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#95 アフリカにおけるロシアの影響力──ワグネルから「アフリカ軍団」へ

AFRICANIST 基礎リサーチシリーズ #95

はじめに

冷戦終結後、ロシアはアフリカから一時的に後退していた。しかし、プーチン政権の登場以降、特に2010年代後半から、ロシアのアフリカへの関与は急速に拡大している。軍事顧問、傭兵集団、資源外交など、多層的な関係構築が進められている。本稿では、ソ連時代の遺産から現在のロシア・アフリカ関係、そしてワグネル・グループから「アフリカ軍団」への展開に至るまでの流れを、学術的に検証する。

第1章 冷戦期から1990年代──ソビエト遺産の形成と縮小

1-1 ソビエト連邦の対アフリカ戦略

ソビエト連邦は、1960年代から1980年代にかけてアフリカ大陸に強大な影響力を持していた。社会主義イデオロギーと反帝国主義のスローガンは、新興独立国家の多くの指導者に訴求した。モザンビーク、アンゴラ、エチオピア、ジンバブエなどで、親ソビエト政権が樹立された。キューバとの連携により、軍事顧問やキューバ兵が多くのアフリカ国に派遣された。

ソビエトは、教育分野でも重要な役割を果たした。アフリカ各国の指導者層、特に軍幹部やエンジニアが、モスクワの各種学校で訓練を受けた。この教育交流は、冷戦終結後も関係継続の基礎となった。

1-2 1990年代のロシア・アフリカ関係の停滞

ソビエト連邦の崩壊は、アフリカ外交の縮小をもたらした。経済的困窮、政治的混乱、国内統一の課題により、ロシアはアフリカに対する関心と投資を大幅に削減した。この時期、アフリカ大陸への影響力は、旧ソビエト連邦よりも西欧諸国に傾斜した。ただし、ソビエト時代の関係はまったく消滅したわけではなく、一部の親ロシア的人脈が政治・軍事エリート層に存在し続けた。

第2章 プーチン政権のアフリカ回帰(2000年代~2010年代)

2-1 プーチン政権の対外戦略転換

プーチン政権は、2010年代からアフリカへの関心を再び高めた。これは、西欧諸国との対立が深まり、「多極化」戦略が重視される中での動きであった。アフリカの55か国は国連加盟国の約30%を占め、国際投票で重要な役割を果たす。特にウクライナ問題やシリア問題などで、国連投票の支持獲得がロシアの戦略目標となった。

同時に、ロシアの国家企業(特にロスネフチなど石油・ガス企業)がアフリカへの投資を開始した。リビア、スーダン、ナイジェリア、アンゴラなどの石油・天然ガス資源へのアクセスが目指された。

2-2 ロシア・アフリカサミットとダイアロゴ拡大

2019年にはロシア・アフリカサミット(Sochi Africa Summit)がソチで開催され、39か国以上のアフリカ国家指導者が出席した。このサミットは、ロシアのアフリカ政策の象徴的転換点となった。経済協力、軍事技術移転、エネルギー協力などが多角的に討議された。

また、このサミット以降、ロシアとアフリカの軍事・防衛関係が急速に深化した。ロシアの防衛企業(Rosoboronexport)による兵器輸出が拡大し、アフリカはロシア兵器の主要な購買地域となった。

第3章 ワグネル・グループのアフリカ展開

3-1 ワグネル・グループの登場と初期活動

ワグネル・グループは、元々はシリア紛争(2015年~)での傭兵派遣で知られた民間軍事企業である。しかし、2017年頃からアフリカでの活動を本格化させた。マリ、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国(CAR)などの内戦・紛争地域に派遣されたとされている。

ワグネルは、それぞれの地域で政権勢力を支援し、反体制勢力や過激派組織に対する軍事作戦に従事した。金銭的報酬の他に、鉱物資源(特に金やダイヤモンド)の採掘権という形での報酬を受けた可能性が高い。

3-2 マリ・ブルキナファソでの実績と影響

マリでは、2021年の軍事クーデター後、ワグネルがマリ軍指導部と契約を結んだと報告されている。テロ対策という名目で、テロ組織へのの掃討作戦が実施された。しかし、市民被害の報告も相次ぎ、国際人権団体から批判を受けた。

ブルキナファソでも、2022年のクーデター以降、ワグネルの活動が報告されている。サハラ地域での無差別的な作戦については、Human Rights Watchなどが調査報告書を発表している。

3-3 リビア、中央アフリカ共和国での展開

リビア内戦では、ワグネルが東部勢力(ハリファ・ハフタル将軍率いる「リビア国軍」)を支援したとされている。これはロシアの地政学的戦略の一部であり、シリアでのアサド政権支援と同様の論理で展開された。

中央アフリカ共和国では、2019年から2021年にかけてワグネルの数百人規模の派遣が確認されている。鉱物資源の採掘利権と政権維持の安定化がワグネルと現政権の利益一致点となった。

