録)、`viewer`(プレビュー表示)、`compose`(組み立て準備)、`feedback`(感想の記録)、`character-add`(登場人物の追加)などが含まれる。お金はかからないが、ファイルは書き換わる
◆ approval-gated(承認が必須)
人の承認と、それを行う権限を持つ担当者が必ず必要なコマンド。生成を実行する`run`、動画を書き出す`render`、Gateの承認そのものを行う`gate`、`analyze`、`finalize`、`recover`がここに入る
つまり、お金と時間を使う操作は、人が承認しない限り走りません。これはTsugite側の運用ルールではなく、コマンドの定義そのものに組み込まれています。「読むだけ」「ローカルに書くだけ」「承認が必須」という3段階に分かれているからこそ、迷わずに済みます。どこまでは安心して任せられ、どこから先は必ず人が見るべきか、線引きがはっきりするのです。
実際にわたしがいちばんよく打ったのは、`doctor`と`validate`と`plan`の順番、それから迷ったときの`viewer`でのプレビュー確認でした。お金がかかる`run`と`render`は、Gateで承認したときしか実行しませんでした。
Tsugiteが向かない場面
良いことばかりではありません。素直に書いておきます。
フルHD(用語:1920×1080というよく使われる高精細な画面サイズ)30秒の動画を書き出すだけで、十数分かかります。1日に何十本も回す用途には向きません
Node.jsやFFmpegの導入が必要です。完全にノーコード(用語:プログラミングの知識なしで使えること)のサービスではありません
「30秒の動画1本のためにローカル環境を作るのは面倒」という人には、CanvaやVrewのようなブラウザ完結型のサービスのほうが向いている場合もあります
動画の書き出しを担当する部分のライセンス条件を、先に確認しておく必要があります。今回わたしが使ったRemotionは、Tsugite本体と違って、従業員4名以上の営利企業が業務で使うなら有料の検討が必要です。ただしTsugiteは書き出しの土台を差し替えられる設計で、実際にApache 2.0のHyperFramesに差し替えて動かしてみたところ、問題なく書き出せました。くわしくは後半の「ネットショップならこう使える」の章で説明します
向いているのは、「時間はかけてもいいから、内容にこだわって1本を仕上げたい」「往復の記録を残しながら作りたい」という場面です。
逆に「とにかく今日中に、大量の動画を右から左に量産したい」という場面では、書き出し時間そのものがボトルネックになります。1本あたり十数分という数字は、1本だけ作るなら気にならなくても、100本作るとなれば丸1日以上の差になって跳ね返ってきます。何を優先したいかによって、向き不向きがはっきり分かれるツールだと思います。
空フォルダとAIエージェントだけで始めるTsugite導入手順
gitコマンドを自分で打たなくても、AIエージェントに依頼文を渡すだけで環境構築が進みます。
依頼文をAIエージェントに渡すだけの最短ルート
公式READMEには、空フォルダでAIコーディングエージェントを開き、依頼文を貼るだけで始められると書かれています。実際の依頼文は、次のような内容です。
このフォルダに公式のTsugiteを安全にセットアップしてください。
最初は読み取り専用で環境を確認し、
不足しているソフトを入れる前には私の承認を待ってください。
クローンしたあとは、公式のsetup:checkとsetupを使い、
課金が発生しないサンプルのdoctor・validate・planまで進めてください。
既存ファイルの上書き、ログイン、APIキー設定、課金、
run、render、Gate承認、commit、pushは行わないでください。https://github.com/Takamasa045/tsugite
※この依頼文はCodex CLI・Claude Codeのどちらでも同様に使えます。他のAIコーディングエージェントでも、同じ内容を渡せば近い動きになるはずです。
「何をしていいか」だけでなく、「何をしてはいけないか」を最初に伝える。これが、AIエージェントに作業を任せるときのコツです。
特に「run、render、Gate承認、commit、pushは行わないでください」という一文には、大事な役割があります。お金や取り返しのつかない操作を、最初の1通目から明確に止めておくための指示だからです。この一文があるだけで、環境構築の段階では何も課金されず、何も公開されない、という安心感を持って進められます。
setup:check→setup→doctor→validate→planの5ステップ

◆ ① setup:check(読み取り専用の環境診断)
何もインストールせず、足りないものだけを確認する。最初にこれを実行することで、「何を追加で入れる必要があるか」を、パソコンに何も変更を加えずに知ることができる。
◆ ② setup(環境構築)
setup:checkの結果を踏まえて、必要な部品(依存関係)を実際に導入する。ここで初めてパソコンにファイルが追加される。
◆ ③ doctor(診断)
Git(用語:ファイルの変更履歴を管理する定番ソフト)・FFmpeg・ffprobe(用語:動画の中身を調べるコマンド)・Node.jsを個別に判定する。導入した部品が、それぞれ正しく動く状態になっているかを1つずつ確かめる工程。
◆ ④ validate(検証)
