したたかに笑って|アマノ文筆クラブ
記憶の中の母はいつも笑顔だ。
母の口癖は 「なんとかなるわよ」
そう言って、いつも笑っていた。
父の事業が傾いたときも、家を手放したときも、
母の笑顔は変わらなかった。
近所の人は、母を「したたかな人」と言った。
気丈だ、たくましい、と。
決して良い意味だけではないことは、当時学生だった私にもわかった。
幼いころは大好きだった母の笑顔が、だんだんと私は嫌いになった。
なぜ笑うのだろう。
泣けばいいのに。
怒ればいいのに。
笑っていられる状況じゃないのに。
母の死後、箪笥の中から一冊のノートが出てきた。
日記だった。
家を手放した日の、ページ。
一行だけ。
「今日も笑えた。よく頑張った、私」
笑うことが、母にとっては闘いだったのだ。
それに気づくには私は幼過ぎた。
私はその日記を胸に抱いた。
母のようには、笑うことができなかった。
甘野充さんの、アマノ文筆クラブに参加します。
その昔、私は「強か」という字が読めませんでした。
今は、この字を見るたびに
いくつかの後悔と愛おしさを感じます
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