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不良、マインドフルネスを試みる。


吐きたい唾を、グッと飲み込んでみる。


右の頬は、殴り返したいと言ってる。
根性焼きよりジンジンしてくるのが腹立つ。

「はい、冷やしてね」

保健室の先生が、冷めた目で保冷剤を渡してくれた。喧嘩した生徒を手当する先生ってなんだよ。

さっき俺を殴ったのは3年の奴らだ。
上級生に逆らったら、いつもこうなる。
そもそもお前らの親が、交尾したのが俺の親より早いだけで偉そうに。仕返しで頭がいっぱいで、貧乏ゆすりをしてる俺の膝に先生が軽々しく、手を置いた。

「あなた、ちゃんと呼吸してる?」

一瞬、痛みが引いた。
は?呼吸なんて生きてるんだからしてるだろ。

「家に帰ったら、マインドフルネスって調べてみなさい。保冷剤よりも効くわよ。」

なんだそれ、スピリチュアルってやつ?
なら俺じゃなくて、3年のアホ共に言えよ。



その日の夜、「マインドフルネス」を検索してみた。
よく分らんが、呼吸に意識をして、今起きていることに集中するらしい。それはいつもやってる。タバコ吸ってる時は、考え事してる。タバコ吸いながらカフェオレだって味わってる。

それと何が違うんだ?
タバコを吸わずにスッキリできんのか?

まぁ、寝る前に気まぐれでやってみるか。
目を閉じて、しっかり呼吸をしてみる。きつい。
タバコ、辞めよかな。

(まず俺は明日、仕返しがしたい。
でも、今日よりも殴られるだろうな。
無視するか?いや、ビビってると思われる。
それも嫌。でも正直言うと、痛いんだよな。
やり返したいけど、あまり関わりたくないんだよな。やっぱ、無視すんのが一番かもな。)

…。ベッドの上で何やってんだ俺。
なんか、いつもより寝れた気がする。



次の日の昼、また囲まれた。昨日の3年の奴ら。俺のためにわざわざありがとな。

「お前、昨日で終わったと思うなよ。3年に歯向かったんだから、俺らが卒業するまで覚悟しろよ。」


卒業って…。まだ7月だぞ。
俺もそうだけど、こいつら卒業できんのかよ。
さすがに長すぎる。正直、無理だ。辞めよう。
握りこぶしを楽にしてやった。

ここで、一呼吸。
これは昨日のマインドなんちゃらじゃねぇ。

覚悟だ。

「文句あるなら、ボコボコにしろ。俺は手を出さない。それで気が済めばもう終わりにしてくれ。」

一瞬、空気が止まったけど、
誰かが走り出すまでは早かった。

すぐに顔に一発貰って、すぐにみぞおちで食らってうずくまった。今度は上から足が来て、馬乗りにされて、唾だってかけられた。
あれ、今どこが痛いんだっけ。もうわからない。けど、呼吸だけはちゃんとしておこう。
殴られてる最中はずっと息しよう。血の味がするけど、嚙み締めなきゃいけない。

じゃないと、俺は殴ってしまう。



気が済んだのか、あいつらは去って行った。
俺は今、弱くてダサい奴だ。けど、俺にとって必要なのは「やり返す」ことじゃない。我慢だ。
一晩でも、自分と向き合って、ちょっと素直になれた。ほんとはちょっと「寂しかった」だけかも知れない。昨日とか、ちょっと先生に手を置かれて嬉しかったし。とにかく、また手当をしてもらわないとな。話したいこともあるし。

もう動けないけど、保健室に向かった。



保健室に入る手前で、部屋の中から先生の怒鳴り声が聞こえた。「どうした」と思って聞き耳を立てた。


「ねぇ!あんたなんで電話でないの!浮気してんでしょ!」

今日は、傷が酷いけど我慢しよ。
マインドなんちゃらだよ先生。

てか、彼氏いるのかよ。


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