扉の街ジャーニー 4 #リトルストーリー SNV-008-4
第4章
このパゥンには、
味はあるのだろうか?
見た目で選ぶしかないようだ。
「0から9」の10桁の数字の中から
いくつかを選ぶのは、
正直に言って とても難しく思えた。
生まれてから今日までの
私の人生において、
あっちにも
こっちにも
というぐらいに
数字は存在していて…
改めてよく考えてみると、
まるで、数字の海の中を
泳いでいるようにも
感じられてくる。
一つでも 欠けてしまうと、
何か欠落してしまいそうな
そんな気がした。
それぞれのパゥンの味が分かれば、
その中から選ぶのだけれど
見た目は、
とにかく数字の形をしているだけで、
色もほぼ同じだった。
味についての説明書きは、
どこにも書いて無いようだ。
とにかく全部買って
全てのパゥンを味わってみるのは
どうだろう。
それぞれの味はそれで分かる。
この小ぶりな数字のパゥンは、
私に何かを
訴えている…
と思えてならなかった。
このパゥンから、
未来への入口に繋がっているような、
不思議な吸引力を感じていた。
頭の中は、
あれよあれよと
想像と妄想がいっぱいに溢れていた。
梟さんは、
なぜこの数字形のパゥンを
売ることになったのだろうか…
作っている人はどんな人だろう…
家の冷蔵庫に
美味しいブルーベリージャムがある
パゥンに塗れば、
味は間違えない。
決めた!
全部買ってしまおう!
決めた途端に
身体の動きが
軽くなっているのを感じた。
トングでパゥンを丁寧に挟み、
数字順にトレイに並べて、
レジカウンターに近づくと、
梟さんがカウンター脇の扉から
素早く現れて
手早く会計をしてくれた。
「このパゥンは、
なんの味かが分からずで、
全部買うことにしました…
それで…
どんな味なんですか?」
「数の味です。
その人による数の味なのです」
「食べる人による数の味…?」
「そう。このパゥンは、
食べる順番によっても、
その味が変わってくるみたいで」
「食べる順番…?」
「あと、今日の夜の12時までに食べない
と…」
ガチャッ…
レジカウンターの脇のドアが開いた。
1人の白衣を着た
大柄そうな男性が、
覗き込むように顔を見せた。
多分、この店の職人さんだろうか。
背が高くて体格のよい体付きが
印象に残った。
こちらにも
挨拶代わりの小さな会釈を
送ってくれると…
梟さんに話し掛けた。
「時間だから出掛けるね」
「そう。行ってらっしゃい。」
梟さんがそう声を掛けると、
パゥン職人のマッチョな彼は
「行ってきます!」
と応えた。
梟さんは
銀縁で彫金の眼鏡を
すこし下にずらしながら
「栄知の村のおじさんにも
よろしく伝えてね」
と言うと、
彼は「了解!」
というサインの代わりかのような、
口の端を横にギュッと引いたクールな笑みを浮かべながら、
ドアの奥に戻って行った。
「ごめんなさいね。
お話しの途中に」
「大丈夫です。
…12時までに食べないと…って
どうなるのですか?」
「私もよく分からないの
でも、噂では
小さな動物に変身するとか
しないとか?
作っている職人が
そう言っているの」
「小さな動物?
それは、ちょっと困りますね。
可愛い動物ならいいけれど。」
「だから、
今日中にというわけです。
味は、あなただけの味がするわ。
誰とも違う、貴方だけのね」
「分かりました。
なるべく早めに食べます。
パゥンの味が
楽しみになってきました」
「では、よい1日を」
「ありがとうございます。
店長さんもよい1日を」
私は、入って来たときのトンネルのような階段をくぐり抜けて
ロイヤルグリーンで一色に包まれた
『パゥンの森』
というこの店を後にした。
※
足取りは軽かった。
数字のパゥンを
どこで、どうやって、
食べ始めようか…
どの数から、
どんな順番で食べようか…
夜の9時までには食べることにしよう…
残り時間は 約半日…
今日の食事は
オール パゥンズになりそうだ。
体も動かして、頭も動かして、
エネルギーを消費しないと、
明日の体重計が大変なことになる。
でも、今日は、
「10桁」の数を食べる運命の日…
…なのかも知れない。
私は、パゥンが食べれる場所を探しながら
朝来た道を戻るように、
駅に向かって歩き始めた。
つづく…