プロジェクトの設計図(マニフェスト)が正しい形式で書かれているかを確認する。ここで不備が見つかれば、生成や書き出しに進む前に気づける。
◆ ⑤ plan(実行計画)
「これから何を、どんな順番で作るか」という実行計画を作る工程。ここまでは課金が発生しない範囲で完結する。
手動でセットアップする場合は、リポジトリのルートで次のコマンドを打ちます。
npm run setup:check # 読み取り専用の環境診断
npm run setup
npm run setup:open # ランチャーも開く場合だけWindowsでは、次の最短手順が公式READMEに載っています。
npm ci
npm --prefix apps/workflow-viewer ci
node bin/pipeline doctor --config examples/local-fixture/project.yaml --json
npm run viewer:open必要環境|Node.js 22.12以上(22系)またはNode.js 24系・FFmpeg
必要なのは、Node.js 22.12以上の22系、またはNode.js 24系、npm 10以上、FFmpeg(ffprobeを含む)です。
⚠️ 注意:わたしがつまずいたNode.js 24の問題は、現在公開されているv0.10.0ではすでに解消されています。これから始める人が、同じ作業をする必要はありません。
Windowsで実際につまずいた点
わたしの環境はNode.js v24.16.0でした。当時のTsugiteはNode.js 22系のみに対応していて、`setup:check`が通りませんでした。この点は今のバージョンでは解消済みです。
それ以外にも、Windows特有の見慣れないエラーで作業が止まる場面が何度かありました。新しめのNode.jsを使っていると、コマンドの呼び出し方やファイルパスの扱い方が原因で、環境チェックの途中で止まることがあったのです。原因を1つずつ切り分けながら進めましたが、当時のバージョンでは、環境側の条件が整うまで先に進めない状態がしばらく続きました。
これらはTsugite側の対応で、今のバージョンではすべて解消済みです。今から始める読者が、同じ場所で止まる心配はありません。
◆ 実務的な学び:診断の順序
`doctor`はGit・FFmpeg・ffprobe・Node.jsを個別に判定します。先に`setup:check`(読み取り専用)を回すことで、何も導入しないまま「何が足りないか」だけ分かります。いきなり導入から始めないのがコツです。
30秒の告知動画をAIエージェントと16回作り直した実録|約4時間54分の記録
「AIエージェントに動画を作らせる」とは、実際にはどんな体験なのか。ここからは、何が起きたかを包み隠さず書きます。
「AIエージェントに指示すれば動画が一発でできる」というイメージを持っている方は、拍子抜けするかもしれません。実際には、思った通りの1本になるまで、何度も指示を出し直しました。その過程そのものが、AIエージェントと一緒に作るということの実態だと思っています。
なぜ16回もかかったのか、と思われるかもしれません。理由は単純で、最初から完成形が頭の中にあったわけではなかったからです。渡された告知ポスター1枚を見て、「30秒でどう見せれば伝わるか」を、AIエージェントとのやり取りを通じて少しずつ探っていきました。効率よく1発で決めるための作業というよりも、試しながら正解に近づいていく作業だったと振り返っています。
まずは全体の実測から。
◆ 制作したのは何本?
v1からv16まで、全16版
◆ 実際に書き出したMP4は?
15本(v6だけはGate2で差し戻しになり、書き出しに至らなかった)
◆ かかった時間は?
最初の書き出し完了から最終版の書き出し完了まで、約4時間54分
◆ 完成した動画の仕様は?
1920×1080のフルHD、30fps(用語:1秒間に30コマの動きを描く速さ)、30.06秒、H.264(用語:動画を圧縮する規格の1つ)のMP4、ステレオ音声つき
◆ 追加でかかったお金は?
0円。有料の動画生成サービスは使っていない

素材は、主催者から渡された告知ポスター1枚と、自分で生成した実写風画像8枚、自作のBGM1本だけでした。撮影も、素材集めのための外部発注もありません。手元にあったのはポスター1枚だけで、動画に使う画像とBGMは、すべてAIエージェントとのやり取りの中で作っていきました。
⚠️ 注意:この記事に載せているポスターと完成動画は、実際の案件のものではなく、記事用に作り直した架空のサンプルです。実在するイベントではありません。当時わたしが実際に渡されたのは、告知ポスター1枚だけでした。
実物のポスターと完成動画を載せないのは、依頼元の情報をそのまま公開しないためです。代わりに、同じ作り方で架空の講座の告知を作り直しました。構成・尺・演出は実物と同じです。

v1〜v16 全16版の変更点一覧|往復の記録表
ここからが、この記事でいちばん伝えたい部分です。16版すべての「指示のことば」「やったこと」「学び」を、省略せずに載せます。多くの版が、前の版に対する「ここを直して」という一言から始まっている点にも注目してください。最初から完璧な設計図を用意する必要はなく、出てきたものを見て、気になったところをその都度言葉にしていく。それだけで、ここまでの往復が成立しています。
◆ v1
指示:「添付画像のプロモーション 30秒」
やったこと:AIエージェントは、まず縦型9:16のアスペクト比(用語:画面の横と縦の比率)、無音、5カット構成という土台を作ってレビュー用に生成しました。指示の言葉数は少なかったのですが、尺と画面比率、大まかなカット割りは自分で判断して形にしてきました。
