観覧車の頂上で|それぞれの恋③
「次、ジェットコースター乗ろうよ」
隣を歩く健太が提案した。職場の後輩。優しくて真面目。そのうえ最近アプローチしてくれている。
「いいね」
私は笑顔で答えながら、どこかで優也と比較している。
あの時は優也がジェットコースターを怖がったせいで、結局二人で観覧車ばかり乗っていたっけ。
(なんで今、そんなことを思い出すんだろう)
優也とは半年前に別れた。喧嘩別れしたわけじゃない。遊園地の後、自然に距離ができた。お互い疲れてしまって。連絡をとっていないだけ。
健太は違う。積極的で、デートプランも完璧。今日も朝からスケジュールを組んでくれていた。
「あ」
ポップコーン売り場の前で、私は声にならない声を上げた。
優也がいた。隣には見知らぬ女性。ショートカットの可愛い人。二人でポップコーンを分け合っている。
健太が私の視線に気づく。
「知り合い?」
「昔の...友達」
嘘をついてしまった。
優也も気づいて私を見た。一瞬、時が止まった。
彼は女性が気づかない程度の小さな会釈をして、歩いて行った。普通に。何でもないように。
「元カレ?」
健太の声が優しい。
「ごめんなさい」
「謝ることないよ。人間だもん、そういうこともあるって」
なんて大人な対応なんだろう。優也だったら、きっと機嫌を悪くしていた。
けれど、健太の言葉を素直に喜べない自分がいる。
観覧車に乗った。健太が窓の外の景色を指差して、いろいろ話しかけてくれる。
私は相づちを打ちながら、こちらを見た優也の顔を思い返していた。
幸せそうだった。新しい恋をしているのだろう。
「可愛い子だったね」
健太がぽつりと言った。
「え?」
「さっきの人。君の元カレと新しい彼女でしょ?」
私は何も答えられなかった。
「でも、君の方がずっと可愛いよ」
健太は笑って、私の手を握った。
温かい手だった。年下なのに優也の手よりも大きくて、しっかりしている。
思わず涙が出そうになった。
「ありがとう」
私は精一杯の笑顔を作った。
観覧車はゆるやかに昇っていく。
優也との思い出と、健太との現在。
静かな観覧車の中で、なぜこんなに心が揺れるのだろう。
観覧車が一番高いところに着いた。遊園地を一目で見渡せる。
私は決めた。
(そうだ。今は健太との時間を大切にしよう。比較するのはやめよう)
決心して健太と見下ろす地上に、優也と彼女の姿が見えた気がした。
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