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金曜朝の駅の改札で理由もなく立ち止まってしまったそこに何があったのかまだ分からな

金曜朝の駅の改札で、理由もなく止まってしまった。

いや、理由がないわけじゃない。何か引っかかったんだろう。でも、その「何か」が何なのか、脳が理解してくれない。改札機の液晶画面の前で、定期券をかざすことも忘れて、ただ立ち止まっていた。

後ろから人が来ているのが分かる。肩を少しずつ詰めて、通り過ぎるのを待った。社員証をかざすOLが2人、スーツの営業らしき男が1人。誰もが迷いなく改札を通過していく。

「大丈夫ですか?」

駅員じゃなくて、一般のおばさんだった。多分、改札が引っかかったんだと思ったんだろう。

「あ、大丈夫です。すみません」

定期券をかざした。改札が開いた。通った。

それだけの出来事なのに、1日中その5秒間のことを考えていた。

仕事中も。打ち合わせ中も。昼休みのコンビニでおにぎりを温めてもらっている間も。あの改札の前の5秒間が、ずっと引っかかっていた。

何が引っかかったのか。

手帳を開いて、金曜日のスケジュールを見た。定時で上がれば、帰宅は20時。家に着いて子どもを寝かしつけるのが21時半。その後、台所のテーブルで副業をする。いつもの流れだ。やることのない金曜日はない。

だから、引っかかるはずがない。

帰り道の駅でも、同じ改札を通った。朝と同じように、淡々と定期券をかざして、通り抜けた。何も起こらなかった。あの5秒間の違和感は、帰ってきても説明できない。

あ、そういえば。

木曜日の夜、部下が異動の辞令を受けた。その子は4月から営業企画へ移るらしい。配置が決まって、ほっとしたのかな、と思っていたけど、実際は疲れた顔をしていた。

「頑張ってください」と言った。定番の言葉だ。

「ありがとうございます。頑張ります」と返ってきた。これも定番だ。

でも、その部下の顔が、朝の改札の前で思い出された。別に何か言われたわけじゃない。ただ、その顔を見ていて、「あ、この人も何か引っかかってるんだ」と思った。でも、言葉には出していない。

15年目の会社員だから、部下の引っかかりを言葉にするのは、難しい。代わりに「頑張ってください」と言うしかない。

帰ってから妻に、その話を何度か説明しようとした。でも、説明できなかった。

「何があったの?」

妻は聞いてくれたけど、答え方が分からなかった。

「朝、改札で止まった」

「定期券が反応しなかった?」

「いや、反応した。でも、何かが引っかかった」

「何が?」

「分からない」

妻は、その後、何も聞いてくれなかった。代わりに、台所で味噌汁を温めてくれた。

子どもが寝た。いつもの時間だ。台所のテーブルで、PCを開いた。副業の画面を見ている。でも、キーボードには手が行かない。

あの部下の顔。あの改札の前の5秒間。説明できない何か。

それらが、全部つながっているような気がして、でも、つながっていないような気がして。

この年も半分以上生きてきて、こんなに説明できない感覚は初めてだった。

数字で測れない。時間で計算できない。「やることがある」とか「やることがない」じゃなくて。もっと、別のどこかにあるのかもしれない。

PCを閉じた。いつもより、30分早く。

明日の朝、また改札の前に立つ。今度は気づくのか、気づかないままなのか。

それも、まだ分からない。


では、また。


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