【閲覧注意】江戸川乱歩作品:犯人判明シーンベスト10【ネタバレ】
江戸川乱歩の作品群において、犯人の正体が暴かれる瞬間は、名探偵による華麗な推理、意外な証拠の提示、あるいは犯人自身の自滅といった劇的な演出に満ちています。
江戸川乱歩作品:犯人判明シーンベスト10
1. 『悪魔の紋章』:宗像博士のつけ髭を剥ぎ取る瞬間
名探偵・明智小五郎が、捜査を指揮していた宗像隆一郎博士の眼鏡を叩き落とし、口髭と顎髯をむしり取る衝撃的なシーンです。しかつめらしい博士の下から現れたのは、復讐鬼として恐れられた眼帯の男、山本始の素顔でした。
ハハハ……、宗像君、今更ら躊躇するのは未練というものだよ。それじゃ、一つ僕がそのつけ髯をはがして上げるか」 明智は云いながら、素早く宗像博士の前に近より、いきなり猿臂《えんぴ》を延ばして眼鏡を叩き落し、口鬚と顎髯とをむしり取ってしまった。するとその下から、今までのしかつめらしい博士とは似てもつかぬ、のっぺりとした無髯《むぜん》の悪相が現れて来た。
2. 『吸血鬼』:歯型が暴く「谷山三郎」の正体
明智が犯人の隠れ家で見つけた「かじりかけのチーズ」に残された歯型と、三谷房夫(本名:谷山三郎)の歯型を強引に採取して照合するシーンです。この「赤いゴム状の塊」による歯型の一致が、逃げ場のない決定的証拠となりました。
「証拠がほしいのかね」 「エエ、あれば見せてほしいものですね」 「よし今それを見せてあげる。ちょっとの辛抱《しんぼう》だ。おとなしくしているのだよ」 明智はいいながら、恒川警部に目くばせした。 「この男が、動かぬように、うしろから押さえていて下さい。歯型をとるのです」
3. 『妖虫』:一寸法師の娘が叫んだ「おっ母ちゃん」
三笠老探偵がトランクの中から誘拐した一寸法師の小娘を出し、猿具つわを解いた瞬間、彼女が家庭教師の殿村京子に「おっ母ちゃん! 早くお逃げよ」と抱きついたシーンです。この実の娘の呼びかけにより、上品な未亡人の仮面が剥がれ、彼女が「赤い蠍」の首領であることが判明しました。
一寸法師の小娘が、駈けて行って抱きついたのは、……オヤ、これはどうしたのだ。何かの間違いではないのか。……謹厳そのものの如き家庭教師殿村夫人の膝であった。 「マア、この子は何をするんです。私お前なんか見たこともありませんよ」 殿村夫人が狼狽して叫び声を立てた。 「オッ母《か》ちゃん! 早くお逃げよ。サア、早く逃げようよ」
4. 『一寸法師』:キューピー人形の破壊と一寸法師の最期
明智が巨大なキューピー人形をハンマーで砕き、その中から行方不明だった小松の死体を発見するシーンです。当初、三千子が犯人と疑われましたが、最終的に病院のベッドで息を引き取った**不具者(一寸法師)**が、蘇生した小松を再び絞め殺した真犯人であったことが判明しました。
「僕の想像は間違っていなかった」明智は欣々《きんきん》として人々の方をふり向いた。「やっぱり真犯人は外にあったのです。三千子さんは小松を殺した訳ではないのです」 「それは一体何者だ」 田村氏と刑事部長が殆ど同時に叫んだ。 「一寸法師です。今この斎藤君がもたらした新事実を報告しましょう。一寸法師は病院のベッドで息を引取りました。彼はその今《いま》わの際《きわ》にあらゆる彼の罪を告白した相です。
5. 『パノラマ島綺譚』:コンクリートの柱から流れる血
北見小五郎(明智)が、大円柱の表面にへばりついた一本の長い髪の毛を発見し、そこにナイフを突き立てるシーンです。白い地肌から真赤な血が溢れ出し、人柱として生埋めにされた夫人の死体が発見されたことで、人見廣介が菰田源三郎になりすましていたことが完全に露呈しました。
「例えば、このコンクリートの壁にくっついている一本の髪の毛ですよ」 北見小五郎はそういって、かたわらの大円柱の表面の蔦を分けて、その間に見える白い地肌から、優曇華《うどんげ》の様に生えている、一本の長い髪の毛を見せました。 「あなたは多分、これが何を意味するか御承知でしょうね。……、オット、それはいけません。あなたの指が引金にかからぬ先に、ごらんなさい。私の弾が飛び出しますよ」