学び:最初から完璧な指示を用意する必要はありません。「まず形にしてもらい、そこから直す」という進め方が、最初の1版としては正解でした。細部の作り込みは、あとからいくらでも修正できます。
◆ v2
指示:「アスペクト比が9:16の横長/BGMあり ラップ調/画像は切れないように」
やったこと:「9:16の横長」という指示は、実は矛盾しています。9:16は縦長の比率で、横長にすると16:9になるからです。ここでAIエージェントに「16:9(横長)として解釈してよいか」を確認したところ、その理解で進めることになりました。あわせて、92BPM(用語:1分間の拍数。曲のテンポを表す単位)のラップ調インストをオリジナルで生成し、画像が切れないように表示方法を「全体表示」に変更しました。
学び:曖昧な指示、特に矛盾を含む指示は、作り始める前に確認するのが正解でした。もし確認せずに「9:16の横長」をそのまま押し通していたら、どちらか片方を選んで作り直すことになり、余計な1版を消費していたはずです。指示する側も、自分の言葉が矛盾していないか、出す前に一度読み返す価値があります。
◆ v3
指示:(v2の出力を目視したら、画面が1080×608になっていた)
やったこと:Gateの機械チェック(Gate2のQCレポート)自体は、v2の時点で「問題なし」と表示されていました。ところが実際に自分の目で再生してみると、指定したはずの1920×1080ではなく、1080×608という中途半端なサイズで書き出されており、レイアウトの端が切れていたのです。v2は不採用にし、1920×1080を明示的に指定し直して、v3として作り直しました。
学び:ここが今回の制作でいちばん印象に残った出来事です。機械のQAは「解像度の項目が存在するか」「尺が極端におかしくないか」といった数値上のチェックはしてくれますが、「見た目として破綻していないか」までは判断してくれません。数値が仕様の範囲に収まっていても、意図した通りの画面になっているとは限りません。人の目で最終確認する工程を省略してはいけない、と痛感した瞬間でした。

◆ v4
指示:「左の画像を1.5倍」「この動画もAIエージェントで作成/みんな、こんな動画も簡単!を挿入」
やったこと:指定された画像のサイズを実際に1.5倍に拡大し、あわせて「この動画もAIエージェントで作成」「みんな、こんな動画も簡単!」というキャッチコピー2行をテロップとして追加しました。
学び:「1.5倍」のようなおおざっぱな倍率の指示でも、AIエージェントは元のサイズを踏まえて正確に計算し直してくれます。細かい数値をこちらで計算して伝える必要はありませんでした。なお、このときテロップに入れた「簡単!」という言葉ですが、実際にはこのあと12回も作り直しています。「簡単!」とうたっている動画ほど作り直しが多い、という皮肉に自分でも苦笑いしました。
◆ v5
指示:「文字を大きく、目立つように、背景にハイライト」
やったこと:見出しの文字サイズを拡大し、背景にシアンから紫へのグラデーションと白い枠、発光するような効果を加えました。「目立たせる」という抽象的な要望を、色・大きさ・縁取りという複数の要素に自分で分解して反映してきました。
学び:「目立たせる」だけでは、どこをどう変えるかは1通りに決まりません。出てきた結果を見て、狙いとズレていれば次の版で言い直せばいい、という前提で気軽に指示を出せるのが、この作り方の利点だと思いました。
◆ v6
指示:「下のCTA(用語:申し込みボタンなど、見た人に行動してもらうための呼びかけ)が隠れ気味/再配置」
やったこと:スマートフォンで動画を再生すると、画面の下のほうに再生バーや操作アイコンが表示されます。今回のCTAは、その操作バーとちょうど重なる位置にあり、隠れて見えなくなっていました。AIエージェントは、画面の下端から一定の高さを空けた位置に、独立したCTA帯を新しく配置し直しました。
学び:この「操作バーに隠れない範囲」は、SNS動画の実務では「セーフエリア」と呼ばれる考え方です。作業画面上ではきれいに見えていても、実際に再生アプリで表示したときに何かに隠れていないかという視点は、人が意識して確認しない限り、AIエージェント任せでは気づけません。なお、CTAの位置そのものはこの修正で解決しましたが、v6はこのあとのGate2で、別の理由により差し戻しになります(詳しくは次のv7)。
ECの商品ページに動画を載せる場合も、モールごとに操作アイコンの位置は微妙に違います。価格やボタンを画面の端に置く前に、実際にスマホの画面で確認する習慣が欠かせません。
◆ v7
指示:「単調なので、もっとインパクトがあるように、ワクワク感が満載な感じ」
やったこと:v6はGate2の目視チェックで「単調」という理由により、書き出す前の段階で差し戻しになりました。書き出す前だったので、フルHD・900フレームぶんのレンダリング時間を無駄にせずに済んでいます。この指示を受けて、AIエージェントはビートに合わせて光がフラッシュする演出、斜めに走るライトの効果、放射状に広がるバースト、シーンごとに色が変わる演出などを、一気に追加してきました。
学び:Gate2は「書き出す前に立ち止まれる」段階です。もし書き出したあとに「単調だからやり直し」と気づいていたら、十数分の書き出し時間をまるごと捨てることになっていました。書き出す前に人の目で確認する仕組みが、そのまま時間の節約になった実例です。

◆ v8
指示:「文字を動かして、もっと動きのある動画に」
