長崎の春は、甘くて、ちょっと乾く。|桃カステラと牛乳の「負けられない同盟」の話
3月。
全国では、ひなあられや菱餅が並ぶころ。
けれど長崎では、桃がどーんと鎮座する。
そう、「桃カステラ」。
桃は中国で古くから「長寿」や「魔除け」の象徴。
日本でも邪気を払う果実とされ、「桃の節句」という名前にその名残がある。
16世紀、ポルトガルから伝わったカステラ。
中国由来の桃の吉祥文化。
このふたつが長崎という港町で出会い、手を取り合った。
ポルトガルのカステラ文化。
中国の桃の縁起文化。
まさに、甘い外交関係の結晶である。
桃カステラと、わたしの敗北
理屈はわかる。
歴史も、願いも、美しい。
だが。
わたしはこの桃カステラが大嫌いだった。
なぜなら、ダダ甘い。
しっとり優しいカステラ、と聞く。
都市伝説か?
さらに砂糖を重ねるという潔さ。
祝福の圧が強い。
……しかし。
わたしの記憶の中の桃カステラは、しっとりしていない。
どれも、これも、パサパサだった。
カステラは本来、卵と砂糖の力で立つ菓子だ。
バターで潤すタイプではない。
だからか。
口の中の水分を一瞬で持っていく。
祝いの席で、静かに奪われる唾液。
飲み物は必須だった。
牛乳は最高やった。
桃カステラ × 牛乳。
あれはもはや共闘関係。
片方だけでは成立しない同盟。
国際外交は成功したのに、
わたしの舌との国交は、いまだ正常化していない。
だから大人になった今も、
桃カステラを自分で買って食べたことがない。
あの砂糖の壁と、
パサつきの記憶が、まだわたしの中に立っている。
けれど、思うのだ。
あの過剰な甘さは、
「どうか健やかに」という願いの量だったのかもしれない。
控えめでは足りない。
遠慮なく、惜しみなく。
だから、あんなにも白く、分厚く。
願いは受け取りたい。
でも味覚は正直。
いつかの春こそ、
牛乳なしで向き合える日が来るのだろうか。
それともやはり、
グラスを片手に和解するのか?
長崎の春は、甘くて、ちょっと乾く🍑🥛
なんのはなしです菓?
