『VISON VISU』 時空が合ったら、またおいで ~CDジャケットと音楽~
いつの間にか、時空の旅人となってしまったらしい。
何の気なしに歩いているときらきらと目の前が光って、勝手に大きなシャボン玉に包まれてしまい、それがぷんと弾けると何処だかわからないところに佇んでいる。
今日も今日とてきらきらがやってきて、あっという間で果樹園のなかに。
目の前には椅子にやわらかく座った二人の紳士。
さして驚いた様子もなく「やあ、いらっしゃい」と出迎えてくれた。
こんな時でも、とりあえず自分の椅子はないものかと探してしまうのは時空の旅にも小慣れてきた証拠か。それとも生来の厚かましさの所以か。
二人の話によると、ここは時空の停留所とのこと。
焦っても仕方ないよと言う先客とともに他愛もない会話を楽しんでいると、程なくして目の前が煌めきだした。
どうやら自分のきらきらが先にきてしまったようだ。
名残惜しさのなかで別れを告げると、二人の紳士が声をあわせて言った。
「時空が合ったら、またおいで」
ここでの決まり文句らしい。
次に時空が合ったならば、もうひとつ椅子はないかと聞いてみることにしよう。
。。。
少し不思議で穏やかなお話を語りたくなる、そんなジャケット。
向かい合った(vison-visu)二人。
その座り方のなんとも言えない柔らかさが気に入っている。
最近読んだ梨木香歩の『家守綺譚』とこれを原作とした近藤ようこの作品に触発されて、穏やかで不思議な世界に身を任せ気味な今日この頃。
藤子・F・不二雄のSF短篇集も本棚から引っ張り出した(「穏やか」とは言えないお話も多いけれど)。
走り出した師走にあらがう時間をひっそりと楽しんでいる。

『VISON VISU』 (LGP0824)
演奏者
Robin Fincker テナーサックスとクラリネット
Janick Martin ダイアトニック・アコーディオン
写真 José Luis Bongore
グラフィックデザイン Robin Fincker と Gérald Martin
レーベル Le Grand Pas(Redon, France)
リリース 2025年
形式 デジパック4パネル トレイ1 ブックレット付き
曲目
1. Écoutez la plaisante histoire 5:23
2. Tomcat 04:17
3. Oregon 05:56
4. Lasius Niger 01:03
5. Vison Visu 05:39
6. Maen Kuz 04:59
7. Bonites 01:38
8. Al lann melen / Echoes of the riverbanks 07:58
9. Hmongst 02:03
10. La danse de Mardi Gras 04:46
11. Gorgonacea 05:14

音楽の感想:
このマガジンでは2回目の登場となるダイアトニック・アコーディオン奏者の Janick Martin と サックスとクラリネット奏者の Robin Fincker によるデュオ。
前に紹介した一枚『Sông Song』は、エレキギターとトロンボーンとのトリオ(ゲストで Fincker が参加)演奏が収録されたもので、アコーディオンのキレの良い音とリズムにダンスとの強い繋がりを感じるようなものだった。
今回はリズムの強さやキレの良さりも、曲によってざらざらしたり、透き通っていたりするアコーディオンの長く持続する和音の流れが印象的で、空間を埋め尽くし押し広げていくような力があったように思う。
時にはやわらかくはらはらと軽やかに舞い、時には力強く歪んだ音でこぶしを効かせて歌い上げるサックスとの相性もよく、お互いに旋律を引き継ぎながら曲を展開していく感じには一対一で向き合ったデュオを聴く醍醐味があった。
ライナーノーツに記された曲目についての短文や演奏者以外の作曲者の名前をみると、今回はトラディショナルな音楽との繋がり(ブルターニュ、ケルト、ケイジャン、アメリカンフォーク、バンジョー音楽)を確認するような内容だったように思う。
曲目1は歌手 Roland Brou が歌うブルターニュの東部地方の伝統的な歌に拠ったもの。
曲目3はアメリカの伝説のバンジョーマンこと Derroll Adams のために、アメリカ生まれでベルギーを根拠とするフォークシンガーの Tucker Zimmerman が作曲したもの。フランスのバンジョー奏者 Youra Marcus の演奏で聴いたことがきっかけらしい。
曲目6はケルティック・ハープ奏者で John Surman とも共演している Kristen Noguès の作曲。
曲目10はフィドル奏者で歌手、ケイジャン音楽の開拓者 Dewey Balfa の作曲。
ちなみに Robin Fincker 作曲の曲目5には〇〇節といった民謡の趣があった。
なぜだかは分からないけれど、その土地に根差した(または世界中に伝播した)伝統的な旋律を聴いた時の胸奥の小さな部分を掴まれる感じ。
ところどころできゅっとする一枚だった。
参考動画:
色とりどりな朝の vison visu
色褪せた夜の vison visu