やったこと:見出しの文字を1文字ずつポップさせる演出、回転・バウンドの演出、キッカー(見出しの上に添える短い言葉)と補足文を逆方向にスライドさせる演出を追加しました。
学び:「動きのある」という言葉だけで、複数の演出を組み合わせて提案してきた点は意外でした。気に入らない演出だけを個別に指摘すれば、次の版で部分的に直せます。
◆ v9
指示:「もっとサイバーパンク風で目立つように」
やったこと:ネオンのシアンとマゼンタ、グリッド模様、走査線、ビートに同期したノイズ演出など、演出のテイスト(用語:色味や雰囲気)を大きく作り変えました。
学び:抽象的な言葉からも具体的な演出を提案してきましたが、結果としてこの路線は採用しませんでした。書き出す前に気軽に試して「違う」と分かることにも意味があります。
◆ v10
指示:「v8で文字の大きさを1.5倍くらいに」
やったこと:v9のサイバーパンク風の演出をこの指示で丸ごと取り下げ、v8の路線に戻し、見出し・日時・CTAの文字サイズを指定どおり拡大しました。
学び:「v8に戻して」という一言だけで、v9の演出が取り下げられ、v8の状態から作業が再開されました。版が記録として残っているからこそ、「戻す」判断が1回の指示で完結します。
◆ v11
指示:「左の画像が1種類なので変化がない。画像を作成して変化を付ける」→さらに「画像は実写タイプに変更」
やったこと:まず新しい画像を生成してもらい、次に「実写風のタイプに変えてほしい」という追加の指示で、テイストを実写風に差し替えました。3Dイラスト風の画像は削除せず残しておいてもらいました。
学び:不要になった素材をすぐに消さず、残したまま新しい案を試せるのも、ローカルにファイルが残る制作方式の利点です。上書きで前の案が消える心配がありませんでした。
◆ v12
指示:「画像は全画面表示に変更、文字をオーバーレイする」
やったこと:それまでの左右分割のレイアウトをやめ、実写風の画像を画面いっぱいに表示するよう変更しました。告知ポスターの画像は全体を表示したうえで背景をぼかし、文字は半透明の濃紺のパネルの上に重ねる形に整理しました。
学び:レイアウトの骨格そのものを変える指示にも対応してきます。細かい微調整だけでなく、構成の作り直しレベルの指示も、同じやり取りの中でできるのだと分かりました。
◆ v13
指示:「ポスター画像に文字をオーバーレイしない。はっきり表示」
やったこと:v12まではポスター画像の上にも文字パネルを重ねていましたが、この指示を受けて、ポスターが表示されている間は、追加のテキスト・パネル・CTA・進行バーをすべて消し、トリミングもせずに画像をそのまま最大表示する形に変更しました。
学び:告知ポスターのように、すでに文字や情報がびっしり載っている画像の上に、さらに動画側の文字を重ねると、どちらも読みづらくなります。「情報が載っている画像には、文字を重ねない」というのは、今回の制作を通じていちばん納得した鉄則でした。EC担当者が商品画像やスペック表の画像を動画に使うときにも、そのまま応用できる考え方だと思います。
◆ v14
指示:「中間の画像の種類を2種類から4種類に変更」→「最初の2枚は破棄でさらに2種類作成」
やったこと:実写風の画像を新たに4枚生成し、テイストを統一しました。最初に作った2枚は指示どおり破棄し、代わりの2枚を作り直しました。
学び:「破棄」という指示も迷いなく実行されます。中途半端に前の案を混ぜたりせず、指定された範囲だけを作り直してくるので、意図しない変化が紛れ込みにくいと感じました。指示した範囲の外側は変わらない、という安心感があったので、細かい部分だけを何度も直す作業がやりやすかったです。
◆ v15
指示:「今の感じの画像を後4枚追加」
やったこと:画像を合計8枚に増やし、音楽のリズムに合わせて各カットが切り替わるよう調整しました。
学び:「今の感じ」という指示だけで、直前までのテイストを保ったまま枚数を増やしてくれました。テイストを毎回言葉で説明し直す必要がなかったのは助かりました。
◆ v16
指示:「後半でメイン画像がずっと出ている。切り替えのタイミングを変更」+「キャッチコピーも使用する」
やったこと:それまでは、実写画像8枚が動画の終盤近くまで表示され続けていました。この指示を受けて、動画全体を「0〜1.8秒の冒頭フック」「1.8〜25秒に実写画像8枚を約2.9秒ずつ切り替え」「25〜30秒にポスターを表示」という3つの区間に整理し直しました。あわせて、それまで使っていなかったキャッチコピーを、19.2〜25秒あたりの実写場面に重ねて表示しました。
学び:ここまで来ると、演出のアイデアを足す作業はほぼ終わっていて、残っていたのは「どこで何秒、何を見せるか」という時間配分の調整でした。内容が固まったあとの最後の仕上げは、派手な演出よりも、こうした秒数レベルの微調整であることが多いのだと分かりました。
16回の往復を経て、こうなりました。振り返ってみると、前半の8版くらいまでは「何を、どんな見た目にするか」という構成そのものを模索していた時間でした。後半の8版は、決まった方向性を細部まで詰めていく時間でした。この体感は、次に挙げる5つの学びにもつながっています。
作業を始めたのは18時すぎでした。最初の数版は手早く進められると思っていたのですが、気づけば夜の22時を回っていました。ただし、その間ずっと画面に張り付いていたわけではありません。AIエージェントが生成や書き出しを行っている間は、他の作業をしたり、少し休憩を挟んだりできます。
人が判断する瞬間と、AIエージェントが手を動かす瞬間は、はっきり分かれています。だからこそ、拘束される時間の感覚は、外注のやり取りとも、自分でゼロから編集する作業とも違うものでした。