第4章 「アフリカ軍団」への転換とワグネル後のロシア戦略

4-1 ワグネル・グループの解散と組織再編

2023年6月、ロシアの傭兵指揮官エフゲニー・プリゴジン率いるワグネル・グループは、ロシア国防省との対立が深刻化し、実質的に解散に追い込まれた。プリゴジンはウクライナで死亡したと報告された。

しかし、ワグネルの活動は完全には終了せず、新たな形で継続された。アフリカに派遣されていたワグネル戦闘員の多くは、ロシア国防省の下で「アフリカ軍団(Africa Corps)」という新しい組織に編成されたとされている。

4-2 「アフリカ軍団」の構造と展開

「アフリカ軍団」は、ロシア国防省の直接統制下にある。従来のワグネルのような私営軍事企業の形態をとらず、より公式なロシア軍の組織構造に統合された。これにより、法的責任の回避がより容易になった可能性がある。

アフリカ軍団の兵士数は、報告によって異なるが、数千人規模と推定されている。彼らはマリ、ブルキナファソ、CAR、スーダン、そしてリビアで継続的に活動しており、現地の政権に対する軍事支援を提供している。

4-3 資源獲得と経済的利益

ロシアのアフリカにおける軍事プレゼンスは、純粋に地政学的動機だけではなく、経済的利益と密接に結びついている。特に金やダイヤモンドなどの貴重な鉱物資源へのアクセスが重要である。ワグネル時代、そしてアフリカ軍団の時代を通じて、ロシアのアフリカ進出は資源獲得戦略の一部として機能している。

第5章 ロシアのアフリカ関与の国際的影響と課題

5-1 国連投票とアフリカの戦略的価値

ロシアのアフリカへの関与は、国連投票において直接的な政治的利益をもたらしている。2022年のウクライナ侵攻後、国連総会での投票では、多くのアフリカ国がロシア非難決議に棄権または反対票を投じた。これはロシアが事前に構築した関係を反映している。

アフリカ・ブロックの54票は、国連総会における少数派の投票行動を支援するのに十分な規模である。ロシアがアフリカでの影響力拡大に投資する理由の一つは、こうした国際投票における戦術的利益である。

5-2 西欧諸国との競争

アメリカ、フランス、その他の西欧国家もアフリカへの関与を継続しており、ロシアとの競争関係が形成されている。特にフランスは、旧植民地国における伝統的影響力に基づいて、マリやブルキナファソなどでロシアと対立している。2023年から2024年にかけて、マリやブルキナファソでフランス軍が撤退される中で、ロシアの相対的な影響力が高まっている。

5-3 懸念事項と人権問題

国際人権機関は、ワグネル/アフリカ軍団の活動に伴う市民被害、拷問、略奪などの問題を繰り返し指摘している。これらの活動の説明責任のなさは、アフリカの市民社会からの批判を招いている。

また、ロシアのアフリカ戦略は、長期的な開発協力よりも短期的な政治的・軍事的利益を優先する傾向があるとの指摘もある。この戦略が、アフリカ諸国の民主的発展や法の支配にどのような長期的影響をもたらすかについては、まだ完全な評価は難しい。

おわりに

ロシアのアフリカへの関与は、ソビエト時代の遺産を背景としつつ、プーチン政権の多極化戦略と資源外交の文脈で急速に拡大している。ワグネル・グループから「アフリカ軍団」への展開は、この関与の形態がより公式化・制度化されていることを示唆している。

国際政治における「新しい冷戦」的競争の文脈で、アフリカ大陸の戦略的重要性は高まっている。ロシアのアフリカ戦略は、従来の西欧主導の国際秩序に対する挑戦の一部として機能している。今後、このダイナミクスがアフリカ諸国の自律的発展にどのような影響をもたらすかは、重要な研究課題となるだろう。

主要参考資料

  • International Crisis Group (2021). "Russia and Africa: Resetting the Relationship." ICG Policy Brief, Africa Report No.198.

  • Human Rights Watch (2023). "Entrenching Brutality: Russia's Influence and Abuses in Mali." HRW Report.

  • Zenn, Jacob (2023). "The Wagner Group and Other Russians Fighting in Africa." CTC Sentinel, Vol.16, No.2.

  • Pézard, Stéphanie & Pérouse de Montclos, Marc-Antoine (2021). "Russia's Military Engagement in Africa." RAND Corporation Analysis.

  • Faulkner, Benjamin (2022). "Shifting Alliances: Russia's Growing Influence in the Sahel." Journal of Strategic Studies, Vol.45, No.3.

  • Tull, Denis (2021). "Russian Perspectives on African Development and Security." German Institute for International and Security Affairs (SWP) Working Paper.

  • Maté, Aaron & Blumenthal, Max (2023). "The Wagner Story: From Syria to Africa." The Grayzone Analysis.

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