空の旅 シロクマ文芸部
fly me around the Earth 【500字】
空の旅は寒さとの闘いだった。
深い青は氷点下。こうなるともう論外だ。明るい青でも一桁の気温だった。
でもいいこともあった。苦しいことも、悲しいことも寂しさも、そんな感傷はすべて脇に追いやっておくことができた。
考えてもみてくれ。どうして僕がここにいるのか、どうして地球を回っているのか、意味がわからない。人工衛星でもあるまいし、有益なことをしているなんて到底思えない。
地球はそれでも青い。海はどこまでもなだらかなグラデーションで、陸地は緑と茶系のパッチワーク。それが感情を擦りつぶした青い大気に包まれている。
こんなにも輝くところにいる。それなのに情緒は凍りついている。
苦し紛れに体を丸めると高速で回り出した。なんだか地球をかき回している気になるけれど、僕はあまりにも小さすぎる。
そう。僕は小さ過ぎた。そして君はそれに我慢できなかった。ただそれだけの話さ。でも君がそれほどまでに憤っているとは知らなかったよ。
ようやく寒さも和らいできた。それはつまり感情も弱くなったということだ。君への愛しさも悲しみも。
あの日、ベランダから飛び立った僕が急に地球周回軌道に入ったのは、こうして彼(か)の世界に馴染むためだったんだ。
了

小牧部長さま
よろしくお願いします
