ファーストペンギンになりたかった人間の話
コメントを書きたい。
めちゃくちゃ感動した。
これは書きたい。
書かないと、ちょっともったいない気がする。
でも、コメント欄を見る。
まだ誰もいない。
一番乗り。
その瞬間、指が止まる。
ファーストペンギン。
誰も飛び込んでいない海へ、最初に飛び込む存在。
かっこいい。
憧れる。
私もなりたい。
でも、なりたいのと、なれるのは別だった。
「私ごときが、この素晴らしい作品に最初のコメントを書いてしまっていいのか?」
そんな気持ちになる。
大げさなのは分かっている。
ただのコメント欄だ。
一言、
「感動しました」
と書けばいい。
それだけなのに、なぜか怖い。
DMほどじゃない。
DMはもっと怖い。
あれはもう、相手の家のチャイムを鳴らす感じがする。
コメント欄は、もう少し開かれている。
でも、一番乗りのコメント欄は違う。
まだ誰も足跡をつけていない砂浜みたいで、そこに自分の足跡をつけるのが妙に怖い。
感動した。
自分の考えも言ってみたい。
私はこう思いました。
私はここで止まりました。
私はこの言葉に引っかかりました。
そう書きたい。
でも同時に思う。
作者、困らないかな。
熱量が強すぎないかな。
「一番乗りで熱弁する人」になってしまわないかな。
いや、でも。
喜んでくれるかもしれない。
自分の記事に、誰かが最初に感想を書いてくれたら、うれしいかもしれない。
いやいや。
それは自意識過剰では。
私のコメントにそんな価値があると思っているのか。
脳内会議が始まる。
書きたい私。
怖い私。
感動した私。
引かれたらどうしようと思う私。
いや、喜ばれるかもよと思う私。
自意識過剰だぞと冷静に突っ込む私。
そこへAIが言う。
「書いてみてもいいと思います😊」
出た。
AIはいつだって背中を押すのがうまい。
でも、責任は取らない。
投稿したあと、通知を気にしてそわそわするのは私だ。
返信が来るか気にするのも私だ。
変なこと書いたかなと、夜中に思い出して布団の中で丸まるのも私だ。
AIはその時間の責任を取らない。
うん。
知ってる。
あああああ。
そっと閉じる。
負けた。
私はファーストペンギンになれなかった。
でも、しばらくして思った。
私は本当にファーストペンギンになりたかったのだろうか。
いや。
なりたかった。
それは本当だ。
誰もいない場所に、最初の言葉を置く人に憧れている。
最初の一人はかっこいい。
その人がいるだけで、あとから来た人は少し入りやすくなる。
「あ、ここはコメントしていい場所なんだ」
そう思える。
最初の一人は、場を開く人だ。
だから憧れる。
でも私は、その一人にはなれなかった。
海の前で、足をぱたぱたさせて、結局飛び込めなかった。
それでもまだ、海を見ている。
誰かが先に飛び込むのを待っている。
ぽちゃん。
誰かが最初に飛び込んだら。
その瞬間、私はきっと思う。
続け。
今だ。
私は二番目のペンギンになる。
一番目にはなれなかった。
でも、二番目なら飛べるかもしれない。
二番目だって、海には入っている。
二番目だって、続く人だ。
もしかすると私は、最初に旗を立てる人ではなく、最初の旗を見つけて、その横に自分の旗を立てる人なのかもしれない。
それも悪くない。
ファーストペンギンにはなれなかった。
でも私は、二番目のペンギンになりたい。
誰かが飛び込んだあと、
「私も!」
と言って飛び込む人になりたい。
コメント欄をそっと閉じたあと、そんなことを考えていた。
そして気づいた。
コメントは書けなかった。
でも、コメントを書けなかった自分の話は、書いている。
遠慮している場所と、爆発している場所が違うだけだった。
相手の庭では、そっと閉じる。
自分の庭では、盛大に旗を振る。
そういう人間なのかもしれない。
だから今日も私は、海の前でうろうろしている。
飛び込みたい。
でも怖い。
でも飛び込みたい。
誰か。
先に行ってください。
続け。
私は二番目のペンギンになる。
あとがき
海が深いと分かってしまったから、最初に飛び込む足が止まった。
そんな感覚だったのだと思う。
感動が大きすぎると、すぐには相手に渡せないことがある。
「よかったです」
「感動しました」
それだけでいいはずなのに、その一言が妙に重くなる。
ファーストペンギンの話を動画で見たとき、私はとても感動した。
誰も飛び込んでいない海へ、最初に飛び込む存在。
かっこいい。
でも今回、私はそこにはなれなかった。
けれど、あとから思った。
一番目だけが勇気ではないのかもしれない。
最初の一人が飛び込んだあと、
「続け。今だ。」
そう思って二番目に飛び込む人がいる。
二番目が飛び込むことで、「飛び込んでもいい海」になる。
そう考えたら、二番目のペンギンも、かなりかっこいい。
私はファーストペンギンにはなれなかった。
でも、誰かの最初の勇気を孤独にしない二番目のペンギンには、なれるかもしれない。
そんなことを考えながら、そっと閉じたコメント欄のことを、まだ少し思い出している。
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