この実録から見えた5つの学び
1. 機械QAと目視QAは別物:v2は機械のチェックを通過したのに、人が見たら1080×608でレイアウトが切れていました。EC担当者が商品動画を作るときも、モールの規定サイズに収まっているかという機械的なチェックと、実際にスマホで再生して文字が読めるかという目視チェックの両方が欠かせません。
2. Gate2(書き出し前)で止められると安い:v6は「単調」という理由で、書き出す前に差し戻しました。フルHD・900フレームの書き出しは毎回十数分かかるので、この「時間もお金もかかる工程の直前に人が確認する」設計がそのまま時間の節約になり、外注の発注前チェックや印刷物の校了前チェックにも同じ発想が使えます。
3. 曖昧な指示は作る前に確認する:「9:16の横長」は矛盾した指示でしたが、作る前に「どちらの意味か」を確認してもらえたことで、無駄な1版を消費せずに済みました。これは外部の制作会社に発注するときの発注書にも通じる話で、曖昧な指示は相手が人間でもAIでも、作り始める前に解消しておくほうが結局は速いのです。
4. 「戻す」が安い:v9のサイバーパンク路線から、v10でv8に戻す判断が1手でできました。過去の版がすべて記録として残っているからこそ「あの時の状態に戻して」という指示だけで済み、行き詰まってもためらわず前の版からやり直せる気軽さは、外注のやり取りにはない感覚でした。
5. 人の指示は感覚語でよい:「単調」「ワクワク感が満載」「もっと動きのある」という言葉だけで通じ、専門用語を覚える必要はありませんでした。感じたことをそのまま言葉にすればAIエージェントが技術的な処理に変換してくれるので、「専門知識がないから動画制作に踏み出せない」という人にとって、壁が1つ低くなります。
この5つの学びに共通しているのは、「人が判断する部分」と「AIエージェントが手を動かす部分」を、はっきり分けて考えられるようになったことです。何を作るか・どこで止めるか・戻すかどうかは人が決め、実際に画像や文字を動かす作業はAIエージェントに任せます。この役割分担が身についてくると、16回という回数も、単なる手間ではなく、狙った形に近づけていくための当然の工程に感じられてきます。
⚠️ 注意:今回の「追加費用0円」は、動画生成サービスへ追加で払った金額のことです。有料の動画生成サービスは使わず、BGMも画像も手元で作り、書き出しもローカルで完結させたので、そこには課金が発生していません。一方で、指示を出すために使ったCodex CLIやClaude Codeそのものには、利用しているプランの料金や、使った分だけかかる料金が別にあります。すでに仕事で使っている道具ならその範囲に収まりますが、この記事のために新しく契約するなら、そこは別途かかります。Node.jsやFFmpegの準備、そして指示を出す人の時間(今回は約4時間54分・16回の指示と承認)も、別にかかっています。「まったくお金がかからない」という意味ではなく、外注費と単純に引き算できる金額でもありません(体感値・目安として)。
「16回・約5時間」と聞くと、大変そうに感じるかもしれません。実際、初めて使うツールを覚えながらの作業なので、手間はかかりました。それでも、外注の見積もり待ちや修正の往復に比べれば、その場で試し、その場で戻せる。この速さは、初めて使う人にも価値があると感じています。
型ができた後の2本目は、1版・約11分だった
この記事に載せる架空のポスターと動画を作り直したとき、もう1つ実測が取れました。差し替えたのは、告知ポスターの画像と、イベント名・日時などのテキストだけです。実写画像8枚とBGM、30秒の構成、動きの設計はそのまま流用しました。
結果は、作り直しゼロの1版だけ。案件を作ってからGate3の承認まで、約11分でした。そのうち書き出し(レンダリング)だけで約7分26秒。Gate2・Gate3のチェックはどちらも問題0件、黒画面0秒、無音区間0秒でした。追加クレジットは、ここでも0円です。
つまり、初回の16版・約4時間54分は、動画の「作り直し」に使った時間ではありません。構成そのものを探していた時間だったのです。構成と素材の型が決まっていれば、差し替えだけで1版・約11分で書き出せました。
ただし、これは実写画像とBGMを流用できた場合の数字です。「2本目はいつも11分」と一般化はできませんし、「16回が11分になった」と単純比較もできません。作っているものの性質が違うからです。それでも、型を1つ持っておく価値は、この数字からも伝わると思います。
EC担当者に置き換えると、季節ごとのセール告知や、定番商品の紹介動画のように「同じ構成を繰り返し使う」用途なら、最初の1本にかける時間はかかっても構いません。2本目以降は、今回の実測に近い感覚で回せる可能性があります。
ネットショップならこう使える|商品動画・サイズ解説・モール規約対応への応用
今回の30秒告知動画と同じ組み立て方で、商品説明動画やサイズ解説動画にも応用できると考えられます。ただし、ここから先はまだ試していない提案であり、実績ではありません。
8枚の実写画像を約2.9秒ずつ切り替え、テロップを重ね、BGMを乗せます。この骨格は告知動画に限った作りではなく、「何枚かの画像を順番にテロップつきで見せる」という組み立て方として、商品ジャンルを問わず応用できそうです。

◆ 商品詳細の説明動画
