【南インドの重要な神様】クリッティカーから生まれたムルガン神のお話
インド占星術を学び、ナクシャトラについて知っている方は、インドの神話を知れば知るほど混乱することもあるはずです。
神話によって、驚くほど物語が異なるからです。
今回は、南インドの土着のムルガン神の神話のお話をしていきます。
どういうこと?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こういう神話もあり、別の神話もあるんだと思っていただけたらと思います。
何が正しい、何が間違っているという解釈ではなく、神話を通して、色々な学びを得ることができるのが、インドの神話なのですから。

【ムルガン神の神話】
クリッティカー・ナクシャトラの支配神は「アグニ神」。
神話を読むと、
「ムルガン神はクリッティカーから生まれた。」
あるいは、
「6人のクリッティカーに育てられた。」
と書かれています。
「クリッティカーは6人いるの?」
「ムルガン神は、シヴァ神と女神パールヴァティの息子じゃないの?」
などと、最初は私も頭の中が「?」でいっぱいになりました。
でも、この神話を知ると、その意味が少しずつ見えてきます。
昔、タラカという強大な悪魔がいました。
彼は長い苦行によってブラフマー神から祝福を授かります。
その祝福とは、「シヴァ神の息子にしか倒されない。」
というものでした。
ところが当時のシヴァ神はカイラス山で深い瞑想に入り、子どもを授かることなど誰も想像していませんでした。
そのためタラカは、自分を倒せる者はいないと考え、神々を苦しめ始めます。
困り果てた神々は、シヴァ神とパールヴァティが結ばれ、神の子が誕生することを願いました。
やがてその時が訪れます。

シヴァ神の第三の目から、まばゆい光の炎が放たれました。
その炎はあまりにも強く、神々でさえ触れることができません。
火の神アグニがその炎を受け取り、さらにガンジスへと運びます。
しかしガンジスもその力を受け止めることができず、炎は葦の茂る湖へと流れ着きました。
その場所は「サラヴァナ」と呼ばれています。
そのためムルガン神は、サラヴァナバヴァ(葦の湖から生まれた者)という名前でも知られています。
その湖から現れたのは、一人の赤ん坊ではありませんでした。
六人の赤ん坊だったのです!
その六人を見つけたのが、クリッティカーと呼ばれる六人の母神でした。
ここで占星術を学ぶ人は驚くことでしょう。
「クリッティカーって、一人じゃないの?」
実は、クリッティカーとは夜空に輝くプレアデス星団を神格化した六人の女神たちの総称です。
つまり、ナクシャトラの名前にもなっているクリッティカーは、もともと六人の母神の名前でもあったのです。
六人の母神は、それぞれ一人ずつ赤ん坊を抱き、大切に育てました。
やがて女神パールヴァティは、その六人の子どもを優しく抱きしめます。
すると奇跡が起こりました。
六人は一人になったのです。
しかし六人の母への感謝を忘れないよう、顔だけは六つ残りました。
こうして誕生したのが、シャンムガ(六つの顔を持つ者)あるいはタミル語でアルムガンと呼ばれるムルガン神です。
そして、クリッティカーに育てられたことから、
カルティケーヤ「クリッティカーの子」という名前でも、呼ばれるようになりました。
この神話は、単なる誕生物語ではありません。
一人の人間は、一人だけに育てられるわけではない。
親だけではなく、先生、友人、自然、社会、そして神仏。
多くの存在に育てられながら、一つの人格になっていく。
六人の母神は、そんな「育まれること」の象徴のようにも見えます。
インドでは、神話は歴史を語るためだけのものではありません。
人生をどう生きるかを教える物語でもあります。
だから神々の物語は、読むたびに違う意味を見せてくれます。
クリッティカーから生まれたムルガン神の神話もまた、
「人は一人で成長するのではない。」
そんな大切なことを、静かに伝えてくれているように思います。
そして占星術を学ぶ人にとっても、この神話を知ることで、「クリッティカー」という名前が単なるナクシャトラではなく、神話・星・母性・成長が重なり合う象徴であることが、より深く感じられるのではないでしょうか?

【南インドでは6=ムルガン神と結びついている】
ちなみにですが、南インドでは、「六」という数字はムルガン神と深く結びついています。
例えば、
六つの顔(シャンムガ)
六人の母(クリッティカー)
六大聖地(アールパダイ・ヴィードゥ)
六文字のマントラ「Sa-Ra-Va-Na-Bha-Va(サ・ラ・ヴァ・ナ・バ・ヴァ)」
など、ムルガン信仰では「六」が繰り返し現れます。
インドの神話は、知れば知るほど奥が深く、色々な世界を教えてくれますね。
