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私、どろんします丨アマノ文筆クラブ

休日だというのに、休む暇などなかった。

遅い朝食の後、
洗濯、掃除、

軽い昼食をとり、
買い物。
子どもの相手。

そんな私をよそに家族の皆は
それぞれの休日を過ごしている。

主婦はそうはいかない。

家事の合間に仕事のメール返信。
雑事。
気づけば、もう夕方。

洗濯物を取り込み、たたみ。
夕飯の準備。

何やら落ち着かない夕食をとり、
やっとソファに座る。

でも、まだ、やることがある。
食器を洗って。
明日の準備をして。

お風呂を洗って、湯を入れて。
・・・終わらない。

やることを考えるのをやめた。

ああ、私、どろんしたい。
忍者みたいに、煙のように消えたい。
誰にも気づかれずに。

世の中で家出したり、失踪したりした人の中には
少なからずこんな状況に見舞われた人がいるに違いない。

私の場合は、もちろん、本当に消えたいわけじゃない。
ただ、少しだけ、一人になりたい。

私は、やおら立ち上がり、家族に言った。
「ちょっと、コンビニ行ってくる」

嘘じゃない。
本当に、コンビニには行く。

その道すがら、カフェに入った。

コーヒーを注文して、窓際の席に座る。
幸い客の中に見知った顔はない。
誰も話しかけてはこない。

スマホは、鞄の中。
ただ、コーヒーを飲む。

外を見る。
人が、歩いている。
車が、走っている。
私は、ここにいる。

まるでテレビを見ているような気がした。
窓から見る外の世界では、今誰も私を必要としていない。

10分だけ。
それだけでいい。
葉隠の術、と私は唱えた。

自らの気配を消し、
コーヒーが少なくなってきたとき、
私は気づいた。

忙しいのは本当だ。
やらなければならないことを優先しているのも本当だ。

でも、やり方をもう少し工夫することはできるのかもしれない。
完璧主義を捨てて、どこかで妥協することができるのかもしれない。

そんな当たり前のことに気づけたのも
このコーヒーのおかげだ。
そう無理に思い込んで家族への罪悪感を和らげる。

コーヒーを飲み干して、私は立ち上がった。
コンビニに寄り、牛乳を買って家に帰った。

「遅かったね」
「うん、ちょっと寄り道した」

嘘じゃない。
けれど束の間、私は、どろんしてきた。

「ねぇ、お母さん」
日常に戻ったへっぽこ忍者の周りに、
さっそく子どもたちがまつわりついてきた。




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