商品写真数枚に、スペックのテロップとBGMを組み合わせる使い方です。今回の「実写画像8枚を約2.9秒ずつ切り替える」構成がそのまま応用できそうです。たとえば焼き菓子店なら、全体写真・断面写真・原材料表示・パッケージのカットを数秒おきに切り替え、価格や内容量のテロップを重ねます。あとは商品ごとに写真を差し替えるだけです(差し替えたあとも、Gate2・Gate3の確認は毎回必要です)。
◆ サイズ・使い方の解説動画
静止画に、順序立てたテロップを重ねる使い方です。今回の告知動画が完全無音にBGMだけを乗せる構成で成立したように、ナレーションは不要です。たとえば掃除家電なら、「電源を入れる」「パーツを取り付ける」「ダストボックスを外す」という手順を、写真1枚ごとに番号付きテロップで並べるだけで、文字だけの説明書より伝わりやすくなりそうです。
◆ モール規約に合わせた版違いの量産
同じ設計図から、縦横比や尺の違うバージョンを作る使い方です。「価格やセール訴求のテロップを入れてはいけない」といったモール独自のルールがある場合、そのテロップが混ざっていないかをGateで確認する運用にできそうです。たとえば同じ雑貨の商品動画から、商品ページ用は価格入り、SNS投稿用は価格なし、というように役割ごとに作り分けられます。
◆ セール告知の使い回し
日付とテロップだけを差し替えて、同じ構成で再び書き出す使い方です。書籍やコスメのフェア告知のように、開催期間と対象商品だけ差し替えれば作り直せそうです(差し替えごとにGate2・Gate3の確認をやり直します)。今回の「2本目」の実測が、この用途のイメージに近いかもしれません。
4つのアイデアはどれも、「今回の実録で実際にやったこと」の延長線上にあります。切り替えのタイミングを整える(v16)、文字を画像に重ねない(v13)、セーフエリアを空ける(v6)。これらは告知動画に限った工夫ではなく、商品を撮った画像を使うときにも、そのまま当てはまる考え方です。
⚠️ 注意:セール告知や商品紹介のテロップに「業界No.1」「最安値」「今だけ半額」といった表現を入れる場合は要注意です。客観的な根拠がない状態でこうした言葉を使うと、景品表示法違反(優良誤認表示・有利誤認表示)になるおそれがあります。セール価格を大きく見せるために「通常価格」を実際より高く設定する二重価格表示も、同法の規制対象です。AIエージェントに指示を出す場合も、こうした表現がテロップ案に混ざっていないか、人がGateで必ず確認する運用をおすすめします。
これら4つに加えて、お客様の声を紹介する動画という応用も考えられます。たとえばペット用品店が、お客様から届いた愛用シーンの写真とコメントを動画にまとめる、といった使い方です。
ただしこの用途には気をつける点があります。自社の公式ショップページやSNSアカウントから「当店の紹介です」と分かる形で出す分には問題ありません。注意が必要なのは、第三者に依頼して広告だと分からない形で発信してもらうケースです。これは2023年10月施行のステマ規制(用語:広告だと分からせずに宣伝する行為を規制するルール)の対象になりえます。引用するレビューは、投稿者本人の掲載許諾を得てから使ってください。
Remotionのライセンスに注意(実務ではここが最初の関門)
⚠️ 重要:ここは、この記事でいちばん見落としてほしくないところです。Tsugite本体が無料でも、動画を書き出す部分は別料金になる場合があります。
まず、2つのソフトが別物だという整理からです。
◆ Tsugite本体(MITライセンス)
GitHubで公開されているオープンソースで、MITライセンスです。EC事業者が業務で使っても、利用料はかかりません。
◆ Remotion(別のライセンス)
Tsugiteが動画の書き出しに使っているフレームワーク(用語:動画を組み立てるための土台となるソフト)です。こちらはMITではありません。使う組織の規模によって、有料になります。
つまり「Tsugiteはオープンソースだからすべてタダでできる」という理解は、正確ではありません。
Remotionを無料で使えるのは、次の4つのどれかに当てはまる場合だけです。
個人
従業員3名以下の営利組織
非営利団体
評価目的(まず試してみる段階)
⚠️ 注意:この「従業員」には、パートタイムの方も業務委託の方も含まれます。正社員だけを数えて3名以下、という判断はできません。
従業員4名以上の営利企業が業務で使う場合は、有料のライセンスが必要です。ネットショップを運営している会社の多くは、この4名以上に当てはまるはずです。
有料プランは、2026年8月時点で3種類が公開されています。
◆ Remotion for Creators
1席あたり月25ドル。人が手を動かして動画を作る使い方に向いた区分です。
◆ Remotion for Automators
書き出し1回あたり0.01ドル、最低でも月100ドル。プログラムから自動でたくさん書き出す使い方に向いた区分です。
◆ Enterprise
最低でも月500ドル。大規模な利用に向いた区分です。
⚠️ 必ず確認してください:ライセンスの条件と金額は、提供元の判断で変わります。ここに書いた内容は、2026年8月時点で公式のライセンスページ(remotion.dev/license)と購入ページ(remotion.pro/license)で確認できたものです。自社が無料の範囲に入るのか、有料が必要なのか。それは導入を決める前に、必ず公式のライセンス条件そのものを読んで判断してください。迷う場合は、社内の法務担当や顧問の専門家に確認することをおすすめします。
なお、この記事で書いた「追加の生成クレジット0」という実測は、動画生成サービスへの従量課金が発生しなかったという意味です。Remotionのライセンス費用とは別の話です。ここを混同すると、費用の見積もりを誤ります。