6. 『黒蜥蜴』:名探偵の哄笑と「緑川夫人」への指摘
誘拐された早苗を救出した明智が、岩瀬氏と緑川夫人の前で「犯人はここに、われわれの眼の前にいます」と宣言するシーンです。優雅な有閑マダムであった緑川夫人こそが稀代の女賊「黒蜥蜴」であると指し示した瞬間、物語はクライマックスを迎えます。
「ここに、われわれの眼の前にいます」 明智がズバリといってのける。 「ホウ、眼の前に、だが、ここにはあんたとわたしと緑川さんのほかには、だれもいないようじゃが……」 「その緑川夫人こそ恐ろしい女賊です。早苗さんを誘拐した張本人です」 十数秒のあいだ、死のような沈黙がつづいた。三人が三様のまなざしをもって、お互いをにらみ合った。
7. 『D坂の殺人事件』:蕎麦屋の主人の自首と心理的敗北
明智が心理学上の「聯想診断法」を応用し、世間話を通じて旭屋(蕎麦屋)の主人を精神的に追い詰めたシーンです。物質的な証拠がないまま明智が犯人を看破した直後、耐えきれなくなった主人が自首したという夕刊が届くことで、推理の正しさが証明されました。
僕は彼に色々の話をしかけました。それも極くつまらない世間話をね。そして、彼の心理的反応を研究したのです。併し、これは非常にデリケートな心持の問題で、それに可成複雑してますから、詳しいことはいずれゆっくり話すとして、兎も角その結果、僕は一つの確信に到達しました。つまり犯人を見つけたのです。
8. 『魔術師』:鏡の中に現れた「真犯人の姿」
明智の誘導により、妙子が赤いカーテンを開けて部屋に入ると、正面のカーテンからも同じ人物が現れ、二人は見つめ合います。それが実は**大姿見(鏡)**であり、明智は「妙子さんはこの鏡の中に、恐るべき真犯人の姿を発見したのです」と告げ、彼女自身が父親殺しの犯人であることを暴きました。
「妙子さんは、この鏡の中に、恐るべき真犯人の姿を発見したのです」 明智がとうとうそれを云った。 「アア、それでは……、まさか、まさか」 一郎が、思わず叫んだ。 「ではあなたは、妹が実の父を殺した犯人だとおっしゃるのですか」
9. 『月と手袋』:帯の結び目が語る「軍隊恐怖病」の告白
明智(赤井に扮装)が、被害者の息子である結城弘一に向かって「犯人はあなたです」と突きつけるシーンです。弘一が子供時代の癖で**「縦結び」にした帯の形**や、彼の極端な軍隊恐怖から自傷行為に及んだ心理的矛盾を指摘し、一人三役の偽装を看破しました。
「それは、あなたです」 赤井さんの落ちついた声が、真正面から人差指をつきつける様な調子で云った。 「アハハ……、おどかしちゃいけません。冗談はよして下さい。どこの世界に、父親の大切にしている品物を池に投込んだり、自分で自分に発砲したりする奴がありましょう。びっくりさせないで下さい」 弘一君が頓狂な声で否定した。 「犯人は、あなたです」 赤井さんは同じ調子で繰返す。
10. 『ふしぎな人』:自分の手にあった「血まみれの斧」
家内中の者を疑い、探偵を気取っていた主人公が、半年間忘却していた**「血のついた斧」**の存在を思い出し、自分こそが父親を殺害した犯人であったことを悟るシーンです。フロイドの説を引き合いに出しながら、無意識下に潜む悪意が露呈する、乱歩らしい異常心理の帰結です。
「それで、君はこれからどうしようというのだ」 「無論自首して出るつもりだ」 「それもよかろう。だが、どんな裁判官だって、君を有罪にするはずはあるまい。その点はまあ安心だけれど。で、この間から、君のいっていた、色々な証拠物はどうなったのだい。ハンカチだとか、お母さんの櫛だとか」
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