書き出しの土台を差し替えて確かめた|HyperFramesという選択肢
⚠️ 重要:前の節を読んで「うちは従業員4名以上だから無理か」と思った方へ。Tsugiteは、動画を書き出す土台(backend)を差し替えられる設計になっています。実際に差し替えて、同じ30秒の合成を作り直してみました。
Tsugiteのリポジトリには、書き出しの土台として2つが用意されています。
◆ Remotion
今回16版すべてで使ったほうです。前の節に書いたとおり、従業員4名以上の営利企業は有料ライセンスの検討が必要です。
◆ HyperFrames
もう1つの選択肢です。ライセンスはApache 2.0(用語:著作権表示とライセンス条項を残すなどの条件を守れば、商用利用も改変も認められるゆるやかなライセンス)。公式リポジトリには「レンダーごとの課金や、商用利用のしきい値はない」と明記されています(2026年8月時点で確認)。従業員4名以上の営利企業でも、ライセンス費用の心配なく使える点が、Remotionとの一番の違いです。
HyperFrames自体は、HTMLとCSSとJavaScriptで書いた画面を、そのまま動画にする道具です。GSAPやLottie、Three.jsといった、Webの画面に動きを付けるための部品(アニメーションのライブラリ)を組み合わせられます。公式は「Write HTML. Render video. Built for agents.」と掲げていて、AIコーディングエージェントに書かせることを最初から想定している点が特徴です。今回のように、人が言葉で指示してAIエージェントが画面を作る、という進め方とは相性の良い作りになっています。
◆ 何をしたか
Remotionで作った30秒の合成を、そのままHyperFramesへ移植して、同じ素材・同じBGM・同じ構成で書き出し直しました。
◆ 移植は機械的に済んだ
移植前の自動チェックを行ったところ、移植できない書き方は見つかりませんでした(0件)。この合成はReact(用語:画面の動きを組み立てるための代表的なプログラム部品)の状態管理という仕組みを使っていなかったため、そのまま置き換えられました。
◆ 書き出し時間(同じパソコン・同じ素材)
どちらも、書き出しのコマンドを実行してから完成ファイルができるまでの時間です。ただしTsugite側には、書き出したあとに自動で走る検査(QCレポートの生成)の時間も含まれています。まったく同じ条件をそろえた比較ではないことは、正直に書いておきます。それでも、Remotion経由では約7分26秒、HyperFramesでは1分15.2秒でした。体感できるほどの差です。
◆ 尺
Remotionは30.058667秒(本文の冒頭で「30.06秒」と書いたのと同じ値で、ここでは小数点以下も表示しています)。HyperFramesはきっかり30.000000秒でした。
◆ 見た目がどれくらい一致したか
900フレームすべてを機械で突き合わせました。SSIM(用語:2つの画像がどれくらい似ているかを0〜1の数値で表す指標。1に近いほど同じで、0に近いほど違う)の平均は0.9325。この複雑さの合成での合格ラインは0.90なので、通過しました。
◆ ここでも1回つまずきました
最初の書き出しは、SSIM平均0.868で不合格でした。1秒ごとに数字を並べてみると、ポスターが映る場面(0〜1秒と25〜30秒)だけが0.65まで落ちていることが分かりました。
原因は、ポスターの拡大率に、縦型(9:16)用の設定をそのまま持ち込んでいたことでした。横型では等倍が正しかったのです。目視ではまったく気づけませんでした。直したあとは、ポスターの位置と大きさが1px以内で一致しました。
この記事の前半では、「機械の検査は通ったのに、人の目で見たら1080×608でレイアウトが壊れていた」というv2→v3の話を書きました。今回はその逆です。人の目では気づけなかったズレを、機械の数値が見つけました。機械のチェックと人の目のチェック、どちらか片方だけでは足りません。両方があって、はじめて「壊れていないこと」と「意図した通りであること」の両方を確認できるのだと、今回もあらためて実感しました。
◆ 落とした表現もあります
回転する放射状の背景と、浮かぶ光の粒は、移植先で再現していません。毎フレーム時計を見て動かす作りが、HyperFramesの「どこへ飛ばしても同じ絵が出る」という決まりに合わなかったためです。見た目の一致度への影響は小さいものでした。
◆ Remotionを貶める話ではありません
どちらが優れているという話ではなく、ライセンスの条件と、自社の規模と、必要な速さで選ぶものだと考えています。書き出し速度とライセンス費用を重視するならHyperFrames、Tsugiteの標準的な経路をそのまま使いたいならRemotion、という選び方になりそうです。
⚠️ 注意:Apache 2.0も「何をしてもよい」ライセンスではありません。著作権表示やライセンス条項を残すなどの条件があります。導入前には、必ず公式のライセンス条項そのものを読んでください。
モール規約の確認は必須
動画の容量・解像度・尺の上限は、各モールの管理画面の仕様として随時更新されます。実際に登録する前に、運営中の店舗の管理画面で最新のルールを必ず確認してください(本記事の記述は2026年8月時点で確認できた範囲です)。
Yahoo!ショッピングには2023年秋から「商品紹介動画」機能があり、縦型(9:16)表示に対応しているとされています(2026年8月時点で確認できた範囲・要最新確認)。楽天市場・Amazonにも、それぞれ動画を登録できる機能があります。ただし容量や解像度の細かいルールは、出店者向けの管理画面(RMS・セラーセントラル・ストアクリエイターProなど)で随時更新されるため、本記事では具体的な数値の断定を避けます。
こうしたルールは、モール側の方針転換やシステム更新のたびに変わりえます。今日確認したルールが、半年後も同じとは限りません。Tsugiteで版違いを量産する運用を組むときは、「最新ルールを確認する」というステップ自体を、Gateで人が確認する項目の1つに組み込んでおくと安心です。
AI生成物の著作権にも留意する
実写を撮影しなくても動画が作れるのは、Tsugiteの大きな利点の1つです。ただしその分、商品説明動画にAIで作った画像や音楽を使う場合、著作権の考え方も知っておく必要があります。
文化庁は2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を公表し、既存の著作物と類似性・依拠性(用語:既存作品とどれだけ似ているか、それに基づいて作ったと言えるかという著作権判断の2つの基準)が認められれば、AI生成物でも著作権侵害になりうるという考え方を示しています(法的拘束力のある通達ではありません)。AI生成物を商用利用する際は、既存の作品に似すぎていないか自分の目で確認し、判断に迷う場合は専門家に確認することをおすすめします。
今回のBGMは、既存の曲を使わず、AIに指示してオリジナルのインスト曲を作りました。これなら、既存曲を無断で使ってしまうリスクを避けられます。フリー素材のBGMを使う場合は、商用利用可か、モール上での公開が規約上OKかを、各素材サイトの利用規約で確認してください。
同じことは、実写風の人物画像にも言えます。AIで生成した人物が、意図せず実在の誰かに似てしまうと、肖像権(用語:本人の許可なく容姿を無断で使われない権利)やパブリシティ権(用語:氏名・肖像が持つ顧客吸引力を独占的に利用する権利)の問題になる可能性があります。この分野はまだ判例や統一されたルールが少ない領域です。実在の人物をイメージして生成しないこと、そして公開前に「誰かに似すぎていないか」を人の目で確認することを、習慣にしておくと安心です。
向いていない場面
書き出し時間・Node.js/FFmpegの導入・書き出しの土台のライセンス確認という3つの壁は、前半の「Tsugiteが向かない場面」で説明した内容とそのまま重なります。量産用途や急ぎの案件に不向きなのは、応用の場面でも変わりません
「16版・約4時間54分」は初回だからかかった時間:構成そのものを探していた時間です。構成と素材の型が決まったあとの2本目は約11分でしたが、これは実写画像とBGMを流用できた場合の数字であり、毎回この速さになるとは限りません
明日、最初の1歩を踏み出すために
外注するか、諦めるか。その間に、もう1つの道があります。今日からできる最小手順を、順番にまとめました。
◆ ステップ1:空フォルダを1つ作る
デスクトップでもどこでも構いません。今回のプロジェクト専用の、空のフォルダを1つ用意します。
◆ ステップ2:Codex CLIかClaude Codeを開き、依頼文を貼る
本記事の「導入手順」の章で紹介した依頼文を、そのまま貼り付けます。「読み取り専用で確認してから」「不足ソフトの導入前には承認を待って」という指示を、必ず含めてください。
◆ ステップ3:`setup:check`の結果を確認する
何もインストールされない状態で、今の自分のパソコンに何が足りないかだけが分かります。ここで初めて、次に何を準備すればいいかが見えてきます。
◆ ステップ4:`setup`→`doctor`→`validate`→`plan`まで進める
足りないものが分かったら、案内に沿って導入を進めます。ここまではすべて、課金が発生しない範囲です。
◆ ステップ4.5:書き出しの土台のライセンスを確認する
自社がRemotionの無料条件(個人・従業員3名以下・非営利・評価目的)に当てはまるかを確認します。当てはまらない場合は、有料ライセンスを検討するか、Apache 2.0のHyperFramesを土台に選ぶかの分かれ道になります。実際に試したところ、HyperFramesでも同じ構成の動画を書き出せました。ここは動画を作り始める前に決めておくと、あとで作り直さずに済みます。
◆ ステップ5:手元にある写真1枚から、まず1本作ってみる
凝った素材を用意する必要はありません。今回のわたしも、渡されたポスター1枚から始めました。
今回の実録でお伝えしたかったのは、「16回・約4時間54分」という数字そのものではありません。その過程で人が何を判断していたか、という中身です(費用と時間の内訳は、記事の前半で書いたとおりです)。
16回作り直した記録を読んで、「大変そうだ」と思った方もいるはずです。実際、初めてのツールを覚えながらの作業だったので、簡単ではありませんでした。それでも、型さえできてしまえば、2本目は約11分で書き出せたことも、あわせてお伝えしておきます。
動画を作るかどうかで迷っている時間があるなら、その時間で `setup:check` まで進めてしまうほうが早いかもしれません。何もインストールされず、お金もかからない範囲で、自分の環境に何が必要かだけが分かります。そこから先に進むかどうかは、それを見てから決めても遅くありません。まずは1枚の画像から、試してみてください。
✨ 最後まで読んでいただき、ありがとうございました ✨
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